現在、私がクリニックで処方している睡眠導入剤の大半が、2000年に発売されたマイスリー(ゾルピデム)です。マイスリーは、ベンゾジアゼピン(BZD)系睡眠薬に分類されていて、それ以前に主に使われていたベンゾジアゼピン(BZD)系睡眠薬(レンドルミン、ハルシオンなど)に比べて、筋弛緩作用が弱く、依存のリスクが低いので、高齢者の不眠治療にも重用されてきました。私のクリニックにおいて、BZD系睡眠薬からBZD系睡眠薬への切り替えは、ほぼ完了しています。私にとって、この切り替えは、それほど難しいものではありませんでした。

 2014年になると、ベルソムラ(スボレキサント)という、長年使われてきたBZD系睡眠薬やBZD系睡眠薬とは全く性質を異にし(作用機序が異なる)、薬物依存やその他の副作用がほとんどない(夢のような?)睡眠薬が、世界に先駆けて日本で発売されたのですが、それを受けて早速、BZD系睡眠薬(マイスリー)からベルソムラへの切り替えを試みました。より安全性の高い薬があるのなら、そちらに切り替えるのが、自然の成り行きというものでしょう。しかし、その切り替えは、「この薬は私には合いません」「この薬は効きません」といった患者さんたちの抵抗にあって、うまく行きませんでした。当時は、新薬であったため、医者も患者もベルソムラという薬の特徴がつかみきれていなかったからだと思います。目先の効果に囚われて、長期的な視野に欠けていたからです。

 しかし、数年前から再度、マイスリーをベルソムラに切り替えられないものかと挑戦しています。長期にわたってマイスリーを服用している患者さんが、マイスリーを断薬もしくは頓用薬にまでもっていくための、中間段階としてベルソムラを使えないかと考えたからです。もちろん、そんな面倒くさいことをやらずとも、マイスリーを漸減して断薬できるのがベストです(それができた患者さんもいます)。しかしながら、患者さんそれぞれの事情があるため、現実的にそう簡単にはいきません。マイスリーを下手なやり方で中止して、うつ病や不安障害が再発しては困りますし、“生活の質”(QOL)がガタ落ちするのでは意味がありません。ゆっくりと時間をかけて、断薬ないしは頓用にまでもっていけばいいんです。マイスリーをはじめとするBZD系睡眠薬を、頓用薬として使えるようになれば、“生活の質”(QOL)を落とすことなく、副作用も気にすることなく、一生使えるのですから。参考:マイスリー(ゾルピデム)の特徴とその使い方』、『マイスリーとハルシオンの大きな違い』。

 

 これから何回かに分けて、ベルソムラ(スボレキサント)という睡眠薬にまつわる、おじいちゃん先生の経験と考察をお話ししていきたいと思います。一種類の睡眠導入剤について、これだけ考えるなんてことは、初めての経験です。好奇心が強く?、時間的に余裕のある精神科医でないとできないことかもしれません。

 

(補足)マイスリー(ゾルピデム)のほかに、現在使われている、ベンゾジアゼピン系睡眠薬には、1989年発売のアモバン(ゾピクロン)と2012年発売のルネスタ(エスゾピクロン)があります。どちらも効果の上では、マイスリーと大差はないのですが、患者さんが“苦味”という副作用を訴えることが多いので、あまり処方しません。また、ルネスタの方は新しい薬なので、薬価が高いという欠点もあります(お金持ちの患者さんには遠慮せずに処方しますが?)。