前回の記事の続きです。私が気づけなかった、OさんのADHD傾向を念頭に置きながら、双極性障害Ⅱ型治療(安定を得るのが難しい)の20数年間を振り返ってみたいと思います。うつ病を考える(7)-「双極Ⅱ型は医者泣かせ」も参照ください。

 

Oさん(64歳)初診日:平成8年、病名:双極性障害Ⅱ型(+ADHD傾向?)

(初診まで)

 平成4年頃より、「時々憂うつになることには気づいていた」と。

 平成6年、胃部不快症状と共に、不眠(入眠困難、早朝覚醒)、「右半身の足先から頭まで、毛を引っ張られるような痛み、鼻の奥で金臭い匂いがする」といった症状が出現し、○○神経科受診。うつ病と診断され、アナフラニール、ハルシオンが処方された。その後何度か同様の症状が出現し、投薬を受けていた。

 平成8年8月、それまでと同様の症状に加えて「動悸。考えるのがおっくう。気力が出ない。仕事が手につかない」といった症状が強くなり、知人の紹介で、当クリニック初診となった。

 

(経過)

 初診時診断では、うつ状態としたが、2回目の受診時において、実母が20代から現在まで、うつ病(?)治療を継続していて、時に「ハイになったこともある」ということがわかった(病名は不明)。また、本人からの「いい時と悪い時が2~3か月間おきにくる。本当にフラットにはならない」との話を受けて、<これまでの経過や、お母様の遺伝負因を考慮すると、双極性障害が疑われるので、リーマスを中心とした薬物療法を考えていきます>と説明しました。

 

 平成9年4月、リーマス投与によって、うつ状態はやや改善し、仕事を続けることはできてはいたが、低め安定が続いた。しかし、その後うつ状態が悪化。平成9年6月□□病院に入院。平成9年8月にいったん退院してきたものの、「入院して、2週間で良くなった(自然軽快?家庭内ストレスから解放された?)が、すぐに戻ってしまった。今は、入院前より症状が重い」と、本人が休息入院を希望ししたため、□□病院に再入院。3か月の入院を経た後、自宅療養していたが、復職できない状態が続いた。

 平成10年10月、軽減勤務で職場復帰。その後、2~3か月周期でうつ状態がやや悪化することもあったが、休職には至らず。しかし、「疲れやすく、馬力は7~8割ぐらい」の状態が続く。

 平成11年9月、「ちょっと落ちてきている。2週間前から、胃腸の動きが悪く、注意力が落ちている。健忘症じゃないか、『あれどうした』といわれる。夏は忙しかったけれど、苦もなく乗り越えてきた。家族にも、短気になったところあるといわれる」と。<例年9月頃になると、うつ相に入る傾向がある。晴れてくるのを待ちましょう>と。

 平成13年4月、「疲労感が強い。年に2回、秋口の2週間くらい、体がおかしい。前兆みたいのがあるけど、ひどくはならない」と。その後は薬だけ取りに来る受診が続いた後、平成14年11月には通院が中断した。

 

*私のクリニックでは、双極性障害が薬によって上手くコントロールされて、日常生活に支障がなければ、クスリのみの通院になっている方も多い。自分から進んで受診するのは、再発したか、何か困ったことが生じた時です。便りの無いのは良い便り、とも言えます。

 

 平成17年5月、2年半ぶりの来院。「今は休職しています。(平成14年11月以降)薬を飲まなくても調子が良かった。今年の5月に福岡に転勤になった(単身赴任)。疲労とストレスが重なって、前のような嫌な症状が出てきた。字が上手く書けない、鼻の奥が金臭い、胃腸が動かない、頭に靄がかかった感じ、1時間おきに目が覚める、味覚がない、ラジオの音もスピーカーから流れてくるよう、めまい、頭が半分眠っている、・・・」と重いうつ状態を呈していた。以来、様々な薬物療法(トリプタノール、ルジオミール、デパケン、テグレトールなど)を試みるも、急速交代タイプ(短期間に軽躁とうつの波が現れる)になって、回復には至らず。平成20年2月、本人の希望で、△△大学精神科にて、反復経頭磁気刺激療法(TMS:週4回、1回10分、3週間)を受けるたが。ほとんど症状の改善なし。

 平成20年7月、エビリファイ(3)1錠を追加処方。すると、平成20年8月、「1週間前から調子がいい。朝起きてからそのまま寝もせずに、掃除洗濯。よくしゃべる。自分からいろいろなことをやる。<エビリファイが効いたみたいですね。覚醒レベルが上がり、睡眠時間が適度に短くなって、エネルギーレベルが上がってますね。眠りすぎない方がいいというのは、双極性Ⅱ型うつの特徴です。でも短くなりすぎてはダメ!>と。その後の経過でも、うつ状態の再発は見られず(エビリファイの腰折れもなく)。症状の改善が、軽躁に至る波がたまたま重なっただけではないこともわかった。

