第105話

 

「た~だし先輩っ!」

 

こずえちゃんが僕にすりすり寄って来る。

 

「B型コンパ、来ますよね?」

 

こずえちゃんの上目遣い。

 

「どうしようかな? また、温泉にも浸かりたいし」

 

「ダメですよ! お酒の後の温泉なんて」

「事故が起きたら、ハトの祭りです」


「それ、お祝いごとみたいじゃない」

 

そうは言っても、確かにこずえちゃんのいう通り。ほんの少しの居眠りで、溺れたりしたらシャレにならない。

 

「まあ、明日は午後から名古屋への移動だけだけど……」

「僕はO型だし、B型コンパはOB……、なんか気が乗らなくって」

 

「じゃあ私に乗ります?」

 

「それもなんか……」

 

「アァ言えば挿入。ただし先輩の悪いくせです」

 

「誰も今までそんなことしてないじゃない。分かった、顔だけ出すよ」

 

「そう来なくっちゃ!」

 

こずえちゃんは、僕の手を引き、401号室に向かう。

 

「おう、正。いい身分じゃないか」

 

OB達が、こずえちゃんと僕が腕を組んでいるのを見てからかう。

 

「あれ? B型コンパ。集まりが悪いですね」

 

こずえちゃんがつぶやく。

 

確かに、初日、二日目と比べると集まりが少ない。あのせいだ。

 

「天真爛漫なB型らしからぬ集まりの悪さ……」

「401号室の場所は、B型の多い、二、三年女子部屋の毛と穴の先……」

 

「それをいうなら目と鼻の先でしょ」

「逆にB型だから、自由気ままで、皆んなどこかでブラブラしてるんじゃないの」

 

「そうかも知れません」

「どうしましょ……」

 

「太田」

 

「はいっ!」

 

「谷崎」

 

「はいっ!」

 

「誰でもいいから、人を集めてこい」

 

OBからの要望。断るわけにはいかない。二人とも、そそくさと部屋を出て行く。

 

10分くらいして、太田くんと谷崎くんが戻って来る。一年生の女の子達を数名連れて来た。

 

「でかした」

 

OBたちはご満悦。男や二、三年女子が集まって来ても、面白くないらしい。

 

「さて、皆様お待ちかねの、替え歌芸だぴょ~ん!」

 

OBが叫ぶ。

 

一応義理で、皆んな手を叩く。OBが三人並び、しんみりとした顔を作ろう。

 

「赤い靴、は~いてた、お~んな~のこ~」

「お~じさんにさ~わられ~て、いっ、ちゃっ、た~」

 

来たか、毎度毎度の下ネタ芸。正直、僕らも聞くのは辛い。四年間、合宿以外の宴でも何回も聞いている。

 

しかし、社会人三年生や五年生のOBたちには逆らえない。

 

「赤い靴 は~いてた お~んな~の~こ~」

「お~じさんにぬ~がされて、いっ、ちゃっ、た~」

 

「そこは首、そこは首、そ~こ~は~く~び~」

「もっと下、もっと下、も~っと~し~た~」

 

基本、誰も聞いちゃいない。でも、シーンと張り詰めた空気を保たなければいけない。手拍子もダメ。

 

OB芸は、僕らにとって辛い時間帯。

 

「そこは溝、そこは溝、そ~こ~は~み~ぞ~」

「もっと上、もっと上、も~っとうえ~」

 

「そこよそこ、そこよそこ、そ~こ~よ~そ~こ~」

 

歌はまだまだ続く。

 

「赤い靴 は~いてた お~んな~のこ~」

「お~じさんにさ~わられ~て、いっ、ちゃっ、た~」

 

「そこはへそ、そこはへそ、そ~こ~は~へ~そ~」

 

「もっとした~、もっとした~、も~っと~し~た~」

 

OB達は辛そうな声で歌っているが、聞いている方がもっと辛い。

 

