そこの貴婦人、まじ理不尽

そこの貴婦人、まじ理不尽

あぁ、タコス食いてぇ

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静岡県S市、大勢の観光客で賑わう駅から数分歩いた住宅街の一角にその家庭はあった。

50坪の敷地にポツリと佇む1階建ての平屋、決して裕福とは言えないものの陽気な6人家族が営む温かい家庭があった。


某日正午居間にて

まる子「フウウウウウウウ!!!やっぱコロンビア産のマリファナは最高だぜ!!スカッとするんだよな!!」

さくらももこ小学3年生。周りからはまる子と呼ばれている。元軍人であり、様々な紛争地帯へ赴いては敵兵をちぎっては投げちぎっては投げ、「オホーツク海の大戦」においては極寒の海の上、筏一隻で敵軍の領土に踏み込み、最新鋭の軍艦を所持した1万人規模の大隊を一人で壊滅させる程の軍事力を持っていた。その他にも数々の勲章を得るほどの功績を果たし、軍からは「英雄」と称され讃えられる程の人物であったが、”ある事件”をきっかけに軍を辞退し、それからというものは酒やドラッグに溺れた為体な日々を送っていた。


友蔵「まる子や…大麻をやるなんて普通じゃないぞ…抜け出せなくなる前にやめるんじゃ…」

さくら友蔵、まる子の祖父である。

まる子「うっせぇ!!!型遅れのポンコツじじいは七並べでもしてろや(笑)」

まる子はやけに甘い香りのするタバコに年季の入ったオイルライターで火を着ける。

友蔵「うう…昔はあれほどまでに愛らしかったのに、一体何があったんじゃ…嘆きかな 愛しの孫に 追いやられ 友蔵、心の俳句」

友蔵が酷く悲観的な俳句を読み終わるか否か、そんな刹那に空を切るかのような騒々しい轟音が鳴り響いた。

ブオオオオオオオ!!ドカーン!


