新型コロナウィルス感染拡大により、多くの人々が巣ごもり生活を余儀なくされています。早く普通の生活が戻ってほしい、と願う人たちが大半です。ところが、うちの患者さんの中には、「このままの生活も、まんざらではないですね」という患者さんが何人かいます。

 

Sさん、診断名:社交不安障害、神経症性うつ、ADHD傾向

 「3月始めからずっと在宅勤務でやっていて、私にとっては時間の余裕があって、楽でいいなと思ってます。私の仕事は、パソコンと電話があればできる仕事なので。・・・通勤の3時間半(往復で)がなくなったので、朝がゆっくりで9時間は寝られる。子供を保育園に預けることが出来なくなったので、妻と交代で見ているけど、それほど苦でない。・・・苦手のミーティング(ウェブによる)も緊張はするけど、会社でやっていたころに比べればずっと楽ですし、意見も言えます。仕事も周りに人がいない方が集中できてはかどる。でも、時間を忘れてやり過ぎちゃうこともあるので気をつけています。在宅勤務は性に合ってると思います。コロナが終わっても、このまま続けさせてくれないかなと思ってます」と。

 

 Sさんは、職場のミーティングで意見を求められると、パニックになってしどろもどろになってしまう。上司に言われたことがいつまでも気になって頭から離れず、家に持ち帰ってしまう。もともと、ロング・スリーパー(長眠者)で、一日8時間は眠らないとすっきりしない。最近、結婚して子供ができたけれど、新しい生活に適応できず。再び休職になってしまうのではないか、と危惧していたのですが、・・・幸運にも(?)在宅勤務が始まり、時間的な余裕がうまれ、持ち直しています。

 

 

Tさん、診断名:双極性障害、ADHD、社交不安障害

 「4月に復帰した途端に、テレワークになったことが私には幸いしています。以前復帰したときのような、朝のドキドキを経験しないで済む。死にたいと思うこともなくなった。・・・上司も変わった。前の上司は有能な人だったけど、私のことは無視していて、何も言わなかった。今の上司は、『一緒にやろう』と声掛けしてくれるので、プレッシャーが少なくなった。もうしばらくテレワークが続いてくれると、私にとってはいいんですが」と。

 

 Tさんは、これまで職場復帰に何度も失敗していて、「今回ダメなら退職するしかない」と、背水の陣で望んでいます。これまで、職場復帰の前に、リワーク(職場復帰に向けたリハビリテーション)を利用した経験がありますが、今回は「リワークは効果を感じないので、利用したくない」といって、直接復帰しました。

 

 

[おじいちゃん先生の期待]

 現在、職場復帰に向けたリハビリテーションは、『うつ病』を基準に考えられている職場がほとんどです。通勤訓練、勤務時間を徐々に伸ばしていく、通勤日数を徐々に伸ばしていく、仕事量を徐々に増やしていくといった、職場で仕事をやる、ということが前提になっています。しかし、SさんやTさんの現在の様子を見ていると(二人とも『うつ病』ではない)、ケースによっては、“在宅勤務(テレワーク)”から始めることで、復帰・定着がスムーズにゆき、再び休職するケースが減るのではないかと思われます。

 コロナ後には、働き方に変革(テレワークの増加など)が起こるのではないか言われています。私が診ている患者さんの中には、<在宅勤務なら就労可能。在宅勤務なら仕事を続けられる>といった、仕事をする高い能力はあるけれど、不安障害や発達障害などによって働けなくなっている患者さんが何人もいます。新型コロナウィルスによって気づかされた“働き方改革”に、おじいちゃん先生は大いに期待しています。