南北朝時代の2回目のソウルファミリーパーティーは、かなりのカルマを清算する場になった。


数多くの

毒殺

呪詛

金銭の強奪(たぶん盗みというものではないが・・・)


呪詛は、南朝側の貴族・・・つまり、後醍醐天皇の息子たちをも対象にしていた。

毒と呪詛合戦。

その時は動機がはっきりわからなかったが、今ならはっきりとわかる。

幼い少女が味わった屈辱と、妬み。

本当は、そちら側に行きたかった。


ソウルファミリーパーティーの最後に行う儀式は、前世供養である。

M先生から、供養しながら過去にさかのぼれる人はさかのぼっていいと言われた。

そこで見たものは、私にとって

吐き気を催すくらい気持ちの悪い光景だった。




魂の追憶 2


暗闇に浮かぶ「それ」は、醜悪な臭いを放っていた。

赤いというよりは、ピンクがかったブヨブヨとした物体・・・

よく見ると、薄汚い毛が下から上へと生えている。


醜悪な臭いは、毛から滴るような液体から放たれているようだ。

思わず、悪臭にむせ返りそうになる。

吐き気をこらえながら、それでもその方向を凝視してしまうのだった。




「それ」はゆっくりと動き出した。

ブヨブヨした丸みをおびた「それ」がぶるんと揺れる。

動くたびに張りのある部位と皺が伸び縮みする部位とが

不思議な動きをしている・・・


まるで、みたこともないような生き物のようにも見えた。




スローモーションのように近づいてくる「それ」に対して

「来ないで」とも、

悲鳴をあげることも、

後ろにさがることさえも出来なかった。



完全に体が動かないのである。



特に縛られているわけではない。

ヘビに睨まれたカエルとはまさにこのこと。



暗闇から、一人の男の顔が浮かび上がる。

わかってはいたハズであったが、

こんな醜悪な男は初めて見たような気がした。

ピンク色にプルプルと突き出た腹からまばらに生えた胸毛、

顔はまともに見ることは出来なかった。

一瞬見た顔は、なんとも不気味ですぐに目をそらした。




本当に恐ろしくて、視界に入ってくるのは腹の部分ばかりである。

日中見ている尊氏とは、違う生き物のようである。

まさか、魑魅魍魎の類なのか?

そんなことはないはず・・・



考える間もなく、意識が暗闇に消えていった・・・














私の夫は、戦で亡くなってしまった。

武将であったのだから、仕方のないこと・・・

20代半ばであったから、私にとっては早すぎる。


彼は私には跡取りを残してくれなかった。

正確にいうと、私との跡取りは不要であったということだろう。

私に残された娘とどうやって暮らしていけばよいのだろう?

両者の戦いが大きくなってきた昨今、南朝の実家に戻ることはできるのだろうか?




そんな折に、「何も心配することはない」と

将軍として声をかけてくださったのが足利尊氏であった。

自分の甘さに悔しさがこみあげる。

しかし、未亡人となった妻の立場は非常に弱い。

20代前半の小娘に何ができようか・・・




まさか、私がこんな運命になろうとは!!

夫を愛していなければ、こんなに死んだ夫憎むこともなかったろう。

ましてや、こんな境遇に陥ることになり、さらに夫が憎くなった。



死者を憎んでもどうしようもない。

わかっているが、憎んでいたかった。

死んだ夫も憎いが、自分の周りの人や環境すべて!!が憎い。

自分以外の幸せそうな人間を見ると、無性に腹がたった。



もしも、私が南朝側の人間だったら、

こんなことにならなかったのかもしれない。

南朝側の異母兄弟達はなんと幸せそうなんだろう?

北朝側の武士たちはなんと粗野でみっともないんだろう?



理由はなんでもよかったのかも知れない。



とにかく、気に入らない人物には毒を盛り、呪詛をかけまくった。

もちろん、自分で手を汚さない。

私は、最後まで高貴な出として振る舞いたかった。

尊氏の台所事情をよく知る特権として、お金を自由に扱うのも当然だろう。

思いっきり、贅沢をしてもバチはあたらない。

尊氏が私にした仕打ちと比べたら、安いものである。


人になんと言われようとも構わない。

私の気に障るような人物は消すだけだから・・・