N子さん(56歳)診断名:社交不安障害、ADHD
初診時(平成24年3月)、「昨年から、近くのメンタルクリニックに通って、子供の対応について相談を受けています。アドバイスが中心の面接なんですが、毎回行くたびごとに、私の言い方がダメだ、とたしなめられるので、だんだん辛くなって、通うのを止めました。・・・」といって、私のクリニックに転院してきました。
当時は、心理的ストレスが重なるときに、気晴らしの手段として飲酒と過食が止められず、軽いうつ状態に陥っていました。その後、<酒と過食をやるくらいなら、メイラックスをその日だけ飲んで、早めに眠ってしまう方が良い>というアドバイスを実践し、「眠れないな、という時にメイラックスを飲むと(三日に一回くらい)、朝すっきり起きられる。前はお酒を飲んでいたけど、次の日に残るから、今はやめてメイラックスにしている」となりました。また、平成25年8月から服用し始めたサインバルタ25mgがとても効果的で、職場適応が良くなり、飲酒も過食も抑うつ傾向もなくなっていきました。もっとも、最近になって、時々、「お酒と過食がまた始まった。あれをやると、気持ちいい。」と笑いながら言うこともありますが、<酒と過食をやるくらいなら、メイラックスを飲んだ方が何倍も安全ですよ。>と釘を刺しながら、笑い返します。
N子さんの通院は、月一回、月曜日の午前中と決まっている(勤務先がこの日休みなので)。これは先週の月曜日の、私とのやり取りです。
「・・・隣の上司の独り言は、別に私に向かって言ってるわけではないんだけど、相槌を打たないと無視しているみたいで、ずっとそれが気になってた。でもこの間は、先生が、相槌を打たなくても無視したことにはならないんだよ、と言ってたことを思い出したら、上手くやれて楽になった。・・・ここに来てから何年になりますかね?・・・最近気づいたのは、ここに来て話を聞いて帰ると、あとでジワジワくる。毎回、同じこと言われているようだけど。これは何なんでしょうね?」と。
<相槌を打たなくてもいいというアドバイスは、これまで何度もしたと思いますよ。でもそれが今まではできなかった。相槌を打たないことが怖かったんでしょうね。今回、それができたのは、私のアドバイスを思い出したからだけではなく、あなたの何かが変わっていたからですよ。「先生が、相槌を打たなくても無視したことにはならないんだよ、と言ってたことを思い出したら楽になった。」というのは“後づけ解釈”(できた後で自分が理由付けした)で、それがすべてではありません。あなたの何が変わったのか、それが何なのかは私にもわかりません。私のアドバイスの効果なのか、薬の効果なのか、日常生活の中での様々な経験の成果なのか、それともコレ(手動瞑想の動作)の成果なのか、その他の諸々が合わさってそうなったとしか言えません・・・>と。
「でも先生、最近)、コレ(手動瞑想)、忘れてました」
<いいんです。また、コレ(手動瞑想)、復活させてください>
「はいやります」と。
N子さんの実感がこもった、「あとでジワジワくる」という言葉を聞いて、おじいちゃん先生は嬉しくなりました。精神療法の成果とは、まさにそういうものだからです。精神療法の成果は、患者さんにとっても、医者にとっても分かりにくいもので、単に時間を浪費しているだけのように思われることもあります。でも、この日のこの瞬間、N子さんも私も、8年間が時間の浪費ではなかったと実感できたと思います。
過去ログ:“後づけ解釈”に騙されないためには、“メタ認知療法と手動瞑想”を読んでいただければ、今回の話の裏側がもっと良く分かっていただけるかもしれません。
