長年通院している患者さんに、「私はカウンセリングを受けた方がよいんでしょうか?」と訊かれることがある。<それなら私はこれまで一体何をやっていたんでしょうか>と言い返したくなるのですが。<手動瞑想の効果か、私自身の怒りにパッと気づいて、サッと離れることはできます>。

 とあるカウンセリング機関のホームページを閲覧してみたら、「カウンセリングとは、主には言葉を用い、対話や会話をとおしてクライエント(患者さん)が困っている事や悩んでいる事を解決していく営みのことを指します。その困りごとの多くには、人間関係、家族関係、職場環境、心の病気、学校適応、社会適応、恋愛など・・・」と書かれていました。

 

T子さん 昭和13年生 通院歴9年半 診断名:死別反応(不安抑うつ状態)

 平成19年9月、「主人が亡くなって、こんなふうになった。当時は、声をかけられても、口を開けたまま何も答えられなかった」と。平成19年11月から「○○病院に通院したけど、自分では全く良くなったとは思えなかったので、テレビの“うつ病特集”というのをみて」Hクリニックを受診。「血を取って、頭に変なものを乗っけて検査して、1週間後に行ったら、前頭葉をみるとうつ病だからカウンセリングを受けなさい、と言われた。30分3千円で何回か受けたけど、普段きいていることしか言わない、一人暮らしだし、年金生活だから通えない。最近になって、友達の友達に『セカンドオピニオンを受けた方がいいよ』と言われて、ここを紹介してもらった」という。

 平成21年6月、当クリニック初診時、「なんか、朝起きると、何とも言えない嫌な気分。体が震えて固くなって緊張している感じ。人と話すと震えて、緊張するとなお震える(本態性振戦による)。だるくて、足がふらふらする。喉が渇いて、水をいっぱい飲むので、しょっちゅうトイレに行く」といった訴え。<・・・睡眠、食欲ともに問題なく、うつ病というより、死別反応に伴う不安状態>と診断。

 平成21年7月(1か月後)、「市役所から書類が来るとドキッとする。年中、頭に心配ごとがある。家事やってるときは、いろいろなこと忘れてできる。やりたくないということもない。最近はテレビを見るようになったし、死んだ夫のことも考えない。友人には、『朝からラジオ体操に行けるようなのは、うつ病ではない』と言われた」と。これを受けて、<あなたのうつ病は、もう治っています。今は、不安障害。これまで、何でもご主人にまかせっきりだったツケが来ているんです。日常のことでも何でもご主人が決断してくれていたんでしょう。・・・>と伝えた。

 

 その後の4年間は、定期的に月1回通院。診察では、1か月間にあった出来事を訊いて、それにたいして具体的な指示・助言をするということを続けた。おじいちゃん先生は、それがカウンセリングだと思っていたのですが。

 

 平成25年8月、「先生には、体調のこととか、いろんな話はするんだけど、出る薬はいつも同じなのよ」とボヤク。「薬だけでいいのよ」と言いつつ、食事のこと、ラジオ体操のこと、娘のこと、孫のこと、・・・など話し込んでいく。受付にて。

 平成26年2月、「娘には、治る病院に変わったら、と言われている」と。<うつ病はすでに治ってます。・・・今の生活スタイルを変えない限り、不安な気持ちは変わらない・・・もともとの性格を少しずつかえていかないと。それには時間をかけて・・・>と。

 平成26年10月、「かわりないんです。いいことがあった。友人と一緒に町内会のバス旅行に参加した。そしたら、普段の自分を忘れて、昔の自分に戻った・・・」と。<そういう生活のスタイルの変化が必要なんです>と。

 平成27年7月、「みんな明るくて羨ましい。今日は愚痴をこぼしに来た。ここに来て、雑談するのが楽しみでしょうがない」と。

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 平成29年8月、「先生とは雑談ばかりで、病気の話はしていない。薬をやめると悪くなるというけど、私には効いている気がしない」と。受付にて。

 平成30年2月、「先生に言われた通りに、高い健康食品は買ってない。自分の年を紙に書いてみたら、あらためてびっくりしちゃった」。右手の指3本、テープでぐるぐる巻き。漂白剤で風呂掃除をした時に荒れて、かゆくてかきむしった(以前にもあった)。今回は、皮膚科には行ってない。家事をするときは手袋をした方が、と使い捨て手袋をおすすめ。「なんか楽しいことないかしら」とボヤク。受付にて。

 平成30年4月、「薬飲んでても何も変わらないの。先生はヒマだからだって。私はすぐ落ち込む性格だから、悲しい事ばかり考えちゃう」とボヤクも、元気そう。受付にて。

 平成30年5月、「親戚の結婚式に出席したら、4時間も式があり疲れちゃった。そのためにパーマをかけたら、髪の色が明るくなってしまって・・・こんなの初めてだし、変だから恥ずかしい」というが、違和感なくお似合い。受付にて。

 平成30年6月、「消化器内科で大腸検査を受けた。下剤のせいか、体重が1㎏減った。ポリープが悪いのだったらどうしようと心配。体重が減ったのもなんかの病気じゃないかと心配。あさって、カラオケの発表会。娘と一緒に○○に一泊旅行に行く予定・・・」などなど、近況報告。すべてが心配のタネ。受付にて。

 平成30年7月、「毎年、実家に○○から焼酎のセットを贈っているが、今年○○に行ったら醬油とみりんのセットしかなかった、私の田舎では砂糖やみりんは使わないから・・・明日は△△に行ってみる」と。受付にて。

 平成30年8月、「今月80歳になった。そしたら、足がむくんで、指がしびれて、どこか悪いのかなんか気になっちゃって・・・お盆休み、ラジオ体操が5日間お休みで、家でテレビのラジオ体操やったけど、なんか違う。1日中誰とも話さなくなっちゃうから・・・」と。待合室では、同年代の患者さんを捕まえて、「先生クスリ変えてくれないのよ」というと、『外を歩かなきゃダメ!!元気出して!!』と激励された。受付にて。

 平成30年9月、「主人が乗っていた自転車に乗っていて2回転んだ。娘に言ったら、子供用の自転車を持ってきてくれたけど、パンクしてた。今は年だし乗らないでカート引いている。家の網戸や障子の張替えをシルバーに頼んだけど、高いのよ・・・今日もお薬だけで。先生は、いつも病気の話じゃなくて、世間話しかしないから」と。受付にて。

 

 最近は専ら、受付のMさんを(T子さんの生活状況を私よりも詳しく知っている)カウンセラーとして利用している。そんなこと、T子さんには思いもよらないことなんでしょう。

 精神科では、医師の診察を受けないで薬だけで済ますと、治療費が安くなるんです。おまけに、悩み事や困りごとを的確に解決してくれる、おじいちゃん先生以上のカウンセラーを、無料で使っているんです。T子さん、少しは分かってくれませんかね。

 

 街の小さなクリニックの“おじいちゃん先生”の役割は、便利屋みたいなものなんでしょうか。ある時は薬を処方する精神科医、ある時は心理療法家、ある時は風邪薬を処方する内科医、ある時はカウンセラー、ある時はご近所の、おじいちゃん・おばあちゃん代りなどなど、様々な役割を演じているようです。