「そこはもも、そこはもも、そ~こ~は~も~も~」

「もっと上、もっとうえ~え、も~っと~う~え~」

 

こずえちゃんが僕の耳元でつぶやく。

 

「目は閉じることはできても、耳は閉じることが出来ない……」

 

「そこよそこ~、そこよそこ~、そ~こ~よ~そ~こ~」

「もっとして~、もっとして~、も~っと~して~」

 

いやらしいところのフレーズを最後に、替え歌芸が終わる。仕方ない。義理で皆んなは拍手。

 

さすがのこずえちゃんも、義理拍手。

 

「正先輩。皆んなのいう通り、OBの替え歌芸、よくありませんね」

「股タタク間に酔いがさめてしまいます」

 

「ああ。分かってくれる?」

 

「分かります。毎年……、ですか……?」

 

「次、始まるよ」

 

「えっ? まだ、あるんですか?」

 

「ああ。お座敷小唄の替え歌。千葉県版」

 

「ズッチャ、ズズズチャッチャ、ズッチャ、ズズズチャッチャ」

 

「せがれ館山、毛は茂原~」

「いやよ、ちょいとと佐原せて~」

 

「千葉の女に銚子づき~」

「イエィ! その子は、安産が得意でよくデキルんだ!」

 

「できた子供は……、鎌ヶヤかまし~!」

 

「次、二番!」

 

「ズッチャ、ズズズチャッチャ、ズッチャ、ズズズチャッチャ」

 

こずえちゃんが僕のTシャツを引っ張り、廊下に出る。

 

「ゲスで下品だし、地名をギャグにしようなんてつまらないです」

 

「分かるでしょ。替え歌芸が不評だってこと」

 

部屋に戻ると、OBの替え歌芸は、皆んなのしらけムードの内終わっている。しかして、OB達はご満悦。僕らは皆んなホッとする。

 

「何か出し物ないか~」

 

OBが次の出し物をねだる。

 

「私、やりますよっ!」

「この澱んだ空気を変えるのは、アレしかないですます」

 

「待っててくださ~い! 練馬も惜しんで頑張りま~す!」

 

誰だよ、地名をギャグにしようなんてつまらないといった子。

 

「じゃあイキますね」

 

僕にそう言うと、こずえちゃんは席を立ち、一年生の女の子達のところへ行って何やらヒソヒソ打ち合わせ。

 

隆と里奈ちゃんが部屋に入って来る。

 

「終わった?」

 

「ああ、終わったよ」

 

二人ともOB芸を避けて会場に来た。女の子の打ち合わせも終わり、一人の女の子がラジカセを取って戻って来る。

 

スイッチオン。音楽が鳴り始める。

 

一年生女子、6人がボーリングのピンのように並ぶ。センターはまた、踊りの上手な夕子ちゃん。

 

「チャン、チャン、ワン・ツー・スリー・フォー!」

 

「I want you! I need you! I love you! 頭の中」

「ガンガン鳴ってるMusic! へビ~イ、ロ~テ~ション!」

 

AKBのヘビーローテーションだ。今度は皆んなも、満面の笑みで手拍子を始める。

 

やっぱり初々しい、一年生女子の歌と踊りは心地いい。さっきまでの空気を、木っ端微塵に打ち飛ばす。

 

「I want you! I need you! I love you! ハ~ト~の~お~く」

「じゃんじゃん溢れる愛しさは! へビ~イ、ロ~テ~ション!」

 

「もう、俺たちもローションプレイ、大好きだよ~! 一緒にしよう〜!」

 

OBたちは酔いすぎてローテーションとローションの聞き間違い。最高にノッている。隆と里奈ちゃんも、楽しげに大拍手。

 

いいよな……、隆と里奈ちゃんは、うまくOB芸を避けて来て。

 

「目は閉じることはできても、耳は閉じることが出来ないからね」

 

