致知2013年11月号より

 本日、その功績から、
 文化勲章の受賞が決まった
 人間国宝の染織作家・
 志村ふくみさん、91歳。
 
 いまなお第一人者として、
 独自の境地を開拓し続け、
 また若い染織家の指導と紬織の普及に
 努めています。
 
 そんな志村さんが語った
「幸せな人生を送る秘訣」とは――。
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(志村)
 人の人生も織物のようなものだと
 思うんです。

 経糸(たていと)は
 もうすでに敷かれていて
 変えることはできません。

 人間で言えば先天性のもので、
 生まれた所も生きる定めも、
 全部自分ではどうすることも
 できない。

 ただ、その経糸の中に
 陰陽があるんです。
  
 ――陰陽ですか?

(志村)
 何事でもそうですが、
 織にも、浮かぶものと沈むものが
 あるわけです。

 要するに綾(あや)ですが、
 これがなかったら織物はできない。

 上がってくるのと下がってくるのが
 1本おきになっているのが
 織物の組織です。

 そこへ緯糸(よこいと)が
 シュッと入ると、
 経糸の1本1本を潜り抜けて、
 トン、と織れる。

 私たちの人生もこのとおりだと
 思うんです。

 いろんな人と接する、
 事件が起きる、何かを感じる。

 でも最後は必ず、トン、とやって
 1日が終わり、朝が来る。

 そしてまた夜が来て、
 トン、とやって次の日が来る。

 これをいいかげんに
 トン、トン、と織っていたら、
 当然いいかげんな織物ができる。

 だから一つひとつ真心を込めて
 織らなくちゃいけない。

 ――一織り一織りを疎かにすると、
   人生もそのようになってしまうと。

(志村)
 そう、きょうの一織り一織りは
 次の色にかかっているんです。
 
 ――なるほど。
   そのように生きることで、
   志村さんのように自分の道を
   深めていけるわけですね。

(志村)
 いやぁ、深めているんだか
 何してるんだか(笑)。

 でも夢中でひたすら生きていると、
 それをどなたかが見て、
 そう感じてくださることがある。
 
 先ほど自分の色は1色だ
 というお話をしましたが、
 やっぱり人の人生には
 何色もあるわけじゃなし、
 気がつくとその1色を
 ひたすら織っているんでしょう。

 だけどその1色の中に
 多様な色が含まれているということは
 ありますね。

 単なる1色ではなく、
 無数の色が含まれていて、
 自分の人生の1色。

 だから皆さん、
 織物を織っているんですよ。

 自分の人生の織物を――。