“ペットロス症候群”とは、ペットを失うというストレスが契機となって発症した精神障害のことを言います。精神症状としては、うつ状態(不眠、悲哀、不安焦燥感、気分易変、抑うつ気分、意欲低下など)が最も多いのですが、神経性胃炎や胃潰瘍などの身体症状として現れることもあります。最近は、ペットを飼う人が増加して、ペットロス症候群に陥る人も増えています。1~2か月以内に症状が消失すれば、それは正常な反応といえますが、2~3か月以上も続くようであれば、それは精神科的治療の対象となります。

 

 先日、スマナサーラ長老の仏教法話『無所有こそクール』を聴講していて、思わず、H子さんの顔が目に浮かんだ。

 

H子さん(50歳)、初診日:平成16年、診断名:不安障害、神経症性うつ病

 H子さんは、会社での対人ストレスを契機として、うつ病を発症。休職可能な期間を使い果たして退職。うつ状態がある程度回復した時点で、平成17年3月、「高校を卒業したときから、トリマーになるのが夢だったので、トリマーの専門学校に通います。そういうものがないと、トリマーとして就職できないんです」と嬉しそうに語った。そして、「勉強にもなるので」と言って、(犬1匹、猫1匹)を飼い始めた。

 

 その後、専門学校に通いながら、ペットショップのアルバイトを始めた。しかし、もともとあった「電車や約束の時間に合わせられない」などの症状から、専門学校もアルバイトも続けられなかった。それと共にペットの数が次第に増えていった。私は当時、そのことに全く気づいていなかった。

 

平成21年8月

 「犬に子供が生まれて、外出が出来なくなっているせいか、犬をうるさく感じたり、イライラしたりしている」と。

<ところで、今、ワンちゃんは何匹いるの?>と初めて訊いてみた。すると、

犬11匹、猫4匹です」といわれ、私はとても驚いた。

平成22年11月

 思いがけない不運が、H子さんを襲った。左側頭葉の動脈瘤破裂による、くも膜下出血。運よく、麻痺や言語障害を免れたが、手術後の創部の痛みがひどく、引きこもりがちな生活がエスカレートしていった。

平成23年6月(犬12匹、猫5匹)

 さらなる不運が起こった。「飼ってた犬が、5月20日に亡くなった。フレンチドックにかみ殺された。他の犬も、まさに血だらけの光景を見ちゃって。心が折れて、一日中泣きっぱなしで、何もできないでいます」と。それ以降、不安抑うつ状態が急激に悪化。一人では、近所に買い物に行くことさえ困難になり、ペットへの餌やり、糞の後始末、部屋の掃除だけが日課になった。

平成25年3月(犬10匹、猫4匹)

 「私がいないと、犬が吠えるので、外には出かけられない。・・・」「あの事件をまだ引きずっている。犬に癒されている部分もあるので、どうしても手放せない」と。この日の話し合いで、<少しずつでもペットを減らしていこう>ということになった。しかし、自分の意思だけでペット(生き物)の数を減らせるわけではない。以後、H子さん自身が来院することが少なくなり、友人が定期的にクスリを代わりに取りに来るようになった。そうして、6年余の歳月が過ぎ去った。

 

令和元年7月(犬7匹、猫1匹)

 久しぶりに、H子さんの話を聴いた。「立て続けに犬が亡くなった。・・・私が自分でたくさんのペットを飼って、死んでいくたびに、ロスになっているのだから、自業自得ですよ。」と、しみじみと語った。

令和元年11月(犬6匹、猫?)

 「一番長かった犬が亡くなった。犬が寝たきりになって、介護したり、点滴したりしています。私も年だし、もう、ペットの数は増やさないようにします」と笑った。

 

 

 さて、スマナサーラ長老の仏教法話の一節とは、以下のようなものでした。

 

 「ペットを飼う(所有する)ことについてくる苦しみは、楽しみよりも大きい。・・・例えば、象やトラを飼うことを考えてみたら想像できよう。・・・愛着のレベルに応じて、得る苦が変わる。愛着が強いほど、保持苦、失う苦が酷くなります。所有する意図がある限り、苦はついてくる。・・・」と。

 

 長老が説く、「愛着が強いほど、保持苦、失う苦が酷くなります」を、ペットロス症候群の患者さんの治療で何度も見てきました。ペットに対する依存度、ペットに対する期待が大きければ大きいほど、ペットロスの症状は酷いものになります。

 ペットを飼っている最中では、「苦しみが楽しみより大きい」ということには、なかなか気づけないものです。多くの人は、ペットを失ってはじめてそのことに気づきます。

 <ペットを飼う場合には、「苦しみが楽しみより大きい」ということを、前もって覚悟(受容)してから飼い始めてください。そうすれば、ペットロスの症状は軽く済みます。もし、「苦しみが楽しみより大きい」ということを覚悟(受容)できないのであれば、飼うのをやめた方がいいと思います>。これが、おじいちゃん先生の見解(我見)です