先週の火曜日、Y子さんが来院。「主人が、ネットでも有名な○○先生の本を買ってきて、とても参考になる、というので私も読んでみました。それには、精神障害を持つ子供と接するには、『動揺しない、焦らない、もがかない』と書いてあって、まさにその通りだと思いました。これからは私も、『動揺しない、焦らない、もがかない』でいかなきゃと思います」と。それを受けて、<いやいや、あなたは既に、『動揺しない、焦らない、もがかない』を実践できるようになってますよ。実践できているから、その言葉がしっくりきたんですよ。『動揺しない、焦らない、もがかない』、と誰かにいわれて、ハイそれが実践できるようになりました、なんてことは現実には起こりえません。わかっちゃいるけどそうはいかない、というのが現実です。その本には、具体的に何をすれば、『動揺しない、焦らない、もがかない』が実践できるか、何か書いてありましたか(「いえ、特に」)。あなたの“6年間の具体的な工夫や努力”が、『動揺しない、焦らない、もがかない』という、いまのあなたの態度につながってるんですよ>と伝えました。でも、Y子さんは、私が何を言っているのかわからず、面食らったような表情をしていました。
さて、Y子さんの“6年間の具体的な工夫や努力”とはいったい何だったのか、そのことについて、何回かに分けてお話ししていきたいと思います。
Y子さんは、6年前(平成27年2月)、「娘の病状について、セカンドオピニオンを伺いたい。親として状態を把握しておきたい」といって、私のクリニックを受診されました。
Y子さんによれば、「娘は、高校生の頃に不登校となり、最初の思春期専門クリニックで統合失調症と診断されました。その後、別のクリニックに(2か所)通いましたが、8年前からは○○総合病院の精神科に通っています。そこでは主治医が次々と変わって、今の先生で6人目です。今の先生には、『統合失調症のほかに、いろいろなものが混ざっていますね。境界性パーソナリティー障害、双極性障害?・・・』といわれています。最近になって、統合失調症の親の会に参加するようになったんですが、セカンドオピニオンとして、ここを勧められました。娘は、どこのデイケアに行っても、自分とは違う、といって長続きせず、引きこもりがちで、家の中で感情を爆発させるので、私も夫も戦々恐々としています」と。
その日は、娘さんの「セカンドオピニオンを伺いたい」という希望だったので、娘さんの現在飲んでいる薬の説明。今は、統合失調症と診断されていても、その症状は百人百様で、娘さんの診断名も今後変わるかもしれないということ。現在の混乱は統合失調症の症状というより、27歳の女性の心性として当然の反応であるかもしれないこと。などについて、セカンドオピニオンとして、私の考えを伝えました(それが的を得ていたかどうかは分からないけれど?)。
そして最後に、<Y子さん自身、何かお困りのことはありませんか>とお尋ねしたところ、「実は、6年前から、かかりつけの内科の先生から、安定剤をもらって飲んでいます。3年前、喉がつまった感じが怖くて、立て続けに3回、救急車で受診したこともあります。その頃、娘は症状が悪化して暴れていました。その後から、また暴れるんじゃないかと怖くなって、・・・最近は、家事がはかどらず、外に出かけるのもおっくうになってます。今も、のどがつまった感じがしていて、食道の通りが悪いんです」ということでした。<そういうことであれば、娘さんはともかくとして、あなたが治療を受けた方が良いのかもしれませんね>と伝えたところ、「私がですか?」と少し考えこんでいましたが、その日は黙って帰られました。その日のカルテには、<不安障害(神経症性うつ・咽喉頭異常感覚症)の患者さんとして治療を始めることになるだろう>と書かれています。
今回のブログの中でみられる、 “6年間のY子さんの具体的な工夫や努力”とは?
(1)娘さんの病気を理解しようと、セカンドオピニオンを求めたこと。
(2)自分自身が消耗していて、精神科治療の対象だと気づき、治療を受けようと決めた こと(後日談による)。が挙げられます。
精神障害を持つ患者さんの家族は、その病気の性質(正体)を知ることが大切です。どういう理由で暴れているのかわかれば、不安は軽くなります。また、長年の介護疲れから、不安抑うつ状態に陥っていることが多いので、自分自身が精神科治療を受け、精神的健康を取り戻すことが、『動揺しない、焦らない、もがかない』で介護を続けるには必要な前提条件です。次回のブログから、過去6年間のY子さんとのやり取りを、少し詳しく書いていきたいと思います。
*『動揺しない、焦らない、もがかない』は、精神障害のあるなしに関わらず、介護する立場にある人全般に通用する、好ましい精神的態度だと思います。