20年以上前までの片頭痛治療薬は、副作用ばかりで効果が薄く、治療がとても難しいものでした。片頭痛が疑われた患者さんには、<専門の神経内科の先生に一度相談してみたらどうでしょう>と、片頭痛の治療に対して、私は逃げ腰でした(当時は、クリアミンや三環系抗うつ薬を使っていた)。

 ところが、片頭痛の患者さんにとって救世主のような特効薬、イミグラン(スマトリプタン)が、2001年(平成13年)に日本で発売されてから、片頭痛治療が容易になり、精神障害の治療と並行して、片頭痛を積極的に治療するようになりました。

 

 現在使われている、片頭痛の治療薬は種々あって

 

1.発作を抑えるお薬頭痛発作時に使います)

 ソマトリプタン(Ⓡイミグラン)錠剤・点鼻薬

 ゾルミトリプタン(Ⓡゾーミッグ)錠剤(口腔内崩壊錠あり)

 エレトリプタン(Ⓡレルパックス)錠剤

 リザトリプタン(Ⓡマクサルト)錠剤(口腔内崩壊錠あり)

 ナラトリプタン(Ⓡアマージ)錠剤

2.発作の再発を予防するお薬毎日内服します)

 アミトリプチリン塩酸塩(Ⓡトリプタノール)錠剤

 β遮断薬のプロプラノロール(Ⓡインデラル)錠剤

 バルプロ酸(Ⓡセレニカ・Ⓡデパケン)錠剤

 カルシウム拮抗薬のロメジリン(Ⓡミグシス・Ⓡテラナス)錠剤

 

 頭痛にはいろいろありますが、最も多いのが(筋)緊張型頭痛で、頭痛全体の50~60%くらい。次が片頭痛で20~30%くらいです。「片頭痛は左右どちらか片側が痛いものだ」と多くの人が誤解していますが、実際のところは、70%以上が両側に痛みがあり、頭の片側が痛いだけでは片頭痛とは言いません。

 うつ病や不安障害では、緊張型頭痛が必発ですが、うつ病や不安障害が治ると、その頭痛も改善していきます(頭痛だけが残ることもある)。

 一方、片頭痛では、緊張型頭痛に比べて痛みや吐き気は強烈で、それをきっかけに不安障害を発症したり、うつ病を治りにくくさせたりなど、片頭痛発作をコントローしないかぎり、うつ病や不安障害が改善しない場合が多々あります。さらに、うつ病や不安障害の再発予防のためには、うつ病や不安障害が治って通院の必要性がなくなっても、片頭痛の治療は継続する必要があります。もっとも、やることと言えば、手持ちの片頭痛薬をきらさないようにすることです。うつ病や不安障害の治療が終了していて、診察は受けないけれど、片頭痛治療薬だけは在庫が切れる前に取りに来る、という患者さんがうちには何人もいます。「医者の顔を見る必要はないけれど、片頭痛発作が起きては大変だ」という思いです(それでOK)。

 

 私がとても印象に残っている、片頭痛持ちの患者さんを2人紹介します。

 

Sさん(35歳)診断名:うつ病、恐怖症性不安障害

 平成27年3月、産業医にうつ病と診断され、うちのクリニックに紹介されてきました。初診時、「・・・高校生の頃から、ときどき、朝起きた時に頭痛と吐き気があって、学校を休んでいました。大学生になってからも、頭痛で2日間ドサッと倒れて寝込んでしまうことがあったけれど、父親には罵倒された。会社に勤めてからも、上司には分かってもらえず、ズル休みだと誤解され、いつの間にかうつ状態になっていた」と。<あなた、それ、片頭痛じゃない?>と伝えると、「内科でときどき、頭痛薬をもらっていたけれど、片頭痛と言われたことなかったし、頭全体が痛くて、薬もほとんど効かなかったですよ」と。

 現在、Sさんは職場復帰していて、スポーツジムにも通っていますが、季節の変わり目や気象の変化で、年間10数回程度の片頭痛発作があります。しかし、早め早めに(「目がチカチカする」という前兆がでたら)マクサルト(片頭痛薬)を服用することで、欠勤しないですんでいます。かつては、片頭痛発作で1日休むたびごとに、医師の診断書の提出を上司から求められていて、「片頭痛が起こったらどうしよう」という予期不安が常にあったのですが、今はそのプレッシャーからは解放されています。Sさんのうつ病の原因が片頭痛である、とは言えませんが、片頭痛発作をコントロールすることが治療上重要な因子であったとは確かです。

 

