A子さんが、勢いよく診察室に入ってきた。

 

「おはようございます。先生、お店の売り上げが5万円もいったの。普通は1万円くらいだけど。・・・ワクチンは、お姉ちゃんが止めなさいと言ってるので、私も打たない。・・・私はこれでも、スポーツ万能だったのよ、リレーのアンカーもやった。・・・お母さんの法事があって実家に1日だけ帰ったの。今年はコロナで、誕生会も、バーベキューもなくて、つまんなかった。・・・今のところは、食事がおいしので楽しみ。・・・お姉ちゃん、今度の誕生日に携帯のケース買ってくれるかな?・・・(姉さんに、痩せろ痩せろと、厳しく言われているので)お店の周りを(毎日)3周歩いてる。1500歩くらいかな。・・・私は一生、○○○で暮らしたい。家には帰りたくない・・・」など、一方的に約15分間喋りまくる。途中、こちらから2つ3つ質問をするも、意に介せず、一方的に自分の話したいことだけを、早口で喋りまくる。やがて、15分が経過すると、

「先生、今度(の予約)はいつ?」

<2か月後の、○月○日の火曜日の9時半。>

「帰ります。先生、お疲れ様でした。ありがとうございます。さようなら。」といって、そそくさと診察室から出ていった。おじいちゃん先生は、一人取り残された診察室で。

<いえ?いえ?疲れてはないけど?(何か変だぞ、と思いながらも、少しうれしい気持ちになって)どうも、こちらこそありがとう。さようなら>と呟いた。

 

 A子さんは、現在52歳。私のクリニックに通院し始めたのが35歳の時でした。診断名は、統合失調症および知的障害(IQ65)。14歳で統合失調症を発病し、家庭内暴力があって、31歳まで入退院を繰り返した。実家近くの作業所にずっと通所していたのですが、48歳の時に実家を出てグループホームに入所。同時に就労継続支援B型作業所の喫茶部門で働いています。

 

 A子さんとのやり取りの中で、「お疲れ様でした。ありがとうございます。」と言われたのは初めてのことだと思います。おそらく、作業所の喫茶部門では、それが常套句になっているのだと思います。うちの他の患者さんに、診察室でこのような言葉をかけられたことは一度もありません。でも、本当に“お疲れになる患者さん”に、このように声をかけられたならば、さぞかし疲れが吹っ飛ぶのではないかと思います。

 このようなエピソードがあってから、おじいちゃん先生もA子さんを見習って、ちょっとした場違いなど意に介せず、随所で、<お疲れ様でした。ありがとうございます。>と声をかけるようにしています。