久しぶりに、うちの患者さんの、“手動瞑想の成果”についての報告です。
手動瞑想を習慣化することは、とても難しく忍耐を必要とします。手動瞑想の成果を得るには、効果を期待しないで、とにかく継続することです。1日1分間でも、毎日続けることです。それが習慣化すれば、知らず知らずのうちに大きな成果が得られます。U子さんは、それが実現できている患者さんの一人です。今は、2か月に1回の通院ですが、来るたびに何らかの成果を披露してくれます。
U子さん、昭和48年生、初診日:平成28年2月、病名:恐怖性不安障害、軽うつ状態
平成26年4月、子供の入学式の会場で、「人の多さからか、息苦しさから、呼吸ができなくなって、息の仕方もわからなくなって席を外した」と、初めてのパニック発作を体験。以来、電車、人混み、集会などがだめになり、車通勤していた会社にも行けなくなり失職。シングルマザーのU子さんは、経済的にも逼迫して途方に暮れ、うつ状態に陥った。
平成26年4月、○○メンタルクリニック初診。『パニック障害とうつだね』と言われ治療を開始。8月まで通院したが、症状の改善が芳しくないこと、薬が増えていったこと、主治医が嫌だったこと、などを理由に通院中断。1年間は自宅に閉居し、不安抑うつ状態はさらに悪化した。
平成27年春、「自分なりに、姉に付き合ってもらって、人混み、電車などの外出訓練を始めた」。しかし、苦手な場所に行くと、ひどい咳と嘔気が出現。平成27年秋には、「胃カメラで胃潰瘍が見つかった」と。
平成28年2月、姉の知人の紹介で、当クリニック初診。主訴は「イライラして気分の波がある。今年に入ってから、不安なことを考えると、手足がムズムズして眠れなくなることがある(むずむず脚症候群だと後になって分かる)」「電車には乗れないし、近くなら車で出かけられるけど、遠くまでは行けない。辞めた職場からは、戻っておいで、と言われているけれど、とても無理・・・」と。
ジェイゾロフト(50)1錠、メイラックス(1)1錠で治療開始。ジェイゾロフトが良く効いて、1年後には職場に復帰し、メイラックス(1)0.5錠にまで減量。不安発作が起きても、“呼吸コントロール法”(数分間)で乗り切れるようにもなり、子供の入学式や卒業式にも参加できるようになった。
平成29年5月、「私は元々が勝ち気な性格で、すぐ怒ってしまう。・・・以前、自宅に籠って外に出られなかったときは、子供への暴力に発展して、何度も自己嫌悪した。この性格何とかしたいとは思うのですが・・・」と言い出したのを受けて。<そうですか・・・。“怒りのコントロール”に最適な方法があるのですが、コレ(手動瞑想)、やってみます?>と、手動瞑想を使ったマインドフルネス認知療法を紹介した。
平成29年7月、「手動瞑想をやると、心が落ち着くような気がします。周りのことを心配するのが減ってきたね、といわれた」。
平成29年9月、「人の目が前より気にならなくて、マスクなしで歩けるようになった。ディズニーランドや人混みにも行けて、次の日も疲れなかった。」<恐怖突入の頻度が増えてますね。突入に成功すれば自信が出るよね>と。
平成29年10月、「ママは家事に向いていないかも、と子供に言ったら、『いいんじゃないの』といわれた。今までは、全部自分でどうにかしなきゃ、だった。そういう考え方を何とか変えていかないとダメじゃないか、今までの考え方から抜け出さないといけないなと。子供のこともあれこれ過剰に心配しないことも、前の自分と違うような気がする。」
平成29年12月、「前はキチキチとやらないと落ち着かなかった。今はめんどうくさいなと思ったら、後回しにできる。前は一生懸命で、そんなことに気づかなかった。」
平成30年1月、「車に乗っていて、老婆って危ないなと腹立たしかったのが、自分でも優しくなって、気をつけないといけないよ、と優しい考え方ができるようになった。」
平成30年2月、「お宮参りに来ていた家族連れに、写真を撮ってあげましょうか、と言えた。前は、頼まれたらどうしよう、と逃げていたけど、前じゃ考えられないことができた。元々は声をかける方だった。」
平成30年6月、「人ごみに行く機会が増えた。学校の保護者会に電車で行けた。ドキドキしていたけど、先生が言ってた、人間観察(マン・ウォッチング)をした。席が真ん中は嫌なので、端にしてもらえるように言えるようになった。最近は、息を止めていたかな、と気づけるようになった。そういう時には深呼吸している。電車の中では、立つ瞑想(足の裏の感覚に注意を向ける)、やってます。」
平成30年7月、「1週間、薬を飲めなかったら、人に攻撃的になっていて、たいしたことないのに怒ったり、暴れたりした。」<ジェイゾロフト中断後、1~2週間で、発病時の症状がでたことを冷静に評価できている(クスリの効果も客観視できている)のは、瞑想の効果かもしれませんね>と。
平成30年9月、「ここ何年かで気持ちは一番落ち着いてます。(人目が気にならなくなって)マスクしなくても出かけるようになったし、振り返ってドキドキすることもなかった。自分には、これこれがストレスだったと分かって、それに対処できるようになった。いやだといって、やめてもらったり、その場で解決しようとできる。日常でも気づきが増えている。」
