ベルソムラ(スボレキサント)という睡眠薬の最大の特徴は、その効果に個人差が大きく、同じ人でも日によって効果の現れかたが大きく違う、ということです。言い換えると、「効く人には効くし、効かない人には効かない」、「同じ人でも、効く日もあれば、効かない日もある」となります。医者も患者も、この特徴を十分に理解していないと、ベルソムラという睡眠薬を使いこなすことは到底できないんです。従来のBZD系や非BZD系の睡眠薬であれば、効果の個人差はあまりなかったし、効かない日でも、ある程度までは効いてくれていました。
このような、効き方の違いを脳科学的に説明すると、『人の脳内(視床下部)で分泌されるオレキシン(神経伝達物質にひとつ)の分泌量、オレキシン受容体の数などに個人差があり、同じ個人でも日によってオレキシンの分泌のパターンが違うから』ということになるのでしょうか。オレキシンについては、次回のブログで詳しく説明します。
今回は最近、マイスリーからベルソムラに切り替えて、絶大なる効果を感じている、効いた人の例として、Yさんのケースを紹介します。
Yさん(63歳)通院歴10年 診断名:神経症うつ病、過敏性腸症候群
Yさんは、2か月に1回の通院。精神障害を有する娘さんを抱え、IT系の会社を退職したあと、個人事業をやりながら、介護施設の運転手のアルバイトもやり、多忙な日々を送っています。
Yさんは、私のクリニックに転院する以前から、マイスリー(5)1錠 を毎日服用していて、服用歴は13年を超えていました。数年前から、
<これだけ規則正しい生活を送っていて、日常生活も安定しているのだから、マイスリーはもう必要なくなっているかもしれませんよ。試しに、半分にするとか、寝付けそうなときには、飲まないで眠ってみるとかやってみませんか。例えば、寝床に入って、30分間寝付けなかったら服用すると決めておけば、飲んだり飲まなかったりする日が出てくるので、自然にやめられた患者さんもいますよ。>
「やめるのは、やっぱり不安です。以前、マイスリーを飲み忘れたら、朝まで寝られなかったことがありますし、考え事すると、寝られなくなることもありますし・・・」といったやり取りを、これまで何度かしていましたが、なかなかその気になってくれませんでした。
令和元年11月1日、<今回、ベルソムラという薬を、お試しとして、10回分出しておきますから、仕事が休みの前の晩に、マイスリーの代わりにならないか試してください>と提案し、15分くらい時間をかけて、ベルソムラの作用機序、良いところ、副作用、使用上の注意などを詳しく説明しました。すると、
令和元年11月12日、「この前いただいた、お試しのベルソムラ、いいみたい。11月15日にお話しして、また出してもらいたい。・・・」と、Yさんから電話が入った。
令和元年11月15日、<これ、いいですね!30分くらいで効いてくる。血行が良くなって、体がポカポカしてくるのが分かる。アラームでちゃんと目が覚めるし、目覚めが良くて、寝た気もするし、残った感じもない。私の娘もベルソムラ飲んでて、『いいよ』って言ってます」と、いいことずくめの絶賛。
令和元年12月27日「ベルソムラは寝不足の時は早く効きますね。睡眠時間も伸びていて、CPAPの値でも、赤が減って、青が増えている(深睡眠の量が増えている)」と。ベルソムラの効果は持続していた。
(補足)Yさんは、睡眠時無呼吸症候群の治療として 、数年前から、 CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)といって、睡眠中に機械で圧力をかけた空気を鼻から気道に送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止する治療を行っています。「赤が減って、青が増えている(深睡眠の量が増えている)」というのは、「寝た気もする」という、Yさんの実感を、科学的に裏付けてくれているのかもしれません。
すべての患者さんが、このように上手くゆくわけではありません。Yさんの場合は、10年以上服用し続けていたマイスリーから、一気にベルソムラに切り替えたのですが、その反動による副作用は、全くありませんでした。私の経験では、マイスリー(5)1錠 程度であれば、反跳性不眠という副作用が出ることは、それほど多くありません。ハルシオンやレンドルミンといった、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて、マイスリーやルネスタといった、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬にいったん切り替えておくことのメリットは、こういうところにあります。
(補足)反跳性不眠とは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を一定期間服用しつづけていて、突然服用を中止すると、服用前より強い不眠が現れるようになることをいいます。 一般に作用時間の短い薬剤(ハルシオン、レンドルミン、デパスなど)ほど出現しやすい。