俺を送り指名した男性客は、会社の飲み会で女子社員達を連れてきた部長さんでした。

「君が気に入った!いや、変な意味はないよ(笑)」



その団体客の席には俺も15分だけ着いたのですが、その時の接客を気に入って下さったそうです。
他のホストは新規である女子社員達を奪い合うかのような接客をしていたため、男性客である部長さんには見向きもしませんでした。

…確かにピンポイントで女のコを狙えば自分の指名率は上がります。
でもそんな接客では、来店したお客様全員が満足して下さったことにはならないでしょう。
女のコ達がこの店で楽しめるのは、部長さんがオゴリで連れてきてくれたから。
なのに肝心の部長さんがつまらない思いをしてしまったら、次の来店はないかもしれません…。

俺は席に着くと、盛り上がるテーブルの端で一人黙々とビールを飲む部長さんに声を掛けました。
「本日はご来店頂き有難うございます!お連れの方達、楽しんで下さってるようですね♪」

「そりゃ女は楽しいだろうな。今日は全部俺のオゴリだって言った途端こんなとこに連れてこられたよ」

テーブルのお客様全員に名刺を渡し挨拶を終えた俺は、男性客に聞きました。
「皆さんホストクラブは初めてなんですよね?」

「うん。前からこの店が気になってたみたいでさ、みんな俺と歌舞伎町で飲む日を待ってたって感じ?完全にサイフ扱いだよ(笑)」

「そうですか?初回料金は安いですし来ようと思えば自分達だけで来れます。サイフなんかじゃありませんよ」

「うーん…このコ達は何考えてるか分からないからなぁ」

「初めての場所ってどうしても不安じゃないですか。でも頼もしい方が一緒なら安心して飛び込めるんです。僕も会社員の経験があるんですが、部下との信頼関係を築くのにかなり苦労しました。部長さんはプライベートでもこれだけ部下に信頼されてるってことです!!」

「ははは…そうならいいけど」

俺は他のホストとはしゃいでいる女子社員達に大声で聞きました。
「みんな部長さんが大好きだよねー!?」
酔ってテンションの高い女のコ達は一斉に答えます。
「部長だぁーい好き!!キャハハ♪」

男性客は照れ臭そうに苦笑いしながら言いました。
「お前らあまり飲み過ぎるなよ!」


「羨ましいです、部下にこんなに慕われてるなんて!みんな部長さんがいるから安心して楽しんでるんですね♪僕は男としてあなたに憧れます!!」
そう言うと、男性客は満面の笑みを浮かべて追加注文したビールを俺に差し出しました。

「今日は楽しいな!どんどん飲もう!!」

それから部長さんと互いにビール好きだという話で盛り上がったところで、俺は他の卓へ移ることに。

付け回しの関係上ここに居られるのは15分だと伝えると、男性客は内勤に「もう少しいいだろ」と言って俺を離そうとしません。

他のホスト達にも周り全体を見渡す接客をして欲しいのですが…
自分の指名獲得に必死なあまり、目の前の女のコしか見えていないようでした。



送り指名された俺は部長さんと女子社員、他のホスト達と一緒に店外のエレベーターへ。

女子社員から送り指名をもらった先輩ホストは、そのコの肩に手を回しながら「エレチューしないの?(笑)」と俺をからかいます。

【エレチュー】エレベーター内でのキス。他に卓でキスする卓チューなど

部長さんは「何だか気まずい思いさせちゃったかな?」と言いながら俺に名刺を渡します。
それはなんと…誰もが知っているであろう某大手企業の名刺でした。

外に出て酔っ払った部下達をタクシーに乗せたあと、部長さんは清々しい顔でこう言いました。

「今日は君のおかげで楽しかった!!ありがとう!!また一緒にビール飲もう!!」



お店によって男性客の入店お断りだったり、(男女混合の場合でも)男性客はホストを指名できませんが、A店はOK。
そのためゲイやオカマのお客様もよく来店していました。
指名のチャンスはどこに転がっているか分かりません。

初指名はその部長さんなのかって?