平成30年11月、「メイラックスは0.25錠(1mgの4分の1)。3~4日飲まないと、自分が人に攻撃的になるのがわかる。でも前と違って、自分がなんでイライラしているかに気づけるようになって、ごめんね、と謝れる。薬飲んでないと気づくことができる。・・・でも、手動瞑想を時々やれない時がある」と。<手動瞑想の時間が取れない時は、“気づきのベル”というのがあるので、これもやってみてください>と、“気づきのベル”のプリントを渡した。
平成31年2月、「息子の(食事に関する)一言で大泣きした。泣いてすっきりしたけれどこの年でこんなに大泣きするのは一体何なんだろう、そんなに文句を言うなら自分で作ればいいじゃない、と思ったけど、私が勝手に息子の意見を聞かないで作ったこともあるのかな、と息子の立場で考えられた。同居の母にもイライラするけど、母だけの問題ではなく、私の言い方にも反応しているのかな、と思えた。最近は気持ちの切り替えがうまくできるようになった(注意の転換)。」「瞑想は、赤信号や渋滞、風呂、会社でも、電車では足の裏とか手の感覚など使ってやってます。」
平成31年3月、「一人で映画をみた。映画は、子供と一緒じゃないとダメだった。前は、人がいっぱいいると、人に見られてるとか、マスクも外せなかった。一人で飲食店にも行った。一人では乗れなかったエレベータに乗っていても、(余裕が出て)小さい子供に声をかけることさえできた。」<自分から恐怖突入用しようと思える時点では、すでに、脅威刺激から注意を転換できているので、不安が起きない。そこが、手動瞑想の効果かもせれませんね。>
平成31年4月、「何か出来事が起こっても、自分の気持ちを切り替えることが出来るようになった。自分のどういうところがいけなかったか考えて、ちゃんと謝ったり、行動できるようになってる。ずっと落ち込んでいるということがない。考えを重く考えず、切り替えられるようになった。メイラックスは3日に1回くらい、何かある時に、4分の1錠のんでる。ジェイゾロフトは毎日。」
令和元年6月、「前は、仕方がないから(イヤイヤ)電車に乗っていたけれど、これは電車に乗っていった方が早い、と判断したら電車で行ってます。」
令和元年12月、「1週間薬を飲まなかったら、なんとなく涙が出てきて、飲んだら感情のコントロールが効くようになった。しばらくなかった思考(後悔の反芻など)が出てきた(と気づける)。」<ジェイゾロフトの効果が切れたのか、中断症状なのかは、はっきりしないけれど、薬を減らすときはゆっくり減らさないとね>と。
令和2年3月、「頭痛がちょくちょくしたけれど、前のようにイライラしないで、バアバ(母のこと)がうちに来ているから仕方ないのかなと、冷静でいられた」「メイラックスは、人混みに行って疲れたときとか、明日は飲んでおいた方がいいかなという時に使ってます。だいたい、4分の1錠を週に1回くらいらいかな。」
令和2年5月、「コロナで外出ができなくて、みんなが家にいて、イライラしているけれど、立ち直りが早く、引きずらなくなっている。」
令和2年9月、「ちょっと躓いた時に、冷静に、今私があれこれ考えてるのはコレコレだからだと、苦しむ前に自分で解決しているような気がする。」
令和2年11月、「母がうちに来ているけど、話半分に聞いて流すようにしている。コロナのことで、あれこれ言うけれど、お母さんは、自分が信じたことしか信じないから(と分かってきたので)。」「車を運転していて、譲れるようになった。すれ違いの時、向こうが譲ってくれると思って、止まって待っていたら、向こうも譲らず止まって動かなかった。おじさんが窓を開けて、あなたは譲らないんですねと言われた。そのことがいつまでも頭に残ってしまって、いやな思いが続いた。私はなんて馬鹿な思いをしているんだろう。こんなにクヨクヨしているんだったら、あの時、譲っていればそれで済んだことなのに、と気づいた。それからは、運転していて、イライラすることが無くなった。」「この2か月は、メイラックスは全く使っていません。・・・」
以上、3年半にわたって、U子さんが語った言葉をカルテから拾ってみました。
U子さんの最も大きな変化は、自分の思考や感情にしっかりと目を向ける、というスタンスが出来あがっていて、さらに、何かが起こったとき、その瞬間の自分の思考や感情に、後から気づくのではなく、その場で気づくことができるようになっている、ということです。その場で気づくことが出来るから、その場で行動を変えることができるんです。「今、自分が怒っている」と気づけるから、「今、怒るのはやめよう」と自分に言い聞かせて、怒らないという行動に結びつけることが出来るんです。「あの時、怒らなければよかった」、と後になって反省することは比較的容易ですが、その場で自分の怒りに気づくことは、手動瞑想(マインドフルネス)などの訓練を必要とするんです。
以下は、参考になる過去ログです。