誰かさんと同じ言葉を、隆がつぶやく。

 

 

ーーーーー

 

 

「正先輩、どうでした?」

 

こずえちゃんが、芸を終えて、楽しそうに帰って来る。

 

「ありがとう。重苦しかった部屋の空気が、スキッと明るい雰囲気に変わったよ」

 

「でしょ?」

「ついでに窓も開けちゃいましょ」

 

真夏なのに少し肌寒い空気が部屋に入り込んで来る。

 

こずえちゃんは窓枠に手をかけ、じっと夜空を見つめている。

 

「正先輩」

 

「何?」

 

「一緒に外、行きませんか?」

 

「ああ、別にいいよ」

 

僕はこずえちゃんの後について部屋を出る。

 

「ああ! 素敵」

「お星様、いっぱいですね」

 

「うん。綺麗だ」

 

「星の数って、いくつくらいあるんでしょうね?」


「僕らの太陽系を含む銀河系には二千億個の星があると言われている」

「そして、僕らのいる銀河系のような大きな銀河系は、一千億個あると言われてる」

 

「単純に、ザックリとその掛け算だね」

 

「すごい、多いです」

 

「今、僕らのいる地球から見られる星は、確か4千五百個くらいだよ」

 

「そうなんですか~」

 

星空を見上げているこずえちゃん。瞳が綺麗。活気のある子だし、とても可愛い。

 

僕なんかにくっ付いていても仕方ない。早く、楽しい彼氏を作ればいいのに。

 

「正先輩、行っちゃうんですよね?」

 

「ああ、名古屋だね」

 

「そうじゃなくて、アメリカ」

 

「アメリカ?」

 

「そう、来年、アメリカですよね」

 

「うん」

 

「どうしましょ?」

 

こずえちゃんが、いきなり僕に抱きついて来る。

 

仕方ない。僕はゆるりと、こずえちゃんの腰に手をまわす。

 

「こずえ、どうしたらいいのか分かりません」

 

「何が?」

 

「私、留学しようかしら?」

 

「アメリカに?」

 

「はい」

 

困った会話になった。下手なことを言うと、こずえちゃん、本当にアメリカについてきちゃうかもしれない。

 

「今、私を抱いている、熱い胸の人が遠くに行ってしまうなんて……」

 

「まあまあ、まだ半年ちょっとあるし、今、そんな話をしなくてもいいじゃない」

 

「一番大事なものが、遠くに行ってしまう……」

「いや、こうして近くにいてさえ、その心は別な人のものなの……」

 

「現在と近未来。どちらにせよ、こずえ、辛いです」

 

下手なことは言えない。

 

僕は沈黙する。

 

「そう、正先輩」

 

「何?」

 

「ネットの占いで、アバンチュールが叶いそうだと書いてありました」

 

「?」

 

「B型、乙女座のです」

 

「こずえちゃん、来月19になるんだ」

 

「はい」

 

「18歳の最後の記念に、今こうして好きな人と……」

「今宵、一晩限りのアバンチュール。私とお願いできますか?」

 

僕は、こずえちゃんの腰にまわした手を離す。

 

「無理だよ。僕には恵ちゃんがいる。アメリカにも行く」

 

僕はこずえちゃんにささやくように話した。

 

「正先輩。右手をお借りしてもいいですか?」

 

「ああ……、いいよ」

 

僕は右手の力を抜きぶらんと降ろす。

 

「目をつむって下さい」

 

言われた通り、目をつむる。

 

「私利私欲がなくて、器用貧乏で、心に余裕があって、そして誰にでも優しい」

「私、そんな正先輩が大好きなんです」

 

こずえちゃんはそう言うと、僕の力を抜いた右手を、ブラウスの胸に強く当てる。

 

「ブラウスの中。触ってもいいんですよ」

 

「そんなこと、できないよ」

 

「じゃあ、どんなことならできるんですか?」

 

クリクリとした瞳が僕に語りかける。

 

