精神科面接に限らず、医者が患者さんと交わす、治療とは全く関係のないような雑談が、何らかの治療効果を生み出すということがあります。医者がその効果を意図的に作り出している場合と、まったく偶然でそうなっている場合とがあると思います。その反対に、医者の言葉が患者さんに害を及ぼす場合は、医原病といいます。
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不安障害で通院中のT子さん、受験前の息子さんのことが気がかりで、「よく眠れない」という。12月○日来院時、T子さんと私の会話です。
「うちの息子はいつも勉強の計画ばかり立てているけど、それを実行できたためしがない。」
<それは見込みがありますね。計画を立てて、それが計画倒れになる経験は、英語や数学の勉強以上に、将来役に立ちますよ。息子さんは、計画倒れになったことを嘆いているんですか。>
「とんでもありません。性懲りもなく、本来の(受験のための)勉強をせずに、新しい計画表を書いては、机の前に貼ってます。そんな暇があったら、数学の問題を1題でも多く解けばいいと思うんです。」
<計画を立てるということは、将来どんな仕事に就こうとも、仕事の見通しを立て段取りをする上では、とても重要な能力なんです。受験のための英語や数学なんて、目先の受験には役に立つけれど、将来いい仕事をするのに役にたつとはかぎりませんよ。>
「でも、目の前のことに集中しなさい、て言うじゃないですか。」
<確かに、目の前のことに集中することは大切なことです。しかし、計画倒れになったことを反省することも大切なんです。計画倒れになっても、それを後悔するのではなく、反省して次に生かすという頭の使い方は、若い頃から鍛えておくのがいいんです。息子さんはそれを鍛えているのかもしれませんよ。>
「そんな悠長なこと言っている場合じゃないんです。センター試験までもう2か月もないのに、計画なんか立てたってもう遅いですよ。私には理解できません。」
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おじいちゃん先生とT子さんの会話は、その後も相容れることなく続いたのですが、診察が終わった後に受付で、「いろいろと話できたので、すっきりしました」といって、T子さんは帰っていった。
おじいちゃん先生は、30年後のT子さんと息子さんに会って、この日のやり取りの感想を訊いてみたいと思うのですが、そんな願いは叶うはずもありません。