 平成20年10月、2年半ぶりに復職。仕事を続けるうちに、徐々に体力もついて好循環が生まれ、抗うつ薬も減量できて、この11年間はうつの再発もなく、安定が保たれている。

 

 平成24年9月、「うつではないけれど、体のあっちこっちが痛い。針を刺すようで、はじめは体のあっちこっちがかゆかった。今もお尻をチクチク刺されているみたい。体のあっちこっちで線香花火がぱちぱちしているみたいで、胸がずっと苦しい。・・・メイラックスで軽快。これは、何らかの感覚過敏?。

 平成25年8月、「順調です。人の話し声とか、電話の音が気になって落ち着かない」と、今までのうつ状態とは違った訴え?。

 平成25年10月、「妻と長女がスペインに行っていて、下の子の弁当作りもやってるので疲れてます。寝るのが2時で、起きるのが6時くらい。気分は低いというより、上がっている感じ」と。<ずいぶんこき使われているんですね。睡眠時間は確保しないと、後からツケ(うつ状態)が来るのでくれぐれも注意してくださいね>と。

 平成26年8月、「家内が骨折、母の入院、家事、娘の送り迎え、・・・睡眠時間は3~4時間です」と。<女性陣が皆脱落ですね。よくぞもちこたえますね。とにかく睡眠を十分にとってくださいね>と、睡眠の重要性を繰り返し伝えた。その後再びクスリのみの受診。

 平成28年8月、「去年無事に定年退職して、今は求職活動中です」と。その後は、求職活動をやめて、主夫に専念。平成29年5月以降は、月に1回クスリだけを取りに来て、受付で近況を語って帰るというのが続いていました。

 

 以上が過去20数年間の、Oさんの治療経過です。

 

 Oさんの双極性障害Ⅱ型は、平成20年、うつ状態の底上げにエビリファイ(統合失調症の薬として平成18年発売)が上手く効いてくれたことで安定しました。発病から病状の安定を得るまで14年かかったことになります。当時はまだ、うつ状態改善の補助薬としてエビリファイを使用することが、それほどポピュラーではなかったので、ヤッター!という気持ちでした。

 

 さて本題の、過去20数年間分のカルテの記載を読み返してみて、OさんにADHDを窺わせる徴候はなかったか?ということですが。ほとんどありませんでした。強いて言えば、平成24年9月、平成25年8月のOさんの話に、感覚過敏がうかがわれる程度です。仕事をしていた頃も、「仕事で疲れる」ということは度々訴えていましたが、段取りの悪さや対人関係に悩むというようなことは、一度も聞いたことがありませんでした。さらに、2~3年前からは、妻や娘たち(女性陣)の代わりに、ADHDの人が苦手とする雑多な家事をやっているんです。在職中の平成25年10月には、「妻と長女がスペインに行っていて、下の子の弁当作りもやってるので疲れてます。寝るのが2時で、起きるのが6時くらい。気分は低いというより、上がっている感じ」と。<ADHDの人がここまでまめにやれるものなのか>といいたいところです。

 しかしながら、先日(令和元年10月)の、「子供の頃には、しょっちゅう物を落したり失くしたりしていました」「妻や娘には、お父さんは3つ頼むと、必ず1つ忘れる。人の話を聞いているようで聞いていないと、しょっちゅう言われています」「仕事上で、うっかりミスや段取りの悪さがあるので、そうならないように、2倍3倍の注意を払っていました」といった話からは、ADHD傾向が窺われます。

 

(考察)

 ADHD傾向があるために、職場での不適応や対人関係の悩みを生じ、2次的に不安抑うつ状態をきたすケースは多々あります。しかし、Oさんの場合は、ADHD傾向と双極性障害は併存していて、深いつながりはそれほどなかったと思います。OさんのADHD傾向は、その程度も軽く(問題視するレベルではない)、Oさんの適応能力と努力でカバーされていて、私が余計なお世話をする必要がなかったのでしょう。だとすれば、たまたまQEEG(定量的脳波検査)で、ADHD傾向が見つかったとしても、新たにストラテラを追加処方する必要はないし、今後も引き続き、余計なお世話をする必要もないと考えています。優先順位はやはり、双極性障害の再発予防です。Oさんを次回診察するときには、このようなことを伝えたいと思っています。

 

ちなみに、偶然ではあったけれど、エビリファイはADHD傾向にも効く可能性をもっているクスリです。ひょっとしたら、これまで効いていて、ADHD傾向の助けになっていたかもしれません(勝手解釈ですが)。