2019年ウインブルドン・テニス、男子シングルス決勝。4時間57分の熱戦は感動的なものだった。翌日が振替休日のおかげで、フェデラーの敗戦を最後まで(早朝4時頃?)見届けることが出来た。総ポイント数やウイナー(決定打)ではジョコビッチを上回りながらも、最終セットで2度のマッチポイントを決められず、タイブレークをも失い敗れた。

 今年のウインブルドンでは、準々決勝(VS錦織)、準決勝(VSナダル)、そして決勝のジョコビッチ戦と、37歳(もうすぐ38歳)にして、芝における、生涯最高のパフォーマンスを観せてくれた。

 

 かつて、フェデラーは、シングルハンドの弱点である、バック側の高いところを攻められ、ナダルに勝てず引退を囁かれた時期があった。勝負所でバックに来た、高くて緩いボールを吹かしてしまったり、長いラリーになって、フォアハンドの遠くに走らされると、足が追いつかずにネットミスする、といった光景を何度も見せられた。

 

 フェデラーが、90平方インチのラケットを、より大きな98平方インチのラケットに変えたのは(現在は97平方インチ)、31歳(2013年)の時である。ちなみに、ナダルはずっと100平方インチ、ジョコビッチや錦織圭は95平方インチの大きさのラケットを使っています。

 大きなラケットに変えたことで、片手バックハンドの威力と安定度が増し、おまけにサービスとボレーの安定度も増した。さらに、加齢による体力の衰えをカバーするために、長いラリーを避け(多少のミスは覚悟の上で強打し)、サーブ・アンドボレーの比率を高めた。その成果がはっきりと表れたのが、2017年のグランドスラム大会、全豪オープンとウインブルドンの優勝であった。全豪オープンでは、ナダルの強力なトップスピンをバックハンドで強打し、エース取って勝ったときには、長年のうっぷんを晴らすことが出来た。4年間かけてやってきたことが間違いでなかったことを証明してみせた。

 そして、今年のウインブルドン準決勝、ナダルとの一戦でも、『2008年決勝、ナダル VS フェデラー(ウインブルドン史上のベストマッチと言われている)』とは、まったく違った内容の、『進化したフェデラー VS 進化したナダル』の対戦を観せてくれた。

 

 2019年7月14日の決勝戦、<9回目のウインブルドン制覇は間違いない>と、おじいちゃん先生は皮算用して、テレビの前に座っていた。ところが、フェデラーにとって不運なことが次々に起こった。5セットマッチの中で失った3セットがすべてタイブレーク。最終セットのサービスも、ジョコビッチに回った。そして敗れた。

 試合後のオンコートインタビューでフェデラーは「この結果は忘れない。本当に素晴らしい試合だった。とても長くて、内容が濃かった。最高のテニスができたと思っている」と振り返っていた。その時、おじいちゃん先生の頭に浮かんだのは、<フェデラーが引退して年を取った時、この試合をどのように振り返るのだろうか>ということでした。

 選手本人の立場からすると、ベストマッチと言えば、勝った試合のことをいう。フェデラー・ファンのおじいちゃん先生から見た、これまでのベストマッチは、2017年の全豪オープン決勝、ナダルに勝った試合でした。しかし、令和元年7月15日午前4時からは、痛恨の敗け試合となったこの一戦が、おじいちゃん先生にとっての、“フェデラー生涯のベストマッチ”になったんです。

 フェデラーがラケットを大きくしたことで、ナダルやジョコビッチなどに再び勝てるようになり、選手生命が伸びたことは、おじいちゃん先生にとって、あまり意味があることではありません。おじいちゃん先生にとっての意味は、大きなラケットに変えたことで、別人のようなフェデラー、進化したフェデラーを観ることが出来たことです。フェデラーの全盛期と言われる、2006年頃の試合と現在の試合とを比べてみると、まったく違ったスタイルのフェデラーを観ることが出来ます。現在のフェデラーの方が、はるかに多彩なテニス技術を駆使していて魅力的です(テニスが上手くなっている)。観ていて面白いんです。ラケットを大きくしなかったら、決して観ることのできなかったフェデラーを、現在観ることができるんです。たとえ、試合に勝とうが負けようが。

 

 この日、センターコートの観客のほとんどがフェデラーの応援をしていた。攻撃型で、自分からエースを取って勝とうとするフェデラー。守備型で、相手のミスを誘って得点し、堅実なプレーをするジョコビッチ。私を含めた素人さんは、フェデラーのテニスに魅力を感じてしまう。フェデラーが、“記憶に残る、史上最強のオールランドプレーヤー”だとすれば、ジョコビッチは、“記録(タイトル獲得数)に残る、史上最強のプレーヤー”になるだろう。

 

 

補足:テニスにあまり興味がない読者の方に、ラケットが大きくなると、どんな良いことがあるかを説明します。ラケットには、スウィートスポットといって、そのエリアでボールをヒットすると、思い通りにボールを飛ばせるエリアがあります。ラケットが大きくなると、そのエリアも大きくなるので、ミスショットが減ります。全てのショットをスウィートスポットに当てることが出来るのであれば、スウィートスポットが小さくても構わないのですが、相手の返球は、そのスピードや回転、地面の凹凸、風の影響などを受けて常に変化します。また、自分の体勢が悪ければ、どうしてもスウィートスポットに当てられないこともあります。したがって、スウィートスポットは大きい方が有利なんです。大きいラケットは、スイング中に風の抵抗を受けるため、スウィングスピードがやや落ちるという欠点はありますが、有利なことの方が勝ります。プレーヤーの技量や戦術に応じて、適切な大きさがあるといえるでしょう。