「逃げようなどと思わないことだ」

四畳半ほどの薄暗い部屋。

感情のない淡々とした口調でわたしを一瞥すると、その人は部屋を出て行った。

過激な思想で反対勢力を徹底的に排除するために実力行使も辞さない、自称治安維持の集団。

わたし達は彼らに軟禁された。

わたしの他には白髪頭の男性と、年端も行かない兄妹が、それぞれ別々の部屋にいるらしい。

見るからに強そうな彼らにとって、わたし達が危険因子になるとはとても思えない。

だけど、近日中には取り調べ…人権の守られた事情聴取などではなく、一方的に自白を強要する拷問が行われるらしい。

そして、その取り調べから生きて帰ってきた人はいない。

「どうしてそんなヒドいコトを…」

「さぁ、難しい事はわかりません。私は言い付けを守るだけです」

さっきの一際冷たい目をした人と入れ違いで部屋に入ってきた人は、爽やかな笑顔でわたしに応えた。

他人事のように色々教えてくれたその人は、見るからに一番優しそうなのに、一番多くの人を手にかけてきたらしい。

なんとか逃げ出さなければ…。

かといって訓練の行き届いた屈強な人たち相手に、玄関から出ていけるワケがない。

わたしは静まりかえった夜中を待って、天井裏を這って白髪頭の男性の部屋へと進み、作戦会議をした。

この時間なら見張りも手薄みたいだし、湖畔に小舟が繋留されているのが見えた。

あそこまでたどり着けたら助かるかもしれない。

おじさんが具体的な脱出ルートを検討する間、わたしは子供達にもそれを伝えに行った。

今日はもう夜明けが近く危険だ。

明日の真夜中、天井裏から脱走する。

そしてみんなで助かろう。

次の日。

わたしの見張りはあの冷たい目の人だった。

これから市街の警備に向かうらしい。

今なら抜け出せるかもしれない。

でもおじさん達に連絡してる時間はない。

「ごめんなさい!必ず助けに来るから」

わたしは屋上に駆け上がり、パイプを伝って脱出して湖畔の小舟にたどり着いた。

と、そこにはあの冷たい目の人が待ち構えていた。

追手の足音も近づいてくる。

もう終わりだ…。

「…逃げろよ」

わたしは耳を疑った。

彼は追手の人たちを追い返し、わたしを小舟に乗せて見送ってくれた。

……という夢を見た。

匂いや体温まで伝わってきそうなリアル感のある夢だったけど、冷たい目の人は土方さん、爽やかな笑顔の人は沖田くんと言っていた。

そう、新撰組。

こんな夢見るなんてゲームに影響されすぎだって、わたし(^д^;ヾ
恋愛って脳が勘違い起こしておかしくなってる状態…ってコトを、テレビかなんかで聞いた覚えがある。

脳科学の人じゃなかったかなぁ…たぶん。

いかにも男の人の意見だなぁ~って思えて笑ってたけど。

まぁ、そう言いたくなるのもわかるかな。

スゴく身近な人が奥さんいる人と付き合ってるのを知って、やめた方がいいよ?って説得に入ったら、「あなたは本当の恋愛したコトないからわかんないでしょ」って言われた。

不倫が本当の恋愛だとも思えないけど…。

ただ、気持ちはわかんないでもないんだよね。

「いっつも『人のため、人のため』って自分のコトは後回し。見てるとムカつくんだよね、そういうの。本音は誰だって自分が一番可愛いに決まってんじゃない」

偽善者って言いたいらしいけど、わたしは誰のためでもなく、自分のやりたいようにやってるだけ。

本当の恋愛がどんなモノかは知らないけど、わたしも立派なサイコになった恋愛したコトあるし。

具体的に書くと本一冊できちゃうくらいになるので端折るけど、その人には彼女も奥さんもいなかった。

穏やかそのものって顔立ちで、170㎝近くあるわたしが見上げるくらい背も高く、ガッシリとした筋肉質で、実際腕力自慢が集まる中でもかなりパワフルだった。

その彼が、事ある毎にわたしを助けてくれて、気が付けばいつの間にかわたしの側にいてくれた。

初めは入社間もないわたしが危なっかしく思えたからだと思ってたけど、後日談では「あの人(わたしのコトね)にあんまり近寄んなよ。俺がフォローするから」って彼がみんなに言ってたとか。

ほんの些細な理由から揉め事となり、わたしはプンスカ拗ねて帰ってしまう。

帰りの車の中で何度も鳴るケータイ。
彼からの電話もメールも拒否し続けると、彼は大慌てで追いかけてきてたらしい。

そしてウチの近くでついに捕まり、「あなたは他のどんな事より大切な人なんです。この先ずっと、何があっても俺が守りますから」と言ってくれた。

たぶん、この時よりずっと前に彼を好きになってたんだと思う。

でもわたしは知っていた。
彼と結ばれるコトは絶対ないって…。

ツラい日々が続いた。

わかっていても、どんなに遠くても彼の姿は見つけられたし、声が聞こえればもちろん、どこかで彼の名前を見つけただけでも嬉しくて仕方なかった。

でもわたしにはどうするコトもできない。

ある日、真っ昼間の人が行き交う街道沿いで、思わず「誰でもいいから助けてよぉ~ッ!」と大声で叫び、その場で泣き崩れた。

もう限界だった…。

その後、酔った勢いで何時間も彼を罵倒し続け、交友関係も新しいプロジェクトも全てブチ壊して、わたしは半年足らずで会社を辞めた。

ね?立派なサイコ、わたしもやってるでしょ?
「お前って、頭いいクセにホント、バカだよな」

例えば音とか温度みたいに、こっちが望まないのに感じてしまうコト。

選挙の度に大音量で走る車や、節電でエアコン控えてる時の猛暑。

心頭滅却すれば火もまた涼し…なんて技、わたしは持ってないので、気付かないフリして涼しい顔はできない。

それと同じで、ツラそうだったり哀しそうだったり困ってたりするのに気付いたら、ジッとしてなんていらんない。

でも、それって迷惑だったりするらしく…。

触れないでいるコトが優しさ…って何かで覚えがあるけど、ただ黙って見てるだけってのも苦しいよ。

それが自立した大人ってコトなのかなぁ…。

だからお子ちゃま扱い、おバカ呼ばわりなんだね。

難しいなぁ…