〘時の流れに翻弄される命〙

5月末の里親探し会に向かっていた車の中に、かかってきた電話〜随分懐かしい名前が表示されました。確か7年位前に、兄弟猫の里親さんになってもらったお宅のお父さんです。
会場に着いてからかけ直すと、力のない声で窮状を訴えられたので、びっくりしました。なんと、末期ガンであと少ししか生きられないそうです。最期を家で過ごしたいと戻っできたけれど、娘さんとも連絡が取れず、病院に戻るしかないので、猫を引き取って欲しいと懇願されました。明日訪ねる約束をして、電話を切りましたが、7年の歳月の間にすっかり様変わりしてしまった、そのお宅の状況を理解しかねていました。

翌日訪ねると、まだ50代のお父さんは、抗がん剤の影響か、すっかり髪もなくなって痩せ細り、ベッドから起き上がることもできずに、「申し訳ない」と繰り返すばかりです。ベッドの下から、大きくなった黒白の『パロ』が出てきました。昔から人なっこい子でした。
もう1匹の白猫『タマ』は2階の部屋に籠もりきりだとか。その部屋はドアに鍵がかかって入れないので、ベランダから入って連れて来るように言われました。

大きくて立派なお宅でしたが、今では荒れ果てていました。2階のベランダから回ると、その部屋のサッシが少し開いていたので、ドキリとしました。以前は娘さん達の部屋だったところです。子猫を迎えてはしゃぐ姉妹と見守るお父さん、お祖父ちゃん、家族のスナップ写真が、私の中でメラメラと燃えて、焦げかすが、風に転がされているような虚無感に苛まれながら、タマを探しました。
部屋の中は雑然として、ゴミが散らかり、猫のトイレはウンチだらけでした。お祖父ちゃんは亡くなったそうですが、ふたりの娘はどこに行ってしまったのでしょうか。
タマを見つけられなくて、一度降りてお父さんに聞くと、閉まっているはずのベランダのサッシが開いていたのなら、「外に出たのかもしれない、昨日から、上の部屋の音が聞こえてこないんだ」と頭を抱えてしまいました。いたたまれなくなって、私は再び2階に上がって、もう一度よく探しました。そして、見つけました!毛布の中に隠れていました。洗濯ネットで確保して、キャリーバッグに入れました。なんと、重いこと〜やっとこさ、階段を降ろしました。お父さんの安堵の表情に、こちらも胸を撫で下ろしました。
「パロは膀胱炎になりやすいから、念のため結石用の療法食を食べさせている」と持たせてくれて、猫砂の買い置きも持って行くように頼まれました。そして、「少なくて申し訳ない」と言いながら、2万円渡されました。「最後まで見てやれなくて、ごめんなぁー」と泣いていました。

重い重い猫ふたり、7年の歳月を経て、アニマルクラブに戻って来ました。仮設住宅で猫を増やして、復興住宅に移る際に、困ったおばあさんから押し付けられた母猫と5匹の子猫〜母猫と子猫3匹はそれぞれ良いお宅に巣立って行って、今も不妊予防センターに来てくれているから、この兄弟のことはたまに思い出して、気になっていたのです。
こんなに形で暮らしぶりがわかり、そして出戻って来るなんて想像もしなかったけれど、知った以上は、やり直せます。最初のうちは隠れていたタマも、まもなくすっかり甘えん坊になりました。
生きていればやり直せることを、生きる望みを閉ざされた人との約束だと思って、この子たちの幸せのために尽力したいと思っています。





毛布の下に隠れていたタマを発見、洗濯ネットに入れて、逃げられないように身柄を確保。




アニマルクラブに連れてこられてまもなくは、タマはベッドの下に潜っていました。





ずっしり重たい兄弟を、幸せ太りにしてくれる、あったかいお家はありませんか〜?