今回は、『動揺しない、焦らない、もがかない』ためには、薬物療法が大いに役に立っている、という話です。この6年間、Y子さんに対してどのような薬物療法を行ったかについてお話します。

 

 予想どおり、Y子さんは、平成27年3月(2週間後)再び来院されました。「先日、自分がしんどいんだ、自分もおかしくなってるんだ、ということがわかった。先生にお話しして、少し楽になった感触を得たので、今日伺いました。先生がおっしゃっていたように、自分のために出かけてみたら、楽しかった。・・・家に帰って考えてみたら、3~4年前、内科で神経性胃炎といわれ、ドグマチール(50)2錠(1日当たり)を飲んでいたことを思い出しました。最近は、コンスタン(0.4)1錠を、朝と寝る前に飲んでいました。でも薬の副作用のことが、ずっと気になっていて、薬を飲み続けることがとても怖い気がします・・・」と。

 

 これを受けて、Y子さんの現在の症状と、それに対する薬について、詳しく説明しました。

 

 <前回の診察でおっしゃってた「のどがつまった感じ」というのは、“咽喉頭異常感覚症”という病名がつく症状です。内科や耳鼻科などで、いろいろ調べても原因が見つからず、うちのクリニックを受診される方が、結構います。一般的には、ストレスをため込みやすい、まじめな人、責任感が強い人、我慢強い人、などが発症しやすいといわれています。内科や耳鼻科では、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)という漢方薬が処方されることが多く、効く人も効かない人もいます。あなたが、神経性胃炎と言われて、以前に飲んでいた、ドグマチールや、いま飲んでいるコンスタンのような抗不安薬が効く人もいます。「食道の通りが悪い」というのも、昔は、食道神経症、なんて病名がついていて、喉の症状と似たようなものです。それから、「娘がいつまた暴れるのか怖い」というのは、“予期不安”といって、不安神経症(不安障害)に見られる症状の一つで、常に交感神経が興奮しているので、胸がドキドキするとか、息苦しいといった症状(体の症状)として現れるんです。「家事がはかどらず、外に出かけるのもおっくうになってる」というのは、うつ病とまではいきませんが、馬力が(意欲、エネルギーレベル)がやや落ちている状態です。でも、眠れてるし、食べてもいるので、そう心配はないと思います。それから、薬の副作用のことを心配されているようですが、確かにどんな薬でも副作用はありますが、ちゃんと管理して使えば、副作用よりもメリットの方が大きいと思います。とりあえず、今は、薬の助けを借りて、しんどさを抜け出し、普通の生活ができるようになることを優先しましょう。私が、今日、お出ししようと思っている薬は、以前あなたが飲んだことのある、ドグマチールとメイラックスという薬です。メイラックスという薬は、今あなたが飲んでいるコンスタン(=ソラナックス)と同じ系統の抗不安薬です。飲んだ感触としては、コンスタンよりも効いていないと感じるかもしれませんが、穏やかに1日中効いてくれて、将来、薬を止めるときも止めやすい抗不安薬です。ほとんど1日中緊張している状態のあなたには、こっちが向いていると思います。ドグマチールは、少し元気が出て、おっくう感が取れるので、料理したり、外出したりするハードルが低くなると思います。「喉がつまる」という症状にも、絶対に効く、とまでは約束できませんが、効く可能性は十分にあると思います。・・・>と。

 このような説明をして、ドグマチール(50)2錠(朝夕1錠ずつ)。メイラックス(1)1錠(眠前)。を処方しました。

 

 平成27年4月(2週間後~1か月後)「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃとか思わなくなって、イライラがずいぶん減り、楽になりました。のどの違和感も、2割ぐらい残ってるけど、ほとんどなくなりました。たまにあるくらいで、何もない日もあります。ここに来た時のことを思うと、自分が違う人になったみたいで、日常のことも、焦らずに淡々とやれてます。手芸をしているのが落ち着いてて、他人と会いたいとは思いません。薬が馴染んできたんですかね」と、見違えるような変化が、薬によってもたらされました。これで、『動揺しない、焦らない、もがかない』ための第一歩を踏み出すことが出来たんです。

 

 初診から6年を経た、現在の処方は、ドグマチール(50)1錠(1日おき)。メイラックス(1)0.5錠(1日おき)。となっています。

 

 過去6年間、Y子さんの服薬用量は、娘さんの病状の変化や、それ以外の家庭内ストレスなどによって、微妙に動きました。当初は、薬を服用することに抵抗感があったのですが、最近は、状況(ストレスの多寡)に応じて、上手く使いこなしています。時間を追って、Y子さんの発言を拾ってみると、

 平成27年9月「ドグマチールを2錠から1錠にしてみたら、2~3週間でしんどくなってきました。喉がつまる感じが戻ってきたので、2錠にして、1週間飲んだら、元に戻った。娘が暴れたのがきっかけかもしれない」と。

 平成28年4月「わりと娘が落ち着いているので、どっちも、1錠ずつでやってます。先週、風邪をひいたら、娘が食事を作ってくれました」と。

 平成30年2月「娘が落ち着かないこともあったけど、自分はまあまあで、メイラックス(1)1錠は、1日おきにしています」と。

 平成30年6月「娘にてこずることがなくなって、イラっとしたのは1回だけ。メイラックス(1)0.5錠、1日おきです」と。

 平成30年12月「この1か月は、苦しいことがなく、お話しすることがないくらいで、メイラックス(1)0.5錠、3日に1回くらいかな」と。

 令和元年12月「胃の調子が悪くて、胃カメラを飲んだ。表層性胃炎と言われた。ドグマチール(50)1錠を毎日、メイラックス(1)0.5錠を毎日、飲んでます。良くなったらまた減らします」と。

 令和2年5月「娘は、今、閉じこもりがちだけど・・・息子のところが、おめでたで・・ドグマチール(50)1錠を1日おき、メイラックス(1)0.5錠を、毎日寝る前に飲んでます」と。

 令和3年2月「娘がいろいろあって、胃の具合がおかしかったので、先生が以前おっしゃってたように、ドグマチール(50)1錠を1日2回で5日間だけ、多めに飲んだら、胃の方は、いまは落ち着いてます」と。

 

 Y子さんの場合、娘さんから受けるストレスや、その他の家庭内ストレスがなくて、お姫様のような?生活が保障されれば、薬なんか服用する必要など、まったくなくなると思います。おかれている状況に適応するために、薬の助けが必要、というケースです。このタイプの患者さんの場合は、薬に依存して、服用量が増えていく心配がないので、私が指示した範囲内で、自分で工夫して、薬の出し入れをしてもらうことにしています。

 今回は、『動揺しない、焦らない、もがかない』ためには、薬物療法が大いに役に立っている、という話でしたが、次回は、過去6年間の精神療法的アプローチについてお話しします。

 

 ドグマチール(=スルピリド)とメイラックス(=ロフラゼプ酸エチル)の詳しいことは下の過去ログを参照ください。