 医者が緊張型頭痛か片頭痛かを鑑別することはそれほどむずかしいことではありませんが、“前兆”という症状を聴取できれば、片頭痛だと診断がほぼ確定できます。片頭痛には80%以上に“前兆”という症状があります。患者さんは、「ギザギザ(キラキラも)した光が見える」「視野の一部が見えにくくなる」「言葉が話しにくくなる」「平仮名だけが読めなくなる」「生あくびを繰り返す」などと訴えます。このような前兆は5~60分以内に消失し、続いて酷い頭痛が始まるという特徴があります。しかしながら、患者さんの言語表現は人それぞれ独特なので、その訴えが片頭痛の前兆だと分かりにくいことがあります。

 

Yさん(42歳)診断名:ADHD 複雑性トラウマ障害 社交不安障害

 平成22年4月、紹介状を持って転院してきたYさん。紹介状の診断名は、(1)不安障害、(2)うつ状態、(3)統合失調症?(自生思考、幻聴、被害関係念慮)、となっていました。

 初診時、Mさんは「僕は高校生の時から、パニック障害です。通学電車で目の前が真っ白になった。ほかにも、友人とゲームセンターで(チカチカ明るい光の)画面を見ていて、目にゴミか何かが入ったような感じがしたら、その後に、目に三日月が映っていて、家に帰ってから目を何度も洗ってみたけれど、それはとれなかった。・・・高校に通うのには、電車に乗らないわけにはいかないので、○○市にある病院で治療を受けた。でも、専門学校に通うようになっても、電車の中で息ができなくなって、泡を吹いてひっくり返り、意識がなくなった・・・」と。この日のMさんは、頭痛の訴えがなかったので、「・・・友人とゲームセンターで(明るい光の)画面を見ていて、目にゴミか何かが入ったような感じがしたら、その後に、目に三日月が映っていて、家に帰ってから目を何度も洗ってみたけれど、それはとれなかった・・・」という表現が、統合失調症?の周辺症状か何かであろうと考え、詳しくは訊きませんでした。それが“片頭痛の前兆”だとわかったのは、4年後のことでした。

 平成26年5月、「4月の末に、朝起きたら頭痛と寒気(実は吐き気だった)で呼吸が苦しくなって、だるくて起きられなくて。右の視野がチカチカ眩しくて、3時間してようやく治まりました。1日目は黒く、2日目は白くなりました。・・・」と。

 <なに?それ片頭痛じゃない。いつからそんな頭痛があるの?>

「はい。先生にはこれまで申し上げてはこなかったんですが、高校生の頃からありましたので、市販の頭痛薬を愛用しておりまして。これまでずっと、いつ来るかいつ来るかと思うと、それが怖くて怖くて・・・」と。この日から片頭痛薬(マクサルト)を処方。その後、片頭痛予防薬としてデパケンRを処方したところ、過去4年間、一度も片頭痛発作はない。

 Yさんの不安障害は根が深く、十分に症状が改善されたとは言えません。しかし、来院のたびごとに「先生のおかげで、片頭痛を治していただいて、私には何よりの救いになっております。・・・こうして自分の悩みを吐露できる場所があるだけで、自分にとっては、いいことでありまして・・・」と言っていただけるので、<おじいちゃん先生も頑張ろう!>という気になっています。

 

 片頭痛の特徴の一つは、いったん治まると痛みはウソのように消えてしまい、ふだんは何の症状もないことです。そのため、頭痛のときだけ市販の鎮痛薬を飲んで、我慢してしまう人も少なくありません。それで何とかなっていて、生活に支障がないのであれば、それでもいいと思いますが、

 (1)頭痛が頻回におこる

 (2)市販の鎮痛薬が効かない

 (3)毎日のように鎮痛薬を服用している

 (4)頭痛のために寝込んでしまうなど、日常生活に支障がある

といった場合は、医者に相談するのが良いと思います。

 

 片頭痛が慢性化すると(発作を繰り返していると)、脳が次第に敏感になっていき、「小さな音にも敏感」「いつも耳鳴りがしている」「めまいがする」「頭の一部が振動しているような感じがする」というような訴えが後遺症として残ることがあります。そうならないためにも、片頭痛を早期にコントロールする(発作回数を減らす)ことが大切です。

 

 以上、片頭痛について思いつくまま書いてみました。

 

(補足)「自分が片頭痛持ちかもしれない」と思ったら、頭痛専門の外来(神経内科、脳神経内科など)を受診することをお勧めします。片頭痛以外の、危険な頭痛を除外する必要があります。診断が確定してしまえば、どこで薬をもらっても同じですが。