鑑賞メモ
セルゲイ・ポルーニン【WOWOW】レッド・スパロー/RED SPARROW




誘惑と心理戦を武器に、彼女が仕掛けた大国を手玉に取る最大の罠<トラップ>とは!?
バレリーナの将来が怪我のために断たれたドミニカ・エゴロフ。病気の母に治療を受けさせるためにロシアの諜報機関の訓練施設に送られる。そこは、ハニートラップと心理操作を武器としてミッションの遂行するスパイ=<スパロー>の養成機関だった。持ち前の美貌と頭脳で、ドミニカは望まないながらも、一流の<スパロー>へと仕立て上げられる。彼女に最初に与えられたミッションはアメリカのCIA局員に接近し、ロシア政府内に潜むスパイの名を聞き出すこと。しかしその任務は、ドミニカを想像も超える運命を導き、彼女は敵国アメリカのみならず、祖国ロシアからも狙われることに…。
大国間の裏舞台での陰謀と欲望が渦巻くストーリーは、信じがたい結末へー
QT 映画「レッドスパロー」FBより



WOWOW
【字幕版】
2018/12/8(土)22:15~
2018/12/18(火)25:05~
2018/12/30(日)25:15~
(済)
2019/01/31(木)24:30~
2019/02/15(土)26:35~
【吹替版】
2019/1/6(日)24:30~


○映画「レッドスパロー」公式サイト
http://www.foxmovies-jp.com/redsparrow/





「くるみ割り人形と秘密の王国」の時に、セルゲイ・ポルーニンの「レッドスパロー」がWOWOWでO.A.されるのを知り、待ち構えて初回放送を録画したのをやっと見た。


□「レッドスパロー/RED SPARROW 」あらすじ



□レッドスパロー/RED SPARROW

字面と赤いチュチュを着て踊るバレリーナなので錯誤しかけたけど「スワン(白鳥)」でも「火の鳥」でもなく「スパロー(雀)」。この作品で「スパロー」とは心理戦を用いハニートラップをしかけるロシアのスパイを意味する。

「RED=赤」はロシアを象徴しているんだろうと思ったんだけど※、ウィキペディアの「赤の広場」によると、「赤」はソビエト連邦の社会主義に起因するものではなく、元々ロシア語の「赤」は「美しい」という意味もあったらしい。
※「赤の広場」「共産主義」のイメージ

つまり「RED SPARROW = 美しき女スパイ」



You have been selected because of your beauty. Because of your strength, and in some cases because of your vulnerability.


「ハニートラップ」と聞くと、男に媚び性的に欲情させる美人局的なイメージがあるが、この作品では007みたいに単純に色仕掛けで情報を引き出す女スパイではない。地位や権力などその人間がもっている欲望やトラウマをコントロールして相手を操作していく心理戦を用いるスパイ。肉体はスパイツールの一部として国に捧げるように訓練されている。

□原作:元CIAによる小説

この映画、原作が元米中央情報局(CIA)の秘密活動部門で働いていたジェイソン・マシューJason Matthewなんですね。なので、007、ミッションインポッシブル、キングスマンのようなアクションやスパイ小物ネタではなく、リアル諜報活動が描かれている。内部情報を暴露してしまっていいのかと思ったが、しっかりチェックされているらしい。

○クーリエ・ジャポン
絶対に明かしてはいけない諜報機関の裏側
「スパイとして生きた33年間」小説家になった元CIA局員が明かす"
https://courrier.jp/translation/92777/

○The Hollywood Reporter
How 'Red Sparrow' Author Made the Film More ""Authentically CIA"""
https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/red-sparrow-author-jason-matthews-made-film-authentically-cia-1089625

so all three books were passed by the publication review board at the CIA. They want to make sure you don’t inadvertently reveal sources and methods.
 

○映画.com
CIAが内容をチェックしていた!?「レッド・スパロー」の裏側を元スパイの原作者が解説"
https://eiga.com/news/20180406/20/
※1

○ジェイソン・マシューズ
CIAで33年努めた1951年生まれの著者

○The New York Times
Shadowing Jason Matthews, an Ex-Spy Whose Cover Identity Is Author"
https://www.nytimes.com/2015/05/28/books/shadowing-jason-matthews-the-ex-spy-whose-cover-identity-is-author.html


□第2の冷戦時代/A Second Cold War.

