街中の小さな精神科クリニックでは、うつ病(不安抑うつ状態)の患者さんたちのほとんどは“軽症例”といわれるものです。軽症と重症には、はっきりとした境界はありません。定期的に通院が可能であること、自分が困っていることを自分で説明できることなどが、私が使っている“軽症例”という言葉の意味です。“おじいちゃん流”うつ病治療では、この“軽症例”について書いています。
前回のブログ、“おじいちゃん流”うつ病治療 (1)では、治療の対象となる“不安抑うつ状態”とはどんなものかについてお話ししましたが、今回は、それに対する薬物療法についてお話ししたいと思います。
◎ 初診から、ある程度の寛解が得られるまで(数か月~1年間くらい)に行う薬物療法
① 抗うつ薬と抗不安薬との併用について
初診時、患者さんのほとんどは、不安を伴った、うつ状態です(不安抑うつ状態)。抗うつ薬が効いてくるまでには少なくとも1~2週間はかかるので、即効性のある抗不安薬を併用することが多い。やっとの思いで来院したのに、症状の改善を1~2週間も待たされるのでは、患者さんはたまったものではない。抗不安薬は即効性があり、睡眠障害の改善や休息を促す効果が期待できます。また、抗不安薬には抗うつ作用もあって、その反応をみることによって、患者さんの病態が内因性うつ病に近のいか、不安障害に近いのかを判断することが出来るからです。私の場合、メイラックスを処方します。メイラックスを使用するのは、抗不安作用に切れ目がなく、1日1回飲むだけで1日中(睡眠中も)効いてくれているので、依存ができにくく、必要なくなったときに止めやすいからです(詳しくは、「ベンゾジアゼピン系抗不安薬の実践経験(2)」参照)。
② どの抗うつ薬を選択するかについて
どの程度、内因性うつ病寄りか、神経症性うつ寄りか、不安障害寄りかで、抗うつ薬の種類を選択します。私の傾向としては、内因性うつ病に近いところから、リフレックス>SNRI(サインバルタ、イフェクサーSRなど)>SSRI(ジェイゾロフト、レクサプロなど)>ドグマチール>メイラックスの順番です。ケースによっては、メイラックスのみで様子を見ることもあります。1週間以内にメイラックスのみで症状が改善した場合には、不安障害寄りのうつ状態だと考えます。どのようなうつ状態に、どのような抗うつ薬が有効かについては、確定した理論はなく、実際に投与してみないとわかりません(医者の経験と勘?)。以前どこかで治療を受けたことがあって、有効だった抗うつ薬がわかっていれば、それを処方します。抗うつ作用が最も強力と言われている、三環系抗うつ薬(トリプタノール、アナフラニールなど)は、“軽症例”では使いません。三環系抗うつ薬は、口渇、便秘などの副作用が酷く、飲み続けるのが辛いからです。もっとも、20数年前までのうつ病治療では、これに頼るしかありませんでした。
③ 睡眠導入剤の併用について
うつ状態の初期治療において、睡眠を確保することが最優先されます。うつ状態や不安障害の不眠には、睡眠導入剤よりも抗うつ薬や抗不安薬の方が効くので、睡眠導入剤を使わないで済めば使いませんが、抗うつ薬と併用することで睡眠が確保されるのなら、ためらわずに併用します。私の場合は、抗不安薬としてメイラックスをすでに使っているので、抗不安作用のない、マイスリーかルネスタを使います。純粋に寝つきだけをよくする薬として使用するためです。症状が落ち着いてくれば、毎日服用するのではなく、頓用になるよう努力します。しかしながら、1年以内に頓用になるケースは少ない。マイスリーやルネスタを中止することで十分な睡眠が確保できない場合は、中止しないでそのまま継続するからです。近年発売された、ロゼレムやベルソムラは、入眠効果が確実でないため、この時期には使いません。(「マイスリーの特徴とその使い方」参照)。
④ 抗不安薬の減量について
症状の改善に合わせて、抗不安薬を減量し、可能なら中止し、抗うつ薬が残るように心掛けます。しかし、実際にはメイラックスの少量(0.5mg~1.0mg)を毎日、もしくは頓用として、抗うつ薬と併用しているケースが多い。性急にメイラックスを減らすことで、QOLが低下するくらいなら、慌てて減らさない方が良い。減薬の近道は、QOLの向上であると私は考えています。
⑤ 抗うつ薬以外の併用について
抗うつ薬(2剤併用まで)での改善がなければ、気分安定薬(デパケン、リーマスなど)、非定型抗精神病薬(ルーラン、セロクエルなど)、の併用を考えます。
⑥ 抗うつ薬を最低1年間は継続する
症状が落ち着いてから、少なくとも1年間くらいは、抗うつ薬の減量はしない。これは、うつ病治療の原則であり、精神科医の常識です。回復期・維持期には、減薬することよりもQOLの向上を優先します。QOLの向上が見られないようであれば、2年でも3年でも減薬しないで、精神療法や運動療法などによってQOLの向上をはかります。QOLの向上が減薬の近道でもあるんです。例外として、薬の副作用のためにQOLが低下する場合は減薬しますが、多少の副作用があっても減薬しないこともあり、患者さんとの話し合いで決まります(「先生と喧嘩しそうになったけど」参照)。
⑦ 薬にまつわる精神療法
初期の薬物療法においては(投与される薬の種類と投与量がある程度一定になるまで)、薬について十分に説明することが、精神療法の柱の一つです。自分が飲んでいる薬の効果や副作用を正しく理解してもらいます。患者さんにとっての正しい理解というのは、薬剤情報提供書やネットの情報から得られるものではなく、自分が実感している効果や副作用を自分の言葉で表現できるようになることです。そのことは、再発の兆候にいち早く気づくことや、主治医が変わっても自分の状態を正確に説明できるなど、後々の治療に影響します。このあたりの具体的な例は、「薬を飲ませるテクニック」、「生物学的理解がお得です」、「SSRIと抗不安薬の違い」などを参照してください。
*②の説明で、<どの程度、内因性うつ病寄りか、神経症性うつ寄りか、不安障害寄りかで、抗うつ薬の種類を選択します>と書きましたが、このことについては次回のブログで、もう少し分かりやすく説明します。