H子さん、大正13年生まれ(現在95歳)。診断名は不安障害。20年前に私のクリニックを初診。6年前までは、月に一回定期的に通院していました。認知症が進行して、通院が困難になってからは、たまに電話で話を聴き、娘さんが薬を取りに来ていました。
今年の3月、誤嚥性肺炎で○○病院に緊急入院。その後、療養型の病院に転院したので、娘さんが薬を取りに来ることはなくなったのですが、つい先日、娘さんが久しぶりに来院して、私との面接を希望されました。その要件とは、以下のようなものでした。
「今日、先生には、母のことで無理なお願いをしたい。誤嚥性肺炎のため、一時は胃瘻も考えました。でも今は元気になって、化粧までしているそうです。認知症は進んでいますが、職員の方には可愛がられています。先日、家庭医の早川先生に、私がお願いして手紙を書いてもらって渡したんです。そしたら、大喜びして、職員の人たちに得意そうに見せて回っているそうなんです。そして母が、『もう一人の□□先生の手紙はないのか』と催促したんだそうです。□□先生のことは、とても頼りにしていたので。・・・無理を言って申し訳ないんですが、コロナで会えないので、もっと母を励ましたいんです。先生の手紙がもらえたら、母はどんなに喜ぶか・・・」といって、大泣きされました。
<なんだ、そんなことでしたか。お安い御用です。手紙の差し入れ、いいですねぇ。3日後までに書いておきますから取りに来て下さい>と伝えた。
認知症が進行して、次第に薄れゆく記憶の片隅に、おじいちゃん先生の存在があったことは、とても光栄なことなので、喜んで手紙の差し入れをしたいと思います。さらに、仕事をしながら、H子さんの介護にあたってこられた、娘さんの日ごろの努力にも報いたいと思います。娘さんは、クスリを取りに来るたびごとに、おじいちゃん先生に対しても、甘いお菓子の差し入れをくださるんです。もちろん、お菓子の差し入れがなかったとしても、おじいちゃん先生は喜んで手紙を書くと思います(皆さん、誤解のないように?)。
現在、新型コロナウイルス感染症流行のあおりを受けて、ほとんどの病院や施設で、家族との面会がストップされています。うちのクリニックの患者さんでも、H子さんの娘さんと同じ悩みを抱えている方が何人かいます。その中の一人であったM子さんのお母さまが、1週間前に施設で亡くなられました。私の前で大泣きするM子さんに、何と声掛けしたらいいか悩みました。こういう時、精神医学の知識は何の役にも立ちません。<お母さまの肉体は消滅したけれど、あなたとお母さまとの関係はこれからもずっと続くんでよ>、とは言ってみたものの、<まだまだ修行が足りんわ>、と反省すること頻りの“おじいちゃん先生”でした。
今回のブログとは関係ありませんが、とてもいい曲、素晴らしい歌声に出会いました。