いや、違います。
俺のホスト初指名は意外なきっかけで訪れました。






歌舞伎町でホストをしていると、お金は無いがホストに興味津々という女の子によく遭遇します。

日の出営業の仕事を終え、太陽が真上に昇る頃フラフラと家路につくホスト達。
それを狙っていた女の子達がハイエナのように逆ナンを仕掛けます。
人気ホストともなればまるでアイドル扱いで、店の前で出待ちしているコ達もいます。

俺はまだ始めて間もない駆け出しホストだったので出待ちはなかったのですが、逆ナンはされました。
スーツ姿でマックやカフェアヤに入ると、例え席がガラガラでもとなりに座ってきて「ここいいですか?」という具合に。

歌舞伎町を歩いているだけでも、見知らぬ女の子から「どこの店ですかー?」と声を掛けられたり、「それ○○のシャツですよね!私そのブランド好きなんです!」と馴れ馴れしく話しかけられたりします。

ホストと遊びたくても未成年のコやお金のないコは直接お店に行けません。
だから歌舞伎町をうろついてキャッチ中のホストや仕事帰りのホストと仲良くなろうとするのです。

リスクは覚悟の上だろうけど、無防備すぎる…

こういうコ達がいるからウチの店を騙(かた)って女を漁る偽ホストが後を絶たないんだろうな、と複雑な気分になりました。



来店するお客様の中にもホストに幻想を抱いている方が多く、メディアに露出している幹部ホストを芸能人かと思っているお客様も少なくないようです。

くれぐれも勘違いしないで下さい。
ホストはホスト。
それ以外の何者でもありません。

基本的に、メディアでのホストの紹介の仕方には特徴があります。
徹底的に華やかさを強調するか、人情話や泣ける話を演出するのです。
それにはちゃんと理由があります。

ホストクラブにTVや雑誌の取材が入った場合、出演料は発生しません。
その代わりお店の認知度が上がり、集客に繋がります。
さらにTVや雑誌を見てホストに憧れた若者が面接に押し掛けてきます。
利益が上がり求人費も浮くため、出演料以上の見返りが期待できるのです。

ホスト番組では、惜し気もなく大金を使うお嬢様や女性実業家のお客様が映ることがありますが、あれは大半が仕込みです。
人気ホストが住む高級マンションや乗っている高級車、身に付けるブランド品も仕込む場合があります。

TV局側や出版社側も視聴率や雑誌の売上が大事ですから、進んでヤラセに協力します。
ドキュメントと銘打っておきながら「インパクトが足りない」と言ってお客様に札束を持たせて撮影することもあります。

夜の世界はお金が全て。
ホストクラブに興味がある方は、ホストはお金のためなら何でもするということを理解して下さい。
メディアに踊らされて憧れや幻想を抱いて近寄ると、思わぬ火傷を負ってしまうかもしれません。

俺もTVで見るホストのイメージに踊らされた一人と言えますが…(^_^;)



ある日、お客様にマジックを披露する俺を見ていたナンバー上位のR先輩が「俺が同じことやったら確実に金取れるわ」と言いました。

「何かひとつぐらい教えてくれよ」
翌日R先輩から強い口調で言われた俺は、立場上断る訳にいかず…
開店前の店内で簡単なネタを教えることになりました。

ネタを覚えたR先輩は、来店した自分の指名客にさっそくマジックを見せます。

「これもし出来たらボトル入れる約束な♪」
「えーそんなこと出来るワケないし!いいよ♪」
───マジック披露───
「超すごーい!!R君マジック出来るんだー!!」
「俺、昔から何でもすぐマスターしちまうからさ♪」
「ほんとR君って何でも出来るもんねー!!」
「出来ないのはお前と会うのを我慢すること位かな(笑)じゃあボトル入れようぜ♪」

キャーキャー言いながらはしゃぐお客様は、目がハートになっています。
このお客様は、担当ホストがやれば何だろうと最高なんだろう。
どこかで見た光景…
宗教だ。
宗教に陶酔している信者の目だ。

