俺は、少し前から病床についている。
もう77歳を過ぎた老体に冬の寒さがこたえる。
きっと、この冬は越せないだろう。
ベッドからふと、窓のほうを見る。
狭い部屋の窓からは、眩しすぎるくらいの陽光が斜めに部屋を横切っている。
薄汚れた青っぽい木の扉を隔てて、すぐ外を村の子供達が駆けていくのがわかった。
坂をのぼると村の小さな教会があるのだ。
狭い路地の両脇の建物を仰ぐと青空が見えるのだろうが、ここ数日は外にも出ていない。
狭い部屋には、自分以外にもう一人。
ベッド脇に置いた椅子でうたた寝をしている老女が一人。
老女と言うほどでもないか・・・
年は聞いていないが、50歳はすぎたのだろうか?
18年、そばにいてくれるこの女が何を考えているのか、実はよくわかっていない。
生真面目で、良く働き、表情をあまり変えない女。
器量もあまり良くないが、自分にとっては都合がよかった女。
昨夜もきっと、頼まれた内職を仕上げたのだろう。
手のしわと猫背に曲がった背中が見える。
あーあ
こんなはずじゃなかったのになぁー
故郷のパレルモに思いを馳せる・・・
闇夜に浮かぶ島影と、街の明かりが右後方に遠ざかっていく幻影。
俺は、懐かしい記憶をたぐり寄せながら眠りについた。
・・・つづく