街に出ると、高低差のある入り組んだ路地に、様々な人種と飛び交う言葉に一瞬めまいを覚える。
喧騒に近い市場の通りを外れて、路地を登って行った。
ここは、11世紀のパレルモ。200年ほど前からイスラムの国が統治しているが、元々はギリシャ・・・東ローマ帝国の管轄があったところであり、文化も人種も混合されている。東西の貿易はコンスタンティノーブルと並び盛んな国であり、首都として30万人もの人口を誇る大都市である。
パレルモの街を見下ろせる高台に来る。
街外れには、忘れ去られたようなギリシャ、ローマ時代の遺跡が朽ちかけている。
実際には、石なので朽ちることはないが、大理石の円柱が空しく宙に伸びている。
俺は下を見下ろした。
300も500もあるというモスクが高台からキラキラと輝いている。
海には美しい帆船や、ガレー船が港を出入りするのが見える。
俺は、この風景が大好きだ。
海から追い上げる温かい潮風が町中を吹き渡り、心地よさに思わず目を閉じる。
若いときは血気盛んだったなぁと思い返す。
20代前半のことだったか、海賊の一味を捕らえて集団リンチにかけたこともある。そして、仲間の居場所を吐かせるためのひどい拷問もしたものだ。
高台からは見えないが、右手の街外れの崖が多い地下には洞窟が多い。
洞窟には至るところに牢が作られていたり、拷問用の洞窟もある。
わがファミリー専用の洞窟で、水攻め用の”檻”もちゃんとあった。
数人を一緒に吊るして、水に漬けたり引き上げたり・・・最近は使っていないなぁ。
第一線を退いてからは、ほとんどを部下に任せているので、久しく拷問の現場は見ていない。
わがファミリーは、数少ないローマ時代からの純血を保っている由緒ある血筋であり、この大都市には欠かせない秩序を守るために必要な家柄だった。
オヤジはまだ元気、俺は気楽な次男坊。
別に名声や権力は欲しい奴が奮っていればいい。
金も女も何もかも不自由のない楽しい生活があれば上等だ。
ふと、父親の言葉を思い出し、「そろそろ、潮時かなぁ」とひとりごちた。
・・・つづく


