今話題の某宗教団体の話とは少し違うが、
私もまだ20代の若い頃、
当時(いまでもかな)有名だった、

某マルチ商法に引っかかりそうになったことがある。


劇作家、役者として頑張っていたが一向に芽が出ず、
やけになり職も転々し、
ほぼ、毎日パチンコに走っていた頃のことである。


どこで知り合ったか忘れたが、
恐らく誰かからの紹介だったと思う、
それはたしか30歳前後くらいの男性だった。

職を探している私に、
【頑張れば頑張るほど成功するビジネス】を、

是非やってみませんか?ともちかけてきた。


まず、
本当に良い素材でできたという
お肌に良い化粧品を勧められた。

そしてその素晴らしさをたくさんの人に伝え、

その人もあなたもいいものを手に入れて、

結果幸せになるビジネスなのだということを語った。
(ちなみに◯◯うぇいではない。)

当然、それだけでは即断るだろう、

しかし当時も(いまも)化粧気がなかった私は、
そのファンデーションを実際に使ってみて、


え?直接手で塗るタイプのはじめて♪
しかもなんか肌にスゲーなじむ??
うわこれ・・・

本当にいいじゃん♪

と思ってしまったのだ。


そこにつけこまれた。


その気になってしまった私に、

彼はカモ一匹ゲット!と思ったにちがいない。

まず私に、

今までの人生で出会った、

思い出せるすべての人の名前と、
連絡先のリストを作れと指示した。

 

 

根が超クソ真面目だった私は、

なんと本当にそれを実行し、

彼のもとに持って行った。

それをみた彼は、

驚きと満面の笑顔でこう私に言ったのだ。

 

すごい!
こんなにきちんとやって来れる人は初めてみました。
素晴らしい素質です!


あなたは必ず成功します。



バカな私はますますその気になり、
そのリストの人に片っ端から、

その化粧品を勧めるという行動を始めてしまった。


いいものをすすめて、
自分も相手も幸せになれるなら、

確かにこんな素晴らしいことはない。
私はバカでいい人だった。

 


しかしそれにはもちろん裏もあった。

 

ひとりに勧めて、

その人がそれを購入するたびに、
あなたに〇万円手に入り、

勧めた人もあらたに、

知り合いを勧誘できるようになるという、

マルチ商法特有の誘惑システムだった。



彼は実際に、

こんなに儲かってしまったという主婦の話や 、
こんなに悠々自適に暮らしていると言う独身男性の話などを、
私にたくさん語った。

さらにすでに大成功しているという

リッチな夫婦のもとに実際に私を連れて行った。

そして、そこでもう一度みんなで、

私をその気にさせるという行動に出た。

今思うと、
他人がどんなに不幸になろうが、

自分たちが裕福な生活できればいいという

冷たさを感じる夫婦だった。


そこまでされて、
なぜまだ胡散臭いと思わなかったのか?


世の中の厳しさに疲れ果てていて、

自分の力で考えるということが

できなくなっていたこともある。


いやしかしそれ以上に、
パチンコで「楽して遊んで金が手に入る」

ことを覚えてしまった私は、

すっかりその甘い海に溺れかけていたのだ 。


目を覚まさせてくれたのは大学時代からの友人だった。


私の誘いにキッパリ、
「いやそれはあまり良い化粧品じゃないと思う。私は買わない!」

といい放った。


大切な友人に毅然とそう否定され、
そこで私は初めて違和感を感じた。


これ、
もしかして大切な人を逆に失う行為?
(気づくの遅い)


そして、
ようやく心の中の信号が黄色に変わり、

足を止めた。


件の胡散臭い笑顔の彼は
突然連絡を取らなくなってしまった私に、

その後も何度かメールをよこしてきたが 、
次のカモを見つけたのだろうか、

あんなに成功すると私を持ち上げていたはずなのに、
その後あっさりと姿を消した。


こうしてなんとか、
マルチ商法から私は逃れ、
少額ながら真っ当に働けている今がある。


マルチ商法ももちろん恐ろしいが、
何よりそれに付け込まれる隙が、

私の心にあったのが問題だったと思う。

その隙を作ったのは間違いなくパチンコだった。


ギャンブルの怖さは、
依存してお金や信頼を失うだけではない。


楽に金を手にして生きていきたいと思い、
そういう話が来ると、
何も考えずに飛びつくようになってしまうことだ。




いったん身に付いた、
楽して儲ける、
儲けたいという甘い深い【毒の海】



いったん溺れるともう陸地には帰れなくなる。



あのとき、
間一髪私を救ってくれた友人には、

今も本当に感謝しかない。