認知行動療法(CBT)の原理をシンプルに考えてみると、

 

原理 1:物の受け取り方や考え方(認知)が変わると、気持ち(感情)が変わるとともに、(行動)も変わる。

 

原理 2:(行動)が変わると、気持ち(感情)が変わるとともに、物の受け取り方や考え方(認知)が変わる。

 

 原理1は、認知療法的。原理2は、行動療法的。といえるものですが、どちらも、われわれが日常生活の中で経験していることで、常識で理解できることだと思います。

 

 認知行動療法(CBT)というのは、とても常識的な治療法です。常識的というのは、患者さん自身が気づきうる、日常の経験にも近いもので、特別な発想を必要としないということです。そのため、ある程度まで勉強し、それが習慣化されたら自分が自分の治療者になることが可能です。また、そうなることが、CBTの最終目標であるともいわれています。

 

 冷静で思慮深いAさん。不安抑うつ状態が改善し、職場に復帰して、しばらくたって来院したとき、「以前、失敗したプロジェクト(うつになるきっかけになった)があって、今それに取り掛かってます。今回は成功させたい。今、自分は○○○と考えている。でもこういう考え方は、期待と不安が混ざっていて、独りよがりかもしれない。ちょっと怖いけれど、一度、専門家の意見を聞いてみようと思います。・・・(そして後日)思い切って専門家に相談してみたら、いいアイデアをもらうことができたので、不安はなくなった。これからは、新しいプロジェクトを始める場合は、最初に専門家の話を聞くことにします・・・」と話されました(この中には、原理1も原理2も含まれています)。Aさんは、不安抑うつ状態に陥らなければ、自分の認知や行動を吟味し、問題解決することが相当できていた人なのだと思います。しかしながら、このAさんでさえ、不安抑うつ状態に陥ってしまうと、常識的な考え方ができなくなってしまうんです。

 そこで、“おじいちゃん先生”が、うつや不安障害の患者さんに対して行っている精神療法の柱は、患者さんに、現在の病気の状態を十分理解してもらい、今起きている問題をどのように解決していくかを一緒に考えていくことなんです。その際に、問題点を状況・思考・感情・行動にわけて整理する、といったCBTの手法が使われるんです。

 “おじいちゃん先生”の言うことは、あまりに常識的なことばかりなので、ほとんどの患者さんは、診察の中でCBTが行われているとは気づいていません。いつだったか?「先生、認知行動療法というのがいいと聞いたんですけど、どこか紹介してくれませんか」と言われたので、<○○さんには、この10年間、この私が、認知行動療法をやっていましたよ>と返すと、「えっ?」と絶句した患者さんもいました。

 

 “おじいちゃん先生”の願いは、私の治療を受けたのがきっかけ(縁)で、日々日常において、無意識下で自動的にCBTが実践されることです。そうなることで、うつや不安障害の再発が予防され、薬を減らせたり、上手くいけば中止できたりもします。それに加えて、人生の悩み苦しみが少なくなれば、もっと素晴らしいことでしょう。