原作者が実体験に基づいて書いているだけあって、言葉で「肉体をツールとする」と書くとぼんやりとした内容も人間がリアルにそれを行うことの”エグみ”もこの映画は描写している。

元CIA局員が書いて、CIAがチェック済みというだけあって、作中に散りばめられたアメリカ礼賛のセリフ「アメリカには選択の自由がある」「(CIAは)人を使い捨てにしない」などのプロパガンダめいた煽りに辟易というか、苦笑するしかない。(笑)

また、映画自体は現代を描いているはずなのに、ドミニカが技術を習得したスパイ養成所の西側批判など、時々”こぐまのミーシャ(冷戦時代)”の雰囲気がするのは彼の経験に基づいているせいだろう。

まぁ、原作者の持論によると「We’re now in the midst of a second Cold War.(今は「第2の冷戦時代」」にあるという)ことなので、内容が時代がかっていても問題がないという体であるらしい。作品中「冷戦は終わっていない」とスパイ養成所の監督官に言わせているのはこういう意図があるかららしいけど、違和感は否めない。



“The cold war did not end. It shattered into a thousand dangerous pieces. "


話が逸れるが、この監督官が至極ストイックでいい雰囲気を醸し出してて、けっこうタイプの俳優だなと気になって調べたらシャーロット・ランブリング。大昔見てずーっと印象に残っていた「愛の嵐」(1974)で上半身裸の軍服姿で妖艶に踊ったあの方。(映画通ではないので、今の顔から昔の顔は思い浮かばなかった)

映画の内容からして偶然とは思えない配役。いや、十分意識していた配役なんだろうね。ドミニカをスパイになるように仕向けたおじさん役ワーニャ・エゴロフがプーチンそっくりのマティアス・スーナールツなんだものww

□ドミニカが心を寄せたCIAの男

映画中ではちゃんと役割を果たしてるんだが、存在感がなさすぎて名前すらぱっと思い出せないぐらいのジョエル・エドガートンが演じるネイト・ナッシュ。

いやぁ、なんちゅーかこの良心的すぎてスパイに不向きな男。存在感のなさ、「俺が漏らしたと思われている」とドミニカを責めるグダグダな感じが仕事できない感があって「本当にスパイなの?」って印象。よくいえば、人間味がある。人間味があるからドミニカが惹かれたのか?

で、このナッシュ、映画の冒頭でスパイ活動でやらかして前線から外される役なんだけど、左遷された後が原作者自身の職務に近いんですよね。

もしかして作者自身の自己投影?

この原作が作者の「敵の美女スパイといい感じになったら」みたいな願望やら妄想やらを小説化したと考えたら、映画の魅力が半減しちゃうので深く掘り下げないでおこうっと!


□レッドスパローの続編

レッドスパローは三部作の1作目ということで、もしかして残り2本の小説も映画化されるかもしれない。もし続編が映画化されてもポルーニンの出演はないだろうけど、それでも主役がジェニファー・ローレンスで出演するのなら見たい。

それほどまでにジェニファー・ローレンスの演技は素晴らしい。この「レッドスパロー」はジェニファー・ローレンスの名演技があるから成り立ってるような映画だと言っても過言じゃない。

ドミニカの張り詰めた孤独を言葉ではなく四肢を使って表せるのは彼女しかいないでしょ!終盤でアイコンタクトを交わすジェニファー・ローレンスの繊細な筋肉の動きや音楽だけが流れる電話のシーンは秀逸すぎて唸るしか無い。

というか続編がきてもおかしくないのかな。映画のエンディングで使わているバレエが「眠りの森の美女」の第三幕。眠りから目覚めたフロリナ王女が王子と踊るグラン・パ・ド・ドゥなんですよね。

バルコニーから第三幕の舞台を見つめていたドミニカがスッと立ち上がり、颯爽とその場を去る黒いドレスの後ろ姿。これって「夢から目覚めた美女が何を起こすのか」みたいに続編を暗示してるとしか思えない。ぶっちゃけ続編の原作を読んだらわかるのかもしれないけど、そこまで原作に興味はないので読まない。(笑)


■ポルーニンの出演シーン

目当てのポルーニンの出演シーンは「くるみ割り人形・・・」と違って、ガッツリ映ってました。どこで出てくるのかなぁと思ったら、思いっきり映画の冒頭。

スリリングな場面とバレエの組みあわせがなかなかクールで見ごたえがあった。事故のシーンは合成なんだろうけど、「ぐきぃ」という音が(;´∀`)(エグい)って感じで巻き戻して見直しました。←


それにしてもなんちゅー役だよ、ポルーニン
よく引き受けたな・・・ww


しかも「これで出番が終わりかぁ~」と油断していたら、まさかの○シーン!!そこであっけなく出番終了でしたけど(無惨すぎる扱い)そりゃ、バレエは踊れるけど、演技ができるってわけじゃないからそんなもんだよね。
※WOWOWの場合性描写のシーンは局部にぼかしはいってます


