コロナウィルス感染拡大の影響で、診察を受けないで、クスリだけ取りに来る患者さんが増えています。診察をしないで薬だけ処方することは、医療制度上はいけないことになっていますが、厚生労働省も「今はそんなお堅いことを言っている場合ではない」と分かっているようです。
さて、私のクリニックでも、「コロナが怖いのでクスリだけ処方してください」という患者さんが何人かはいます。しかしながら、私のクリニックでは、コロナとは関係なく、もともと薬だけ取りに来る患者さんが大勢います。今回はそういう患者さんの思惑と、おじいちゃん先生の思惑とを紹介します。(注:今回の話は、すでに病状が良くなって、安定している患者さんについての話です。病状の安定していない急性期の患者さんや、精神病圏の患者さんには当てはまりません。)
① 薬を飲んでいれば、何も困ることがないから。
これといって、医者に相談することがない。私から見ても、服薬による副作用は何もなく、クスリを飲み続けることのメリットがデメリットよりも大きい方たちです。「これからクスリ取りに行きます」と来院直前に電話をかけてきて、処方せんを受け取ると、サッと帰っていく、とても頼もしい患者さんたちです。日常生活のQOLをおとさないように、クスリを予防的に服用していることが多い。
② 診察を受けると、<薬を減らそう>といわれるのが嫌だから。
症状はすでに安定して(完全寛解)、面接のたびに<薬を減らしましよう>と私に言われるのが嫌で、「先生とは顔を合わせたくない」らしい?こういう患者さんたちは、「二度とあんな苦しい思いはしたくない」と、薬を減らすことで症状が再発することを過剰に怖がっている場合が多い。症状が悪化するのは、私の方も怖いので、悪化する可能性のある患者さんにはそんな提案はしないのですが。
③ 治療費を節約したいから。
診察を受けると、診療費が高くなる(通院精神療法料という技術料が加算される)ので、薬だけにしている。節約だけでなく、本当にお金に困っていて診療費や交通費を節約している患者さんもいて、それで症状が悪化する場合は、心が痛みます。
④ <面接しない方が治療的だ>と、私が考えているから。
治療者に対する依存傾向が強く、自分で問題解決をしようとしないような患者さんには、<次回は薬だけにしましょう>とすることがある。こういうケースは、治療の終結が近い患者さんに多い。
⑤ うちのクリニックは予約制なので。
本人が診察を受けたい時間帯に、すでにほかの患者さんの予約が入っている場合は、本人の希望通りに予約を入れることができません。双方の折り合いがどうしても会わなければ、<今回は、薬だけにしてもらえませんか>とお願いする。患者さんの方から、「今回は薬だけ、お願いします」ということもあります。
⑥ 精神科の薬の中には、投与制限のある(30日分以上出せない)クスリがあるから。
保険診療では、睡眠薬や抗不安薬は30日以上処方してはいけないという決まりがあるので、30日分の薬が切れたら取りにくる。そう言う患者さんに対しては、1か月あたりのクスリの使用量をこちらでチェックしていて、クスリの使用量が増える傾向が見られた場合、<次回は予約を入れて受診してください>とお伝えしています。もっとも、このタイプの患者さんの多くは、30日分クスリが、半年、1年、2年、5年、10年ともつ患者さんも多い。ときには、その患者さんの顔を思い出せないこともある(5年ぶりで診察3回目など)。
⑦ 本人が予約時間に合わせて受診できなかった場合。
不安障害やADHDの患者さんは、予約時間に合わせて受診するのが苦手です。ある一定の時間以上遅刻してきた場合は、予約を入れ直すか、クスリだけにしてもらいます。クスリが切れると生活の質が落ちてしまうので、次回までのクスリは処方します。
⑧ 本人が受診できないから。
自宅に引きこもっていたり、風邪で寝込んでいたり、病院に入院してしまったりなどの理由で、家族や知人が薬を取りに来るケース。本人には病識がないけれど(通院の必要はないと思っている)、薬を飲んでいることで病状のさらなる悪化を防いでいる場合もある。
まだ他にもいろいろありそうですが、思いついたのはこれくらいです。このブログの読者で、“クスリだけ通院”の方は、「自分はどれにあたるのか」考えてみてはいかがでしょうか。
“クスリだけ通院”は悪い面ばかりではなく、「クスリだけもらっているうちに自然に通院しなくなった」という治療の終わり方は、理想に近いものだと思います。ただし、統合失調症や双極性障害などの精神病圏の障害はそうではありません。診察時間がどれだけ短くとも(顔を見るだけの3分診療でも)診察を受け、クスリの増減も慎重に行う必要があります。“クスリだけ通院”は、患者さんそれぞれのメリットとデメリットを個別的に考えなければならないと思います。厚生労働省の決まりに縛られることなく、臨機応変に行きたいものです。