不思議なあの晩から3ヶ月が経っていた。
ワタシは夏休みで昼間は勉強をし、夜はテレビを観たり漫画を読むといった単調な日々を送っていた。あの晩のことは誰にも言わなかった。もちろん友達のサヤカにも言わなかった。
だって普通、信じないでしょ?
もしこんなことを人に話してもきっと
「あ~あの子、可哀想な雰囲気だなぁとは思っていたけど、もっと可哀想になっちゃったんだね」
と思われるに決まっている。(ワタシなら思う)
ワタシ自身も当然、疑いたい気持ちはあった。
しかしそうできないのは、あれ以来、生理時の体調不良が嘘のように消えたからである。
スカイピープルは3ヶ月現れていない。
「『振動の世界』を作るのを手伝って欲しい」
確かそんなことを言っていた。
もちろんそれが何を意味しているのかはわからない。
もしかするともうすぐ現れるのかもしれない。
そんなことを考えながら眠りにつこうとしていたその日の晩、またあの不思議な現象が起こった。
全ての音が重なる。
世界中の音が重なる。
そしてたった一つの声になる……。
「……久しぶりだね。調子良さそうだね。ボクが呪いや悪霊なんかじゃなく、キミの味方だと信じてくれたかな?」
その声はそう言った。
「まぁね。おかげさまで体調は良いよ。そろそろ現れるかなと思っていたよ。『振動の世界』とかの話をするために」
ワタシがそう言うと声は笑った。
「話が早くて助かるよ。ふふふ」
「で、何?私がツイッターすればいいの?そうすれば『振動の世界』が生まれるの?」
「まぁ、とりあえずはそうだね」
「全然意味がわからないんだけど、そもそも『振動の世界』って何なの?」
とワタシが言うとスカイピープルは味気なく答えた。
「『振動の世界』は『振動の世界』さ。それ以外に言いようはない。だけどキミの知性でも理解できるように説明するならばそれはこういうことだ。
“今よりもハッピーな世界”
わかるかい?」
スカイピープルってちょっと口が悪いんだよなと思いながらワタシは言った。
「『振動の世界』が『今よりもハッピーな世界』のことだというのは良いとしても、ワタシのツイッターを読んで誰がハッピーになるの?覗き見が趣味のアンタなら誰よりもわかるんじゃない?ワタシがどれだけつまらない人間なのか」
スカイピープルは笑った。
「ふふふ。知ってるよ。キミがどういう人間かはわかっている。キミは人見知りが激しく、同年代の女性に比べて元気も情熱もない、よく言えば冷静、悪く言えば冷めている女性だ」
「はっきり言われると傷つくけど、その通りよ」
するとスカイピープルはこう続けた。
「キミは確かに世間的に見れば面白みのない人間なのかもしれない。だけどキミの家族はとてもユニークじゃないか。そのことを書くんだ。」
ワタシは驚いた。
「え⁉︎家族⁉︎勘弁してよ!恥ずかしいよ!」
我が家のママと妹はとても変わっている。ワタシの恥そのものである。ワタシが一番隠したいことである。変な家族と暮らしていると思われたくないから、ワタシは誰にも家族のことを話したことはない。
するとスカイピープルは少し間を置いてこんな質問をワタシにした。
「ところでキミの級友にサヤカという子がいるね?彼女がなぜキミと友達になってくれたかわかるかい?」
「考えたことなかった……。何でだろう?え~っと、まぁまぁ勉強できるから?」
「ふふふ。違うよ」
「大人しいから?」
「いや、違うよ」
「わからない。正解を教えて」
「ふふふ。体育の授業でキミが見せる滑稽な動きが彼女の母性本能をくすぐったからさ」
何それ⁉︎
それにまた人が隠したいことを急に言う!
「ちょっとやめてよ!恥ずかしい!え?て、ゆーかそれ本当なの?」
「本当さ。覗き見が趣味のボクだから誰よりもわかっているよ。彼女がキミに好意を持った理由はキミがまぁまぁ勉強できるからでも、大人しいからでもない。キミの動きが滑稽で人間味が溢れているからだ」
あ、さっき覗き見が趣味って言われたこと気にしてたんだと思っていると、スカイピープルはさらに続けた。
「いいかい?よく聞いてね。大切なことだよ。自分で人に見られても恥ずかしくないと思っている側面は長所でも何でもないんだ。そしてそこに魅了される人間なんかいないんだ。きっとそこを褒めてくる人間もいるだろう。でもそれはただのお世辞なんだ。その人は単なる大人の対応をしているだけなんだ。
キミの本当の魅力は
“キミが恥ずかしくて隠したいところにこそある”
それこそが本当の愛らしいキミの姿なんだ。
もう賢ぶるのはやめたまえ。
もうカッコをつけるのはやめたまえ。
もう大人ぶるのはやめたまえ。
もう善人ぶるのはやめたまえ。
もう良識人ぶるのはやめたまえ。
ありのままのキミの姿を世界に晒して行くんだ。
そしてそのままのキミで世界に愛されるんだ。
それが『振動の世界』を作る第一歩なんだよ」
ワタシはスカイピープルの言葉に圧倒された。
スカイピープルはよく意表を突いてこういう壮大なことを言う。
そう言えば生理のことだってあるんだ。ワタシはスカイピープルの言う通りにツイッターをやってみようと思った。まぁ別にツイッターをやるくらい、失うものなんてないんだからとも思った。
「やってみるよ。自分が恥ずかしいと思っているところや家族のことをツイッターに書いてみるよ。だけど……みんな見てくれるかな。ワタシの文章を読んでくれるかな?」
「ふふふ。心配はいらないよ。さぁ恐れずに前に進むんだ。世界は勇気を持って進む者に祝福を与える。きっとすぐに祝福がキミを包むだろう。そしてその時、キミは自分の天命を知るだろう」
そんなわけでワタシは恐る恐るではあるが、ツイッターを始めることになった。
そして開始してすぐのある日、ワタシの1つのツイートがたくさんのRTをされ、ニュースになった。