「おまじないをしますです」

「あっ! ブラ、片ブラ!」

 

訳の分からない言葉とともに、こずえちゃんはいきなり僕に抱きつき、首元に長いキスをする。なまめかしい濡れた唇の感覚。

 

「もうやめよう、こずえちゃん」

 

「はい」

 

意外にあっさり僕の言うことを聞く。

 

僕らはひんやりとした空気を背に、ホテルへと入る。

 

「正! こずえ嬢と何してたんだよ!」

 

「クマに食われたかと思ったぞ」

 

OB達から罵声を浴びる。

 

401号室では、まだ宴会が続いている。

 

夕子ちゃんと谷崎くんが、おさかな天国を歌い踊っている。部屋は、手拍子とグラスを箸でチンチン叩く音が鳴り響く。深夜だと言うのにどんちゃん騒ぎ。

 

隆が僕の側に来る。

 

「こずえちゃんと何してた?」

 

「うん……。星見てた」

 

「それだけか?」

 

「ああ……、それだけ」

 

里奈ちゃんが僕の顔をまじまじと見つめる。

 

「里奈ちゃん、僕の顔に何かついてる?」

 

「いや、何もついていないけど、違和感があって……」

 

「あっ! 正くん。鏡を見てきて」

「あのね、首にキスマークみたいのがついてるよ」

 

「えっ?」

 

僕はトイレに駆け込み、鏡を見る。こずえちゃんがチューをした右の首に、うっすらと赤いキスマークが……。

 

どうしよう?

 

まずは部屋に戻る。

 

こずえちゃんは、紀香ちゃんのところで、キャラキャラ何やら油を売っている。確信犯なのに、楽しそうな雰囲気。

 

「里奈ちゃん。これ、目立つかな?」

 

「目立たないけど、じ~っと見る人にはわかるわよ」

「明日、恵ちゃんと会うんでしょ?」

 

「ああ」

 

「他人様だとよく見られても、ごく軽いアザか虫刺されくらいとしか見えないけど、恵ちゃんには絶対にバレるよ。これ」

 

「どうしたらいい……?」

 

「里奈ちゃんが、キスマークの消し方をググる」

 

「キスマークのところを蒸しタオルか何かで温めるとか……」

「歯ブラシで軽くこすって血行を良くするとか……」

「とにかく、内出血の軽いものだから、血行を良くしなきゃ」

 

「あと、レモン汁や馬油か何かつけると取れるみたい」

「ただ、今日の明日じゃね~」

 

「里奈ちゃん、どうしよう……」

 

「お酒の後だけど、温泉に入って、首の血行良くしてきたら?」

「揉むようにその部分を温めて」

 

「後、馬油が売店で売っていたから、明日買って塗りこむとかね」

 

「困ったな……」

 

「そうそう、コンシーラーとファンデは私持っているから、明日の昼まで消えない時にははそれ塗って」

「匂いはしないから安心よ」

 

「ありがとう」

 

「いざとなったら、絆創膏という手もあるよ」

 

隆も心配してくれる。

 

「虫に刺されたとか、言い訳つけてさ」

 

「ああ」

 

「まあ、薄いから明日には取れてるかもしれないよ」

 

里奈ちゃんが優しい言葉をかけてくれる。

 

「正! こっちに来い!」

 

グテングテンに酔っ払ったOBが僕を呼ぶ。

 

「何ですか?」

 

「こずえ嬢! こずえ嬢!」

「こずえ嬢みたいないい子は、半世紀に一人くらいしか出てこない」

「大事にするんだぞ」

 

「あの……」

 

「何だ?」

 

「僕はこずえちゃんの彼氏じゃなくて、大切にと言ってもどうすればいいのか……」

 

「正、来年も合宿に来い」

「お前も、常連OBの仲間に入れてやる」

「正がいると、こずえ嬢が生き生きとする」

 

