発達障害とは、生まれつきの脳の働きの発達に偏りがあるために、様々な心身の障害が出ることをいいます。多くの大人は、「発達障害というのは、子供の話だから、自分には関係ない」と思っています。ところが、そうではなく、大いに関係があるんです。

 最近、テレビや新聞記事で、“大人の発達障害”という言葉を度々みかけるようになっていますが、大人の発達障害というのは、子供のころからもともとあった発達障害に、大人になってから気づかされることです。子供の頃から発達障害的なところはあったとしても、本人も親や周囲にも気づかれず、大人になるまでは社会生活を普通に送ることが出来ていた。ところが、学校や職場などの対人関係などに問題が起こり、それに適応できなくなって、不安や抑うつなどの様々な精神症状が出現し、精神科等を受診した時に、その存在を指摘されるというものです。もっとも最近では、自分で気づいて、「自分は発達障害だと思うのですが、そちらで診て頂きますか」と電話をかけて来られる方もいます。

 

 ここ10数年来、“大人の発達障害”という概念は、精神障害の診断と治療に革命を起こしています。おじいちゃん先生もこの歳になって、今診ている患者さんたちの診断と治療の見直しをはかって、右往左往しているんです。これから何回かに分けて“大人の発達障害”にまつわる、おじいちゃん先生の経験を、私自身の勉強も兼ねて、お話ししていきたいと思います。

 それに先立って、今回は、“発達障害”について、最低限の用語の説明をします。私は児童精神科医ではないので、やや乱暴な説明になりますが、お許しのほどを。

 

 

 “発達障害”というと、いくつかのタイプに分類されていて、自閉症、アスペルガー症候群注意欠如・多動性障害(ADHD)学習障害、などがあります。

 

 自閉症には重症タイプと軽症タイプがあります(その境界はないけれど)。

重症の自閉症は、乳幼児期にはっきりとした形となって表れるもので、言葉の発達が遅れる、集団に入れない、落ち着きなく動き回る、特定のものに固執するなどが見られます。また、知的障害を伴うことも多いと言われています。それらは周囲の人たちが気づきやすく、検診や相談機関を受診して、自閉症と診断されることが多い。大人だけ診察している精神科医(おじいちゃん先生)は、診察する機会がありません。

 一方、軽症の自閉症は青年期・成人期に自閉症傾向が顕在化してくるもので、言語発達の遅れはなく、アスペルガー症候群や高機能自閉症などと診断され、最近では、自閉症スペクトラム障害とか広汎性発達障害と診断されます。

 大人の発達障害を考える上で特に重要と思われるのは、アスペルガー症候群注意欠如・多動性障害(ADHD)なので、この二つについて少し詳しく説明します。

 

アスペルガー症候群(≒自閉症スペクトラム障害、広汎性発達障害)

 言語の発達に遅れはないものの、その他の自閉症と同じく、①社会性(対人関係)の障害、②コミュニケーションの障害、③こだわり(興味の限局)想像力の障害、が認められます。青年期や大人になってからの特徴を上げると

①社会性(対人関係)の障害

 人と交わることや集団に入ることがうまくできない。友だちをうまく作れない。集団に入れず孤立しやすい。人の気持ちや事情をうまく理解できず、マイペースに行動する。自分の関心のあることを一方的に話す。知らない人にいきなり話しかける。場の空気が読めない。正直すぎる。社会の暗黙のルールが分からない。深刻な場面でふざけたりするなど。

②コミュニケーション障害

 言葉を中心としたコミュニケーションがうまくできない。言葉を字面通りに理解し、文脈の理解ができない。難解な言葉を用いる。比喩表現や言外の意味の理解が苦手。話すと話が詳しくて回りくどいなど。

③こだわり(興味の限局)、想像力の障害

 興味や考えが狭い範囲に偏り、新しいことや状況の変化に不安や恐怖を感じることを言う。特定の自分の興味や趣味に没頭する。生活すべてがワンパターンになりやすい。日常生活動作の手順を細かく決めている。真面目で規則を守りすぎる。融通が利かず、予定や計画の変更に対応できない。新しいことや変化に臨機応変に対応できない。応用力がない。自分の主張を譲れないなど。

 

 どうでしょう、程度の差はあっても、「自分や周りの人たちにも当てはまるぞ」という箇所がいっぱいあるのではないでしょうか?

 

注意欠如・多動性障害(ADHD)

 幼児期・学童期に始まり、①多動性②不注意③衝動性がその特徴です。

①多動性

 落ち着きがない、椅子にじっと座っていられない。椅子に座っていても絶えず身体のどこかを動かしている。物事の優先順位が分からない。常に忙しそうにしている。後先を考えずに予定を入れてしまう。

②不注意

 注意集中が困難である。仕事でも勉強でも一つのことを続けてやることが出来ない。外からの刺激に容易に注意がそらされる。ケアレスミスが多い。気が散りやすくて、物事に集中することが苦手。やりたいことや好きなことに対して積極的に取り組めるが、集中しすぎてしまう。物をどこかに置き忘れたり、物をなくしたりすることが頻繁にある。片付けや整理整頓が苦手。約束や時間を守れない

③衝動性

 突き動かされるように行動する。ルールを守ることが苦手で順番を守らない。大声を出すなど衝動的に行動することがある。相手の話に耳を傾けず、一方的に自分の話をする。衝動的に不適切な発言や行動をする。

 

 どうでしょう、これもまた、程度の差はあっても、「自分や周りの人たちにも当てはまるぞ」という箇所がいっぱいあるのではないでしょうか?

 

 おじいちゃん先生が対面している“大人の発達障害”の患者さんたちは、正真正銘のアスペルガー症候群、正真正銘の注意欠如・多動性障害(ADHD)は少なく、アスペルガー症候群の傾向がある、注意欠如・多動性障害(ADHD)の傾向がある、という患者さんたちが多い。<発達障害的なところが大いにあると思うが、そうとは言い切れない。でも、その傾向があるために、うつ病や不安障害の症状を悪化したり、治りを悪くしている>と思わせる患者さんたちが多いんです。

 

 

(補足)

 学習障害には、読字障害、書字障害、計算障害などがあって、「全体的な学習能力に比べて、読む、書く、計算するなど、特定のものの習得と使用に著しい困難があるために、その部分の発達が遅れている状態」。わかりやすく言うと、苦手とか、やる気がなくてできないというレベルの話ではなく、いくら努力しても、できないものはできない。その部分に限って、習得する能力が劣っているということです。本人も周囲もそれを理解して、ないものねだりせず、得意を伸ばすという考え方が有力です。

 以上説明してきた、アスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害の三者はいずれをも合併しやすいと言われています。

 

 次回のブログでは、平成22年から平成29年の7年間にわたって私が治療にあたった、Kさんのケースを詳しくみていきたいと思います。治療は3歩前進したと思ったら3歩後退、本人も私も悪戦苦闘の繰り返しでした。