K子さん(41歳)、診断名:パニック障害、種々の恐怖症、過敏性腸症候群

 平成27年7月、「美容院で、急に気持ち悪くなってハアハア(過呼吸発作)した。以来、倦怠感がひどくなって内科受診。貧血(Hb5.0g/dl以下。正常値は10g/dlぐらい以上)を指摘され婦人科を受診したところ、子宮筋腫が見つかり、鉄剤投与による貧血治療を開始した。

 平成27年9月、イオンモールで買物中に、動悸、息苦しさ、嘔気と共に、過呼吸発作を起こし、救急病院受診。その後、自宅にいても「救急のことを思い出して」頻回に過呼吸発作が出現。平成27年10月20日、当クリニック初診となった。ジェイゾロフト(25)1錠、メイラックス(1)2錠の初期投与で治療開始。

 平成28年3月、子宮筋腫の手術をしてから、パニック障害の治療は順調に進み、様々な恐怖症(疾病恐怖、運転恐怖、外食恐怖、閉所恐怖など)も順調に乗り越え、令和2年に入ってからは、ジェイゾロフト(25)1錠だけを服用し、“クスリのみ通院”が続いていた。

 令和2年7月、4ヶ月ぶりに予約を受けての面接。「コロナに感染してしまうのではないか怖くて、マイッテましたけど、何とかやってました。・・・でも今は、そっちの方ではなくて、絶不調。去年の5月に痔の手術をして、細い便が出るようになってから、大腸癌が心配で、今年5月に肛門科に行った。そこでは大丈夫と言われたけど、6月に外出先で便をしたら、ちょっとだけ出血した。最近は、水下痢みたいになるのがしょっちゅうだし、心配で心配で、大腸癌のことが頭から離れないんです」と。

 

 K子さんに限らず、便に血が混じったり、便が細かったり、便秘や下痢が交互に来たりすると、「大腸癌かもしれない」と心配になって、ネットで調べる患者さんが多い。すると、その専門サイトには以下のように書かれています。

 

 『早期の段階では自覚症状はほとんどなく、進行すると症状が出ることが多くなります。症状としては、血便(便に血が混じる)、下血(腸からの出血により赤または赤黒い便が出る、便の表面に血液が付着する)、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、便が残る感じ、おなかが張る、腹痛、貧血、体重減少などがあります。

 最も頻度が高い血便、下血は痔などの良性の病気でもみられるため、そのままにしておくとがんが進行してから見つかることがあります。大腸がんの早期発見のために早めに消化器科、胃腸科、肛門科などを受診することが大切です。

がんが進行すると、慢性的な出血による貧血や、腸が狭くなる(狭窄する)ことによる便秘や下痢、おなかが張るなどの症状が出ることがあります。さらに進行すると腸閉塞(イレウス)となり、便は出なくなり、腹痛、嘔吐などの症状が出ます。大腸がんの転移が、肺や肝臓の腫瘤として先に発見されることもあります。』とある。

 

 確かに、これを読むと、「自分は大腸がんかもしれない」と心配になります。

 

<でも、肛門科の専門病院で大丈夫と言われたんだから、大丈夫でしょう。>

「でも、大腸カメラはやらなかったし、大丈夫と言われても信用できません。手術してから便が細くなったのが特に気にかかってます。」

<どういう理由で、便が細くなってるのか、説明を受けましたか?>

「いや、聞いてません。」

<あなたは去年、痔の手術をしたから、出口(肛門)が狭くなったんですよ。大腸がんで便が細くなるのは、肛門よりもう少し奥の直腸というところに大きな腫瘍のでっぱりがあるために、便の通り道が狭くなるからです。たとえば、マヨネーズを絞り出すとき、口が狭いと細く出るし、口が広いと太くなるでしょ。あなたの場合は、マヨネーズ容器の出口が狭いタイプで、直腸がんタイプとは違います。それから、柔らかい便だと肛門が広げられないので細く出るし、硬めの便だと肛門が広げられて太めに出てくるんです。あなたは下痢型の過敏性腸症候群だから、便が柔らかいので細くなるんです>と。

「言われてみれば、そうかもしれません。2月から13年ぶりに事務の仕事始めたんですけど、5人いてトイレが一つしかないのがストレスで・・・」と言って笑った。

<たしかに、そういうことも関係しているかもしれません>と。

 

 自分に何か症状があれば、「重大な病気かもしれない」と思うのは、不安障害の患者さんの専売特許です。医者であれば、なにかの症状があった場合、頻度の高い順に病名を思い浮かべる(優秀な臨床医の場合)ことが出来ますが、患者さんは、そうはいきません。頭痛がすれば「脳腫瘍かもしれない」、胸が痛いと「心筋梗塞かもしれない」などと思い浮かべ、さらにネットを調べると、自分が心配している症状だけが目に入り、ますます不安になってしまうんです。

 また、日本人の死亡原因の一番が“ガン”だから、ちょっとした体の不調があると、「ガンかもしれない」と考える(感情的な反応)のは、医者でなければ自然なことです。だいいち、ほとんどの人は“ガン”という病名しか知らないから

 

 さらに、K子さんには、

 

<何かの体調不良を感じて、何かの病名が浮かんだ時、すぐにネットで調べるのではなく、そのこと(病名を頭に浮かべたこと)に気づいてください。「あっ、今、自分はガンかもしれない、と考えた」と気づいてください。気づくだけでいいんです。そしたら、今日の診察場面を思い出してください。・・・でも、それに気づくことはとても難しいことなんです。それに気づけないで、ネットで調べてしまうんです。だから、それに気づく訓練として、これ(手動瞑想の動作)が必要なんです。これ、やってます?>

「ごめんなさい。忙しくてやってません。」

<1日1分でもいいから、習慣にしてください。湯船に浸かりながらやったっていいんです。そしたら、一瞬でも思考が止まり、落ち着きますよ。>

「わかりました。やってみます」と。

 

(注)精神科治療において、私が最も期待している手動瞑想の効果は、その場で瞬時に、自分の思考や感情に気づけるようになる、ということです。それについては、過去ログ、「“気づきのベル”あれいいですね」を参照してください。