「実は来年の今頃、僕はアメリカで仕事をしているんですが……」

 

「夏合宿だけは来い」

 

「そんな無茶な……」

 

押し問答をしている時に、こずえちゃんが僕たちのところへくる。

 

「夜のあいさつ、本番は~」

「楽しそうに何のお話ですかぁ~?」

 

僕の顔、目線は首筋、そしてキラキラと笑う。

 

「ほら。こずえ嬢は、正がいると生き生きしてる」

 

OBがガハガハ笑う。

 

「だって、私の生きがいですもの」

 

こずえちゃんはお嬢様笑い。フフフと手を口に当てて笑う。

 

全然楽しかなんてない。とにかくOBからは、こずえちゃんマターでいらぬ説教を受ける。はいはいと適当に答えて、何とかこずえちゃんをOBのところに張り付けにする。

 

僕は隆と里奈ちゃんのところへ戻ってくる。

 

「正くん、バレなかったね」

 

「何が?」

 

「キスマーク」

 

「すっかり忘れてた」

 

「OB達は気付かなかったみたいね」

 

「もしかすると、明日には虫刺され程度に赤みも引いているかもね」

 

里奈ちゃんが優しくつぶやく。

 

「そうだ! 温泉、温泉」

 

「行ってらっしゃ~い」

 

隆と里奈ちゃんが僕に手をふる。

 

僕は自分の部屋に戻り、温泉に入る準備をする。部屋を出るとこずえちゃんが立っている。

 

「ブ~ッ!」

 

唇をタコのような形にして僕に言う。

 

「合宿係からです」

 

「夜10時以降の入浴は禁止です。しかもお酒飲んだでしょ」

「速やかに、宴会場に戻りましょう」

 

「もうすぐ、午前0時だよ」

「昨日のことはリセットされる」

 

「合宿係さん、宴会の方も、そろそろ終わりにしないとダメでしょ」

 

「中締めの夜です」

「正先輩なら、ついでに私の中、締めてもいいですよ」

 

「はいはい……」

 

「明日、正先輩は名古屋のしっぽりの夜です」

「今日はそんなことできないように、夜通し飲み明かしましょう」

 

「はいはい」

 

僕は温泉を諦め、再び宴会場へと向かう。

 

「はい。これ」

 

こずえちゃんが、絆創膏を僕に手渡す。

 

「確信犯だね」

 

僕がそう言うと、

 

「バレましたか」

 

こずえちゃんが舌見せて笑う。

 

 

ーーーーー

 

 

時計の針は、午前0時をまわった。

 

「もう出し物はないのか?」

 

OBたちは皆んな元気だ。毎晩飲み明かしていても、眠たそうな顔一つしない。

 

「また、UFOが見たいな……」

 

OBの一人がつぶやく。

 

一年生男子は、毎晩部屋を宴会場に使われて気力も体力も限界。OBから聞こえてくる一声一声にビビる。

 

「尾崎、森本。UFOやれ」

 

二人ともえ~っと言う顔をする。

 

「着替えてこい」

 

初日にやった、ピンクレディーのUFOのリクエスト。二人は、OBに反駁しても無駄なことを知っている。

 

そそくさとカバンから水着と帽子を取り出し、トイレに向かう。シルバーのTバック上下水着姿、頭にはシルバーのコイルがついた帽子。

 

二人は部屋に戻ってくる。

 

「わ~っ!」

 

男の子の反応。

 

「気持ち悪い~」

 

女の子の反応。

 

宴会場のステージにいたときの芸は気持ち悪さもひどくはなかったが、狭い部屋でまじかで見ると、二人のTバック姿は、直視できるものではない。お尻も丸見えだ。

 

「尾崎、またはみ出してるぞ」

 

尾崎くんのパンツの前の方、大切な袋の一部が水着からはみ出していた。OBがもうこれ以上ないほどの大声を出して笑う。

 

