うちのクリニックには10年以上通院しているYさんとMさん。“風邪薬を飲みたがる”代表がYさん。“風邪薬を飲みたがらない”代表がMさんです。診断名はどちらも不安障害です。
Yさんとのある日の会話
「先生、また風邪をひいちゃいました。喉がおかしくて。でも、薬を飲んだら、1日で治りました。でも大事をとって何処にも出かけませんでした。」
<2週間前に来た時も、風邪をひいたと言ってましたね。>
「ええ、私は寒さに弱いので、ちょっと冷えるだけで風邪をひく体質なんです。今月は3回風邪をひきました。微熱があって、いつもより0.3℃も高かったんです。」
<医学的に言うと、風邪はウイルス感染症で、ウイルスのいない無人島や南極などにいたら、どんなに寒くても風邪をひくことはありません。Yさんは、一人暮らしで、人混みに行くこともないんだから、ウイルスをもらうこともないので、それは風邪ではないと思いますよ。寒さを感じたからといって、風邪をひいたとは限りません。>
「でも風邪は万病のもと。早いうちに治せというじゃないですか。」
<冷たい空気を吸うと、ちょっとした寒気や喉がイガイガすることもありますが、咳や鼻水が出たりしなければ、その程度の微熱くらいでは、風邪薬を飲まなくてもいいよ。>
「でも私が飲んでる風邪薬、よく効くんです。風邪のひきはじめ、罹ったかなと思ったらすぐに飲むようにしています。」
<インフルエンザ以外で、風邪のウイルスに効く薬は今のところないから、うがい手洗いをしっかりやって、のど飴でも舐めていれば、次の日には良くなっていると思うよ。>
「でもやっぱり、僕には風邪薬が必要なので、今日も出してください。出してくれないと困ります。今日はそのために来たんですから。」
<そうですか・・・でも治ったら続けて飲む必要はありませんよ。一回で効いたらそれでおしまいにしてくださいね。>
「わかりました。助かります。」
Yさんとは、以上のようなやり取りを10年以上繰り返しています。
不安障害の患者さんの場合、不安を誘発する何らかの刺激で、交感神経が優位になって微熱が生じ、それにともなって悪寒が生じることがあります。しかしながら、それは風邪ではありません。それなら不安や恐怖に対して、抗不安薬を投与すればいいじゃないか、ということになるのですが、ところがどっこい、抗不安薬よりも風邪薬の方がよく効くという現実があるんです。
人間の体は複雑にできています、理論通りにはいきません。<月に2~3回くらいなら、“風邪薬の抗不安作用”を頂くのもいいんぢゃないの>と思いつつ、Yさんに対する風邪薬の処方は今後も続くことでしょう。
一方、Mさんは、クスリ恐怖症の傾向があって、パニック障害に有効なSSRI(ジェイゾロフト)を飲んでもらうのに2年と3か月かかった。内科や整形外科などでもらった薬もすぐには飲まないで、飲む前に「この薬、私、飲んでもいいですか」と、お薬手帳を見せながら、いつも訊いてくる。
Mさんとのある日の会話
<風邪ですか。辛そうですね。鼻の下が真っ赤ですよ。風邪薬を出しましようか?>
「いいえけっこうです(笑い)。風邪を治す薬はないといいますし、不必要な薬は飲みたくないので。」
<確かに風邪を治す薬はないけれど、熱があると食欲は落ちるし、咳が出ると夜中に目が覚めるし。ちなみに、痛みや熱がある時に一番効く“睡眠薬”は、鎮痛解熱剤ですよ。しっかり寝て、しっかり食べた方が早く回復するよ。>
「ありがとうございます。やっぱり、いりません。もう治りかけてるし(笑い)。」
<そうですか。では、お大事に(笑い)。>
ちなみに“おじいちゃん先生”は、風邪をひいたら、必ず風邪薬を飲んで診察します。咳が出ると会話ができなくなるし、鼻水ズルズルなんてやってたら、「汚らしい爺さんだな」と思われるのがオチでしょうから。風邪薬はいろいろな使われ方があっていいんだと思います。ただし、風邪薬や鎮痛解熱剤の乱用になっている場合は、今日の話とは別の話になりますので、ご注意のほどを。
補足:今回の記事で“風邪薬”と言っているのは、総合感冒薬と呼ばれているもので、解熱剤、咳止め、鼻水止めなどのクスリをまとめて、一種類の錠剤や一袋の散剤の中に詰め込まれているものをいいます。風邪で病院を受診したときには、それらの効能別に3~4種類にして出されることが多い。なお、風邪のひき始めに使われる有名な漢方薬として、「葛根湯」があります。うちの患者さんでも、処方を希望される方が多い。これについてはまた別の機会にお話ししたいと思います。