Oさん(64歳)は、私のクリニックの近くに住んでいて、現在も、月1回定期的に薬を取りに来ていますが、直接診察するのは2年半ぶりでした。
令和元年10月○日、・・・・・「じつは、22歳の下の娘が発達障害だったみたいで。私は、思春期の問題と疲労が重なった、と思っていたのですが。発達障害の専門クリニックで、そう診断されました。そこのクリニックで、(親として)いろいろ訊かれて、私も娘と一緒に脳波の検査を受けたところ、これだ、と言われた」。Oさんが持参した資料には、“不注意・過眠型のADHD”と鉛筆書きされていた。「そこの先生には、『あなたは今、うつ病もないし、躁状態でもない』といわれ、ストラテラ(ADHDの治療に使われる薬)を2か月分出されて飲んだ。こっちの薬も飲んでるので、どうしたらいいのか相談しようと思って。少しびっくりしていて、私はずっとこれ(ADHD)だった、ということなんですか?」といわれた。予想外の話を聴かされ、おじいちゃん先生も、Oさんと同様に、少しびっくりしました。
<ちょっとお訊きしていいですか。Oさんの子供の頃は、どんな感じでしたか?>。
「けっこう、おっとりとしていて、しょっちゅう物を落としたり失くしたりしていました」と。
<奥さんや娘さんは、Oさんのこと、どう言っていますか?>。
「お父さんは3つ頼むと、必ず1つ忘れる。人の話を聞いているようで聞いていないと、しょっちゅう言われています」と。
<でも、仕事はこなせていましたよね。仕事上で、うっかりミスとか、段取りの悪さとかで困ったりしませんでしたか?>。
「それがあるので、そうならないように、2倍3倍の注意を払っていました」と。
<そうでしたかぁー。それじゃ、人の2倍も3倍も疲れますよねぇ>。
「そうだったかもしれません」と。
<娘さんの発達障害は、Oさんから見てどんな感じですか?彼女が小さい頃、あなたと一緒に、薬を取りに来ていましたよねぇ>。
「娘は、子供のころから動きが活発で、手がかかる子だと思ってました。友達には『相手の気持ちが読めていない。自分のことを一方的に話す・・・』といわれていたみたいです。でも、私はそうとは思ってなかったです」と。
Oさんとは、平成8年の初診以来20年以上の付き合いです。話しぶりは落ちついていて、態度も紳士的。面接時のコミュニケーションにも問題なく、こちらの質問にも的確に答えてくれ、私やほかの患者さんに対する気配りもできる人です。私のクリニックに通っている患者さんの中には、ADHDの傾向があると思われる患者さんが大勢います。しかしながら、OさんにADHDの傾向があるとは、おじいちゃん先生は全く気付いていませんでした。
次回は、20数年間の治療経過(双極性障害)を振り返りながら、OさんのADHD傾向についても考えてみたいと思います。
(補足)
Oさんが受けた脳波検査は、QEEG(定量的脳波検査)といわれるものです。従来の脳波を、コンピューター技術を用いて解析し、ADD/ADHD特性、ASD特性、不安特性、うつ特性などを、ある程度まで推量できる検査で、欧米などでは非常に人気のある検査法だそうです。
現在の日本の医療では、まだ一般的に行われているものではなく、これだけで診断が確定するものでもなく、あくまで脳の働きの傾向を知ることができる検査です。
この検査を専門としている医師は、『技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました』といいます。OさんのQEEGから、『あなたは今、うつ病もないし、躁状態でもない』と判断されたとすれば、とても喜ばしいことです。おじいちゃん先生の治療が上手くいっている、ということになるのでしょうから?。