□R15 スパイ映画というより・・

映画のキャプションだとドミニカが悲劇のヒロインみたいなこと書かれてますけど、どんでもない。痛めつけられても萎えるどころか、自らを傷つけた相手を撲りとばすキャラ。自らの気性の荒さが悲劇を導いているんでね。ハードな展開になるのはやむを得ないでしょうw

WOWOWのジャンル分けだと、サスペンス・ミステリーに分類されているR15。R15の理由はセックスシーンかと思ったら拷問シーンでしょうか。恐ろしすぎて見れなくて、肝心の逆転シーンが確認できない。(おっとネタバレすぎる)

海外サイトでSpy thrillers(スパイスリラー)と書かれているけど、ミステリーよりもまさにスリラー!コワイのが苦手な人は注意です。映画館で見なくてよかったです。


トラップに陥れられてるのは観客ということでしょうなぁww

□バレエシーンの吹き替え

ポルーニンはプリマバレリーナ役のジェニファー・ローレンスと踊るわけだけど、ジェニファー・ローレンスはバレエ経験はなくて、この映画のために4ヶ月間New York City Ballet(バランシンの振付で有名なとこ)で、Kurt Fromanに指導されたらしい。(Kurt Fromanは映画「ブラック・スワン」でもナタリー・ポートマンやミラ・クニスを指導している。)

○New York Times
How a Dance Dream Team Turned Jennifer Lawrence Into a Ballerina





当然3ヶ月毎日4時間半、いや3年かけてたとしてもまともに踊れるわけじゃないから、それっぽく見える振りを習得したということです。
(訓練されていないのにトウシューズを履いたら大怪我です。まあ、まず立てないんでしょうけど←相方ちゃんのトウシューズにこっそり足を突っ込でみたことがあるので実験済み)




ということでジェニファー・ローレンスが実際に踊っているバレエシーンは上半身のアップやポワントで立たない場面に限られ、トゥで立って踊っているシーンは替え玉です。

じゃあ、ジェニファー・ローレンスの替え玉として踊っているのは誰かというとイザベラ・ボイルストン(アメリカン・バレエ・シアター)。下記動画内でジェニファー・ローレンスと同じ赤いチュチュを着て2ショット撮影しているところが映ってます。

○デイリー・メイル (イギリス)
'I really had to try not to get injured': Prima ballerina who starred as Jennifer Lawrence's dance double for Red Sparrow details her grueling 12-hour days on set with the 'hilarious' actress

https://www.dailymail.co.uk/femail/article-5451573/Isabella-Boylston-Jennifer-Lawrences-dance-double-Red-Sparrow.html

 Isabella Boylston,
31, is a principal dancer at the American Ballet Theatre

View this post on Instagram

So amazing seeing my concept art being used for #RedSparrow publicity. @mztsummerville you are just a shining light in my career. So blessed to have worked with you. #Repost Entertainment Tonight’s profile of costume designer Trish Summerville’s beautiful work on “Red Sparrow”. Behind the scenes look at Costumes Concept Art and footage of Kurt Froman working with Jennifer Lawrence, Isabella Boylston, and Sergei Polunin in Budapest during production #trishsummerville #greghopwood #behindtheseams @isabellaboylston #isabellaboylston #jenniferlawrence #sergeipolunin #ballet #redsparrow #redsparrowmovie #francislawrence @francishlawrence #costumedesign #budapest #bts #jlaw #jlawrence #et #entertainmenttonight @entertainmenttonight #justinpeck @justin_peck #celebritydancecoach #celebritytrainer #kurtfroman #associatechoreographer #dominikaegorova

Greg Hopwoodさん(@greghops)がシェアした投稿 -



□ロシア語

アメリカ映画だから当然っちゃ当然なんだけど主役ドミニカをはじめロシア人の設定のキャストも全員 使っているのは英語。(字幕だからロシア語で見たかったロシア語の発声ってスパイ映画にあうのにね。)
基本英語だけど、舞台袖でドミニカに声をかけたポルーニンはロシア語ですよね。(ウクライナ出身だから、そりゃしゃべれるよね。ジェニファー・ローレンスに通じてるかどうかは知らんけどw)




■ポルーニン、ロシア国籍取得

しっかしまぁ、この映画がWOWOWで初回放送される直前にポルーニンが祖国ウクライナからロシアに国籍を移したのには世間を驚かせるのに十分すぎるほどの衝撃よね!!

いや、だってこの「アメリカ礼賛、ロシア[DIS]の「レッドスパロー」にでてるのに!?と二重の驚き!?

