ADHD(注意欠陥多動性障害)の特徴として、①多動性、②不注意、③衝動性、があります。その中の、“不注意”の特徴を教科書的に羅列すると、以下のようになります。
注意集中が困難である。
仕事でも勉強でも一つのことを続けてやることが出来ない。
外からの刺激に容易に注意がそらされる。
ケアレスミスが多い。
気が散りやすくて、物事に集中することが苦手。
やりたいことや好きなことに対して積極的に取り組めるが、集中しすぎてしまう。
物をどこかに置き忘れたり、物をなくしたりすることが頻繁にある。
片付けや整理整頓が苦手。
約束や時間を守れない。
多くの人が、「なるほど、どれもあるある、私にもある、誰でもあるんじゃない?」と思うかもしれません。しかし、ADHD特性がはっきりしている人が、「遅刻してしまった」「忘れ物・落し物をしてしまった」「5分でできる料理なのに1時間かかってしまった」という場合、起こった結果は同じでも、そこに至る過程は違っていて(脳内の神経伝達の動き)、「誰にでもある・・・」というものではありません。
3か月前からアトモキセチン(ストラテラ)を飲み始めたYさんが、そのことを(不注意)具体的に表現してくれました。
Yさん(40歳)診断名:ADHD、複雑性トラウマ障害、IBS、その他いろいろ?
<“新しい薬”を飲み始めて、だいたい1か月半たったけど、なにか自分が変わったと感じること、ない?>
「んー・・・。はっきりと分かりませんが。(これまで)自分の書いた文章を、あとから見ると、回りくどいと申しますか、要点がなく、滅裂というか、自分でも納得がゆかなかった。もしかしたら、文章の羅列になっていて、本来書きたいと思っていたことと違うと申しますか・・・(でも今は)前に比べて、(文章が)バラバラでないような。・・・(SNS上のメールのやり取りの文章を)今までは何度も推敲しなければならなかった。自分で読み返してみても、かなり滅裂で、これなら(相手に)伝わるのではないかというところにいくまでに、6時間ぐらいかかっていたのが、4時間ぐらいになったような。・・・メールのやり取りではいつもへとへとに疲れてしまって、ひどくへこんでた。今以上にメゲてしまって、床にへたり込んでいた」と。
<他に何か、自分が変わった、と思い当たることは、ない?>
「あります。もともと、インターネットで調べるのも、ひとところに留まれなくて、一つ調べたいことがあっても、どんどん増えていって、いつの間にか元とは全く違うことを調べていた。今は、元に戻れて調べることが出来ると申しますか、思いもよらなかった効果を実感しております。・・・今までは、(ネット上の)対人関係のもつれだけでへばってしまった、というのがあったけど、少しはそれが軽くなったと申しますか・・・」と控えめに語った。
<そういうの、子供の頃からありました?>
「ええ、ありました。・・・いろいろ気になって、迷子になってしまった。ちょっとでも動いているものをみると気になって、(追っかけて)見ていると日が暮れてしまったり、母は、こういう落ち着きない自分を我慢できなくて、ビシビシやったんだと思います。・・・」と。
Yさんが以前から訴えていた“不注意”は、私が聞いても、いささか分かりにくいものでしたが、アトモキセチンが効き、“不注意”が改善したおかげで、自分をより客観視できるようになり、上手く言語化してくれました。それによって、<これまで訴えていた“不注意”とは、そういうことを言いたかったんだ>と理解できたのです(精神科医は患者さんが言葉にできなくても、ちゃんと理解ができていないといけないんですが)。クスリを変えた時は、そういうものがズルズル出てくるチャンスなんです。人は、変化したものには気づけるけれど、変化しないものには気づくことが出来ないんです。Yさんは、変化したから気づくことが出来たんです。
Yさんのように、言語表現が豊かな患者さんの発言は貴重です。自分の症状を言語化できない他の患者さんに、<たとえば、うちの患者さんで、こんなこと言ってる人がいるよ>と具体例をあげて伝えると、「それそれ、そういう感じです」と返ってくるので、私にとっても、他の患者さんにとっても、とても貴重なものになるんです。
どうでしょう。Yさんのような苦しみ(不注意)が、「あるある、私にもある、誰にでもある」と思いますか。もし自分にもYさんと同質の“不注意”があると思われたら、専門医に相談されるといいかもしれません。
(参考)
アトモキセチン(ストラテラ)という薬は、脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害し、脳内のノルアドレナリン濃度を上昇させます。また、ノルアドレナリンのみならず、脳内の一部において、ドーパミンの濃度も上昇させ、その結果として、ADHDの中核症状である多動、不注意、衝動性などが改善されるといわれています。