“社交不安障害”とは、「自分が他人にどう思われているかについて、過剰に気にするため不安になり、他人との交流や人前での行為などの不安が生じそうな状況を回避してしまい、日常生活に支障が出ている状態」といわれています。

 

 このブログの中で私は、“社交不安障害”という用語と、“対人恐怖症”という用語とをチャンポンで使ってきましたが、「いったいどこがどう違うんだ」と思われた方が多いと思います。わかりやすく言うと、“社交不安障害”という病名はアメリカ製(DSM-5という米国精神医学会の診断基準の中にある)、“対人恐怖症”という病名は日本製(日本の伝統的病名)といえるのではないかと思います(なお判りにくくなったかな?)。

 

 おじいちゃん先生が医者になったころは、“社交不安障害”という用語はなく、もっぱら“対人恐怖症”という用語が用いられていて、それに基づいて診断と治療が行われていました。

 しかし今日では、欧米の診断分類の影響で、対人恐怖症という用語は医学上の正式病名からは外されていて、対人恐怖症は不安障害の一種である“社交不安障害”に含まれることになっています(DSM-5)。“対人恐怖症”という病名が、いつの間にか、“社会恐怖”になり、“社会不安障害”になり、“社交不安障害”(社交恐怖症)になっていくのを見ていて、おじいちゃん先生はとても寂しい思いをしていました。

 ところが最近になって、日本においては“対人恐怖症”として、半世紀以上前から研究され理解されてきたその内容が、しだいに注目されるようになってきていているんです。対人恐怖症の研究においては、日本が先進国といえます。かつては、日本文化特有の病気であって、欧米ではそんな病気は存在しないとまで言われた時代がありました。しかし、欧米でも研究が進んで、欧米でも日本と同じくらいの発病率があるということがわかってきました。さらに、この病気はうつ病をはじめとするその他の病気(双極性障害、パニック障害、強迫性障害、統合失調症など)との併存率が極めて高いこともわかってきて、早い段階でその存在に気づいて治療的対応を行うことは、うつ病やその他の病気の予防や治りを良くするために重要であると考えられるようになっています。

 

 日本においては、「対人恐怖症全体を一つの症候群(いくつかの病気の集まり)としてとらえたうえで亜型に分類するのが合理的である」という考え方の伝統があって、私もそれに従ってこれまで治療にあたってきました。何しろ実際に治療を行う上では、“社交不安障害”と診断してもうまく方針が立てられないけれど、伝統に従って「“対人恐怖症候群”とした上で亜型分類する」ことによって、薬物療法や精神療法においての治療の道筋が見えやすいからなんです。その理由は、“社交不安障害”に比べて“対人恐怖症”という概念の方が、内容が豊かで質が高く、人間的な深みがあるからなんです。それゆえに、一般の方が教養として社交不安障害に関する本を読んだばあいは、単なる病気の一つとして理解するだけで終わってしまうのにたいして、“対人恐怖症”に関する本を読むと、人間理解の幅が広がるのではないかと思います。

 

 次回からは、私が実際に行っている、対人恐怖症(社交不安障害)の診断と治療の内容を紹介したいと思います。