-----

自分が彼がロシアに国籍を移したのを知ったのはP大統領のタトゥーやロシアのパスポートのIG(現在削除済み)をアップした11月末で、WOWOWの「レッドスパロー」を見る前。

ニュースを聞いた直後は「ロシアに傾倒したというより、家族と決別し祖国を捨てた?」という彼の個人的な理由なのかなと考えていた。

というのも、確かにドキュメンタリー映画「DANCER」ではそれまで一度も舞台に招待したことがなかった家族を呼び寄せて舞台を見せるシーンがありました。家族とすっきり打ち解けられたかのようなシーンでした。だけど、個人的にはあの場面の彼は家族を理解しようと試みて、彼を支えられる家族ではないことを確認しちゃったのかな・・と思えたんですよね。

なので今回のロシア国籍の取得やP大統領への敬意を表すという行為は「気の弱い感じの父親よりも強いタイプの人間(P大統領)に惹かれたのか」という印象で、

「リスクありすぎ。ロイヤル・バレエの束縛を嫌って飛び出したポルーニンがロシアという籠の中に収まりきれるの?嫌気がさした時にロシアという国から簡単に抜け出せるの? 悲劇的な結末しか見えない。」






■「レッドスパロー」鑑賞後

その後「レッドスパロー」を見て、個人的理由じゃなくて、アーティストとして強い後ろ盾の必要性を感じてるのかなと思い始めた。




ロイヤル・バレエの退団後、プロジェクトポルーニンを起ち上げてみたけど思ったような評価は得られないし、映画界やモデル業に進出してもお客様扱いで、当然メインキャストになれるわけじゃない。結局のところ自らを活かすためにはバレエで生きていくことが自らの本領なのだろう。じゃあ、どこで活動しようとなったときにロシア側からラブコールが来て飛びついちゃったみたいな流れも想像に難くない。


■社会的背景 ウクライナとロシア

更に調べると、ここ数ヶ月ロシアとウクライナの抗争が激化しているんですね。ロシアがウクライナ人にロシア国籍を移すように誘導している背景があったりと・・・

ロシアに住むウクライナ人の立場とか知ると、ポルーニンがウクライナ国籍のままロシアで活動することの難しさがわかってきた。(悪趣味なタトゥーはポリティカルタトゥー(自己防衛)の意味もあるのかな?)

国際的に活躍する芸術家が、国家間の紛争に翻弄されるのはヌレエフの時代から変わってないんだなと。


それで言うと、
原作者のいう「第二の冷戦時代」なるほどなとうなずける。


2015年11月

ロシアにすむウクライナ人、11月30日迄にウクライナ人のままで、不利な状況になるか、ロシアに国籍移すか決める必要に迫られる 難民扱い停止:タス通信



2018年11月





■IG炎上

アーティストとして生きていくためにロシアに国籍を移したとしても、プーチン大統領やトランプ大統領へのリスペクトを表明するとか。さらに、女性蔑視ともアンチLGBTとも受け取られかねない年末のIGの炎上とか見てるとまあなんというか。

彼は自分の支持層というのを理解しているんだろうか?ww

バレエダンサーとして一流なんだが、ユニバーサルな視点でいうなんだかなぁ。バレエの英才教育は受けてきたかもしれないけど、それ以外のことを知らずに育ってきたのでしょう。世の中をよくわかっていないから、発言力の強いおじさんたちに感化されての発言だと思いたい。

非常にアンバランスな感覚の持ち主であることが判明したけど、まだ29歳のセルゲイポルーニン。人生においてはまだ駆け出しで自らの生き方を模索する真っ最中なんだろう。ロイヤル・バレエの中で守られていれば、バレエに集中できたはずなのに彼の気性は満足できないんでしょうね。今後彼が視野を広げて、活躍な場を見つけていってくれたらなと思う。


彼の鬱屈とした精神性とバレエの技量に惹かれて、興味をもったけど。もはや破天荒すぎて好きとか嫌いを超え「観察対象」として眺めることにした。




■映画「レッドスパロー」とポルーニン

舞台を降り 絶望に満ちた人生を歩むドミニカの姿が ポルーニンに重なる


絶望の淵にたったドミニカのセリフ

I'll find a way/道をみつけるわ(何とかする)



ドミニカは勝った、生き残った
しかしそこに幸せはあるのか


そして、彼は?ポルーニンは?

Will he find a way
彼は自分の道を見つけられるのだろうか・・・


その先に彼の幸福はあるのだろうか


正直いって、
バレエだけ踊っていてくれよ。

と思う人は多いんじゃないの?


まあ、ロイヤル・バレエを出た時点でそういう環境を捨てたから無理なんだけど







ま、つらつら書いたことは書いたんだけど、
字数制限に引掛って保存できなくて、
ずいぶん割愛して疲れたので
ここらで終わりにしよう。








Спасибо.


当記事は当方別ブログからの転記です