「ガーッ! ハッハッハ!」

 

一方、会場の女の子たちは一斉に目を伏せる。

 

「今日からお前のあだ名は正式にハミデだ」

 

OBが尾崎くんのあだ名を命名する。

 

「ハミデ! ハミデ!」

 

会場の男たちが、手拍子とともにシュプレヒコール。

 

尾崎くんが、ちゃんとモノを丁寧に水着に入れ直している途中にもかかわらず、無情にもUFOのイントロが流れ始める。

 

モノがしっかり収まりきらないうちに、ラジカセのボタンを押したのはこずえちゃんだ。

 

いたずらっ子の様に笑っている。

 

そんなこんなで仕方なく、ピンクレディーのモノマネ芸がスタートする。

 

「ユ~フォ~」

 

「タララ、ラッタッタ、タララ、ラッタッタ」

 

「て~を、合わせて、見つめるだけ~で」

 

ガニ股姿で、両手をクルクル回す。キモい男同士、見つめ合って手を合わせる。近くで見ると、ホント、薄気味悪い。アレは少し、はみ出たまま。

 

OBたちはノッている。女の子たちの何人かは、疲れと呆れもあって部屋を出始める。

 

「おやすみ~!」

 

去っていく子達に、OBは声を張り上げる。

 

芸を見て、部屋の様子も見て、十分過ぎるほど酔っているのにOBたちの目配りはすごい。

 

「そろそろ僕も寝ようかな」

 

「ああ、俺たちも部屋に戻るよ」

 

僕は、隆と里奈ちゃんと一緒に席を立つ。

 

「正くん、蒸しタオルでキスマーク少し温めておけば」

「トイレに温水が出る蛇口があるじゃない」

 

「ああ、そうするよ」

 

余計なことで寝る時間が限られるが、まあ、仕方ない。

 

「ブーッ」

 

「正先輩だけ、部屋を出ていくのは禁止です」

 

こずえちゃんが両手を広げて、僕をさえぎる。

 

「どうして?」

 

「こずえちゃんがつけた、キスマークみたいなのも消さなきゃいけないし」

「もう休ませてよ」

 

「ダメです。明日から二泊三日で名古屋にズラかる輩に、今宵、好き勝手な行動は認めません」

 

「まぁ~……」

 

「じゃあ、後30分ね」

「ただ、首に蒸しタオル、巻いてきてもいいかな?」

 

「キスマークは、自然と落ちる過程にドラマがあります」

 

「あのさ……」

「そんなドラマ、全然作って欲しくなかったんだけど……」

 

こずえちゃんは、フフフと笑う。

 

「女は素晴らしい楽器なんですよっ!」

 

「恋がその弓で、男がその演奏者」

「今は正先輩は恵先輩に夢中ですけど、その恋の弓が、いつか私を弾くようになるかも」

 

「私、自分自身で言うのもなんですが……、アレしたら……」

「良く鳴りますよっ!」

 

「そう、今の私は、自分を愛してくれる人よりも無視する人の方に好感を抱くのが賢明です。それは、私を愛してくれている人なら、いつか、私を愛さなくなってしまうかもしれない……」

「でも、今、私を無視している人は、いつか私を愛するようになるかもしれない……」

 

「二泊三日中残るであろうキスマークには、それがどちらに転ぶかのメッセージが込められています」

「お互いに素敵な恋人同士になるために必要な、大切なレッスン」

 

こずえちゃんは両手を胸の前で組んで、カラカラ笑う。

 

「あのさ、コレ、単なる恵ちゃんへの嫌がらせだよ」

「まあ、少なくとも恵ちゃんには、誤解をまず解いて、こずえちゃんのイタズラだと受け取ってもらうよう努力するけど……」

 

「しかし、また、なんでまた計画的に名古屋に行く前の夜にする?」

 

「逆に正先輩に伺いますが、今日の夜以外に適当なタイミングの時ってあります?」