先週火曜日、M子さんとの会話です。
「きのう散歩していたら、マスクしないでジョギングしている人が横を通り過ぎていったんです。ハアハア息をしていたし、感染したんじゃないか心配です。私、大丈夫でしょうか?」
<ひょっとして、ノーベル賞をもらった山中教授の話のことじゃない?>
「そうなんです。この間、ここに来て先生の話を聞いて、少し安心して帰ったんですが、あの話を聴いてからまた不安が出てきて・・・。昨日も、薬を買ったときに、店の主人がマスクしていないことに後から気づいて、そのことがずっと頭から離れないんです。来週からお店(美容室)を再開するんですが、私がコロナに罹っていたら、お客さんに私が染すんじゃないか心配です。」
<ちょっと待ってください。山中教授が言ってることはあなたが心配していることとは違いますよ。それくらいのことで、感染は成立しません。だいいち、ジョギングしていた人や薬局の店主が、コロナに感染している確率は何十万分の一だし、あなたがその人と濃厚接触したわけでもないから、あなたがそこで感染した確率は1億分の1くらいじゃないですか。そんなこと言ったら、あなたがここで、私と30分間話をしていることの方がよっぽど感染する確率が高いと思いますよ。もしあなたが感染していたら、その二人の責任ではなく、私の責任になります。もっとも、私がコロナに感染していると仮定して、あなたが吸うコロナウイルスの数を減らすため、私もあなたもマスクをしているし、窓を3か所開けて換気扇を2台回し、プラズマクタスターも回しています。私のマスクで10分の1、あなたのマスクで10分の1、換気扇で10分の1、プラズマクタスターで10分の1、だと仮定すれば、感染確率はやっぱり1億分の1くらいにはなってると思いますよ。それでも感染したら、諦めるしかないですよ。それを心配するんだったら、交通事故に遭わないようにとか、歩道の段差につまずいて頭を打って死んでしまうことを心配した方がいいですよ。あなた、何時だったか、駅の階段を踏み外して救急車で運ばれたことあったでしょ>と。
<・・・そうですね。わたしは安心して帰ることにします>と。
私のクリニックでも、M子さんのような“新型コロナウィルス恐怖症”の患者さんが増えています。「電車に怖くて乗れない」「診察を受けるのが怖いので、クスリだけ貰いたい」「私が外出して、高齢の家族にコロナを染したくないのでクスリを送ってほしい」といった理由で、受診できなくなった患者さんもいます。もっとも、そういう患者さんこそ、受診した方がいいと思うのですが。
“新型コロナウィルス感染症”に対する正しい知識を持てば、何を恐れ、何は恐れる必要がないのかがわかります。しかし、医学的知識がある程度ない人にとっては、テレビやネットの情報から正しい知識を得ることがけっこう難しいんです。自分の過去の体験や不安な感情から、正しい知識であっても加工され、誤った知識(自分が作り上げた考え)にすり替えられてしまい、不安を増大させてしまうことになってしまうんです。
それでは、山中教授は何を言いたかったのか。教授曰く、
「新型コロナウイルスは、感染しても多くの人に症状が出ません。感染してもジョギングするくらいの人はたくさんいます。走って大きな息をしますと、もしかすると周りにウイルスをまき散らしているかもしれません。咳やくしゃみと同じような状況です。周囲へのエチケットとして、走る時もマスクをつけましょう・・・」と。
教授が言っていることは全て正しい情報です。ただし、『ジョギングしている人から感染するリスクがある』とは、どこにも書いてありません。しかし多くの人は、あの有名なノーベル賞をもらった人が、真剣で悲壮な表情で語っているのだから、『ジョギングしている人の吐く息は危険だし、感染リスクがある』となってしまうんです。山中教授が言いたかったは、ジョギングしている人に対するエチケットのことです。新型コロナウィルスでなくとも、咳やくしゃみをする場合、マスクをするかハンカチを口にあてるくらいは、日頃のエチケットです。このご時世だから、周囲の人を不快にさせるような行為は慎みましょう、ということです(このご時世でなければ、ジョギングする時にマスクをするなんてことはばかばかしいことでしょうが)。以上が、おじいちゃん先生の解釈でした。