壁と窓ガラスを見事なまでに粉砕して93年型スカイラインGT-R32が居間に乗り上げてきた。

立ち位置が災いした友蔵はその衝撃から廊下まで吹き飛ばされ壁に体を強く打ち付けた。

「イエア!」

太陽の灼熱を帯びたブルーメタリックの車体(ボディ)から降りてきた男はまる子の父親、さくらひろしである。

身の丈はゆうに200cmを超える巨漢だ。

大木ほどの太さを持つ腕からは想像もつかないほど優しく、それこそ小川の和流のような手つきでそっとまる子の頭を撫でた。

まる子「ダディ!その顔じゃあ、今日も勝ったんだね!」

ひろし「ったりめーよ!鼻頭をちょいとつついてやったら泡吹いて昇天しちまいやがるんだぜ。全く、張り合いがねーよ」

ひろしはそう言って片手に担いでいた大きな袋を勢いよく地面に落とす。

中からは数え切れない程の金貨が溢れ落ち、一帯を埋め尽くした。

S市では週に1度、市が運営するバトルロワイヤルが開かれており、勝者には莫大な賞金が入るシステムが導入されている。

ルールは至って簡単。武器なし防具なしの1本勝負、己の体のみを使い対戦相手を戦闘不能状態にさせる、もしくは降参させることにより勝敗が決まる。

ひろしはこの催しのチャンプであり、専門家からは「歴代の中でもトップクラスの強さ」と言われている。

余談だが、賞金、運営費など催しに関わる全ての費用は税金があてられているため、これにより生計を立てているひろしは公務員ということになる。

ひろし「おっと、タバコタバコ」

ひろしが車内に置き忘れたタバコを取りに行こうとした次の瞬間

ズゥン

実に一瞬の出来事であった。

先ほど家屋を半壊させておきながら傷一つつかなかった鋼鉄のGT-Rが一瞬にしてせんべいほどの薄さにまで押しつぶされたのである。

まる子は呆気にとられ、思わず「ふぇ?」と情けない声を出した。

GT-Rを押しつぶした”モノ”の正体が人体で言うところの足だからである。

かかとからつま先まで軽く5mはあるであろう足の裏がゆっくりと浮き上がり無残にひしゃげた車体を露わにする。

この滑稽な童話のような光景を目の当たりにしてまる子は喉の奥からひねり出すかのようにゆっくりと呟いた。

まる子「まさか…」

かけていた大きめのサングラスを外しながらひろしが答える。

ひろし「マザーだ…」

ようやく正気に戻ったまる子が激しく獅子吼する。

「冗談だろ!!!まだ”時期”じゃないだろ!!」

ズゥン

太刀の用に鋭い踏みつけがまる子の目と鼻の先に振り下ろされた。

主柱が傾き家屋は倒壊寸前の状態になる。

先ほどより明らかにテンポの速いステップ、足の裏はすぐさまポッカリと開いた天井の奥へと消え、次にまる子の頭上へと黒い影を落とした。

ひろし「まる子危ない!!!」

ひろしが危険を告げるも虚しく「ズン」という鈍い音が部屋中に響き渡った。

ひろし「そ、そんな・・・」

ひろしが絶望からがっくりと膝を付き、その場に頭を垂れた。

ひろしほどの猛者ですらただ見ていることしかできなかった圧倒的圧力を前に、生命を維持するのは難しいだろう、そんな至極当たり前の常識を覆すかのようにしゃがれた声の主が言う。

「まる子や、大丈夫か」

頭を抱え縮こまるまる子の頭上には超大な足の裏を両手で受け止める友蔵の姿があった。

俄かには信じがたい情景。

ヒョロヒョロにやせ細った体のどこにそんな力があるのか。

ひろし「じ、じいさん!」

友蔵「ひろし…全く情けない奴じゃの…娘の危機を前に微動だに出来ぬとは」

まる子「じじい!!!お前…なんで…なんで俺を助ける!!いつも馬鹿にされて!卑下されて!見下されてた俺なんかを!!」

友蔵「ふぉっふぉっふぉ。孫、だから。それだけの理由で助けちゃいかんかね?なんならもっと言ってやるぞ。優しく、健気で、真面目ゆえに、そして、笑顔が素敵だから…ゴフッ!!」

友蔵はその場に吐血した。

まる子「じじい!!何やってんだよ!!マジで死んじまうぞ!早くそこどけ!」

まる子は眼をひん剥き叫ぶ。

友蔵「バカを言え。儂がどいたらお前はあの世行きじゃ。そうじゃ、これを使え。マザーを封じ込める唯一の手段じゃ。儂では使えなんだが…お前ならきっと…」

友蔵は息も絶え絶えそう言ってまる子に古くから一家に伝わる家宝「マスターボール」を手渡した。

まる子「なんだよこれ!こんなおもちゃでこいつをどうにかできるってのか!」

次の瞬間、家屋が大きく傾いた。

ひろし「まずい!!このままじゃ!!」

友蔵「ひろし!まる子を連れて逃げろ…!!」

まる子「何言ってんだよ!!じじいを置いていけるわけねぇだろ!」

ひろしがまる子を抱きかかえて走り出す。

まる子「おい!やめろ!降ろせ!!」

混乱しながらまる子が喚き散らす。

ひろし「じいさんは生命力を闘気に変えてお前を守ったんだ。どの道もう長くはねぇ。そして何より、漢の覚悟を無駄にするんじゃねぇ!!」

ひろしは抱きかかえたまる子にそう言い聞かせた。

残り僅かな生命力を全て放出し目視で確認できるほどの濃密な闘気を放ちながら友蔵は言う。

友蔵「ふぉっふぉ。いくら人体改造されたからって、実の娘を殺しにかかるとはあんたも堕ちたものだな。すみれさん。」

大きな足の主はその言葉に反応し、更に力を強める。

友蔵「ぐおお…!!本気を出してもこの程度とは、儂も老いたものじゃ。さて、それじゃあそろそろ逝こうかのう。まる子、達者でな。散りぬるを 愛しき孫の 糧とせん 友蔵、最期の俳句」

ズズゥン!!!!

これまで数え切れない程のかけがえのない思い出を作り上げてきたさくら家が音を立てて崩壊する。

まる子「うわああああああああああああ!!!!!!!!!!」

立て続けに起きたあらゆる惨劇がまる子の精神を崩壊させた。

白目を剥き気を失うまる子。

ひろしは持てる全ての力を使い走った。

得体の知れない巨大な災厄から逃げるように。

しかし、100mを5秒で走りきるひろしの脚力を持ってしても”それ”の力の前では何の意味もなさない。

一瞬で差を詰められ逃げ場のない細道へと追いやれてしまう。

ズズゥン!!

大砲のような巨大な拳が硬いコンクリートを抉り目の前に叩き落とされる。

ひろしが絶望に陥る暇もなく次の一撃が繰り出される。

その瞬間、まる子の体が淡い褐色のオーラを放ち始めた。

ドン

周りの建物を吹き飛ばしながら迫り来る拳がひろしの目の前で止まったのだ。

小さく、華奢なまる子の片腕がそれを受け止めていた。

バランスを崩した巨体はその場に大きく尻餅をついた。

まるで爆弾を投下したかのような衝撃だ。


つづく