あのオウムの麻原彰晃は、ジャンプして足を組んだ瞬間を撮るという子供騙しの空中浮遊写真で信者に崇(あが)められていました。
なんて稚拙なトリックを…と思うかもしれませんが、ビリーバー(盲信者)にはそれで充分。
例え教祖の言動にボロがあっても、全部都合のいい方に解釈してくれます。
確証バイアスと呼ばれる心理状態です。
信者という字を合わせれば「儲かる」という字になるのです。

俺はそんな環境で利己的な満足を得る為にマジックを演じている訳ではありません。



この欲望が渦巻く歪んだ街で、ほんのひとときでも夢を楽しんで欲しい。

色んな夢を思い描いていた幼少時代の純粋な心
自分の可能性を信じていた青春時代の熱い想い

日々の生活に追われるうち忘れかけていたそんな感情を、ふと思い出して欲しい。

夢を叶える魔法(マジック)を生で見ることで、願望実現にとって大切なのは〝明確なビジョン〟だということを体感して欲しい…。

そんな思いで、不可能を可能にする数々の奇跡を演出しているのです。



ホストクラブの設定料金は夜の世界の中で特に高いので、営業中の接客は常にTOPでなければなりません。
プロ意識を持つ必要があります。
だから俺は、常に最高レベルの接客とクオリティの高いマジックを目指しています。

なのに、サービスの質とは関係なく対価が発生しているこの状況…
たった数分で覚えられる宴会芸程度のマジックがウケている現実…
悲しくなりました。



その日仕事から帰ると、俺はホスト専門の掲示板サイトで愚痴をこぼし始めました。

以前後輩から勧められて半信半疑で始めた、ネットを使う営業法。
メールは週4~5人のペースでもらうのですが、指名に繋がるような相手はなかなかいません。

興味本位で連絡してくる中高生やプライベートでだけ会いたがる人。
すでに担当ホストがいて、そのホストについての情報を得ようとする人。
ホストに憧れる男の子からの質問責めetc...

いつしか俺はネット上で自分をアピールすることに疲れ、掲示板への書き込みでストレス解消するようになっていたのです。



そんなとき、掲示板を見たという女性から1通のメールが届きました。

『私は銀座でホステスをしています。
同業なのでお気持ちよく解ります。
あなたに興味を持ちました。
色々お話してみたいです』

それからメールや電話で話してみて、この女性は一時代を築いた某カリスマホストの元エースだということが分かりました。

【エース】一番の太客。太客とは大金を使う客のこと(⇔細客)

明らかにホストの話術やテクニックを知り尽くしています。
まして同業ですから尚更…。

でも、これはまたとないチャンスじゃないか?
俺が考える理想のホスト像が通用するか試す時がきたんだ!!

最低保証期間の3ヶ月を過ぎようとしていたので、心中は穏やかではありません。
すぐにガッつきたい衝動を何とか抑えながら、慎重にそのホステスさんとのメールを続けました。



入店4ヶ月目に突入して間もなく、ホステスさん(以降「麗さん」とします)から食事に誘われました。

待ち合わせ場所は新宿駅西口。
いつも歌舞伎町がある東口しか利用しない俺にとって、西口は縁のない場所です。

現れた女性は、それまで写メでしか見たことがないにも関わらず、すぐに麗さんだと分かりました。

スラッとした長身に手入れの行き届いた髪、見るからに高そうな服と装飾品、手にはバーキン。
パッと見で洗練された高級感というか、気品のある高貴なオーラを感じます。
さすが銀座の女(´ω`*)

「緋色君だよね!初めまして♪お店予約してあるから行こうか」

穏やかで親しみやすく、それでいて一分の隙もない立ち居振舞いに、俺は身が引き締まる思いがしました。
このチャンス、絶対に逃さない!!






○○に取り憑かれ、徐々に侵されていく心。
侵食から自分を守る為、俺はある大きな決断を迫られる。

 

 


次回最終話「ホストマジシャン4 まごころを、君に」

みーんなで見てね♪