○○○さん、51歳 初診日:平成7年8月 診断名:発達障害、恐怖症、軽度精神遅滞

 小学生の頃より酷いイジメに遭い、中学生になってからは、母に対する暴力が頻繁になり、不登校が続いた。・・・・

 平成2年5月(23歳)頃より「登下校時の小中学生が怖い(昔のいじめの体験を思い出す)」という理由で、その時間帯は外出できなくなり自宅に閉居。その後、「子供がわざと呼び鈴を鳴らしていく。あいつはバカだといってる」といって、小中学生の声を消すために、ストーブの音を大きくしたり、自室のカーテンを閉め切るようになった。

 平成2年9月~平成7年5月、△△病院に通院。重症の神経症と言われていた。

 平成7年8月~現在まで、2週間に1回の当リニック通院を継続している。長年にわたり、「小中学生の男子生徒に暴力を受けるのではないか」という恐怖感のため、外出が思うようにできず、自宅に閉居する日々が続いた。しかし、小学生の時に始めた、プラモデル作りが(日に10~20時間にも及ぶ)、しだいに生きがいとなっていった。

 

 ○○○さんとは、20数年来の付き合いなので、内輪では、○○ちゃんと呼んでいます。プラモデル作りの合間に、頭に浮かんだことを、広告の裏面に(たぶん母親がメモ用紙として切り分けたもの)ボールペンを使って書き留め、「もう、何を書いたか、何を考えていたかは、すべて忘れてしまったけれど、読んでみてください」といって、時々持ってきてくれます。

 先日、地元のコンテストで1位を取って、全国大会に臨んだものの、残念ながら入賞を逃し、ショックを受けていた。しかし、今日の面接では、全国大会での体験を「もう、楽しくて、楽しくて・・・」と嬉々として語ってくれた。そして、いつもの広告の裏面にしたためた“○○○哲学”を置いて行った。以下、出来るだけ忠実に再現。

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 (1枚目)なア、○○○よぉ、テメエはいつも1位の王道にいたいと思うよなァーそれは危険なことだ。王道くらすの模型は全くスキのない完璧なものだ。そこまでいけば自分のほんのササイな、ちょっとした誰でも許せる失敗が許せなくなる。普だんは○○○はお高いところに止まって、アイツダメ、コイツもダメと決めつけてよい気分になっている。プラモに失敗は付き物だ。テメエは自分でプラモを楽しめないものにしているんだ。

 (2枚目)失敗が付き物のプラモでドンな奴でも必ず失敗をする。そいつらはいかに失敗を目立たなくする術を知っている。プロだから当たり前だ。失敗を1回もしないで乗り切れる程プラモは甘くない。いつも上位にいないと気がすまない野郎の○○○は、ちょっとした失敗が許せなくなる。そしてその失敗をクヨクヨと悩み苦しみプラモを自分から苦しいものにしている。だから1位になろうとするな!!誰しも1位は気分が良い。ホビージャパンのプロモデラーは模型の世界では勝ち組だ。しかし奴らはプラモを楽しめているだろうか?

 (3枚目)おそらく楽しめていないと思う。プロの世界でもしのぎ合いがありつねに「トップを狙える作品を作らなければならない。決して模型作りを楽しむという生やさしい世界ではない。だから一度モデラー辞めた奴は、2度とモデラーとして戻ってこない。そしてプラモ自体からもしりぞいてしまうのだ。頂点を目指した者のツライ宿命だ。プラモというのはできない方が楽しめるキャパシティが広い。作れるようになればなる程楽しめるキャパシティがへってくる。それは自分が過去に、ここまで作れたんだ、だから今の自分は出来て当たり前だ

 (4枚目)と思う所にある。昔の自分の作品であっても、今の自分には出来ない程緻密でていねいで正確な作業をしていることもある。トータルで今の自分の方が過去の自分を上回っているだけだ。必ずしも今の自分の方がすべての工程で上回っている訳ではない。人間とは忘れる生き物だ。だから俺は過去にここまで細かく、こった作りをしていたのか!オマエはここまでやっていたのかと過去の自分に教えてもらうこともある。人間とは悲しいことに忘れてゆく生き物だ。だから模型だけでなく人の人間性というものも過去の自分より今の自分の方が悪い物になっているということもある。

 (5枚目)悪いものになっていても、それに気づくことが難しいと思う。というかどんな人でも気づくことができないと思う。模型は過去の自分を細かく見ることでアァ俺はこの頃はこんなことを考えて、こんなことを思っていたんだ。と気付くことが出来る。しかし人生というものは過去の自分の心に聞いてみても、あまりにも考えていた事、思っていたことがぼう大すぎて、は握しきれない。それに気づくためには日記などをつけることも必要かもしれない。

 (6枚目)人間は停まって生きている生きものではない。つねに変化している。その変化に気づける奴は1人もいないと思う

私はコンピューターのように完全完璧な人よりミスをしたりドジをする人の方が人間らしくて付き合いやすい気がする。もちろん医りょうや交通では絶対にミスがあってはならないのだが、・・・

     ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 残念ながら、おじいちゃん先生はプラモデル作りをやらないけれど、彼の作った作品は、立派な工芸品に見えます。プラモデルが趣味の人であれば、○○ちゃんが語っていることには相当の重みがあるのではないかと思う。プラモデルという言葉を、その他の芸術(工芸・絵画など)やスポーツなどに置き換えてみると、私も大いに共感できます。40年間近く、寝食を忘れてプラモデルを作り続けてきた体験から得られた、○○ちゃん独自の哲学だと思います。