社交不安障害では、対人場面において過剰な不安や緊張が誘発されて、動悸・震え・吐き気・赤面・発汗などの身体症状が出現します。そのため、「二度とそんな怖くて苦しい思いはしたくない。人には知られたくない」という思いから、対人場面を避けるようになります。さらに、視線恐怖や被害関係念慮が加わると、対人関係がうまく築けず、集団の中で孤立してしまったりして、日常生活に大きな支障が出てきてしまいます。

 

 社交不安障害の患者さんが強い不安や恐怖を感じる場面としては、「見知らぬ人や、少し顔見知りの人との会話」、「人前での発言やスピーチ」、「権威がある人(社会的立場が上の人)との面談・会話」、「電話を受ける」、「受付で手続きをする」、「人前で文字を書く」、「人前でご飯を食べる(外食)」「会食やパーティーに参加する」、などがあります。そのような患者さんに私が日頃行っているアドバイスを、思いつくままに幾つか紹介したいと思います。

 

①    上手く相槌を打ち、聞き上手になる

 一対一であろうと、数人の雑談の場であろうと、自分から話題を提供する必要はなく、訊かれた質問にだけは答えて、あとは「そうですね」などと上手く相槌が打てれば、何も問題なくその場にいられます。

 

②    沈黙に耐えられるようになる(こっちが近道)

 社交不安障害の人は、沈黙が人一倍苦手です。それゆえに、雑談が苦手であるにもかかわらず、何かの話題を提供しようとして、ますます緊張が高まります。会話中に沈黙が訪れても、自分から話題を提供しようなんで思わないことです。沈黙に耐えられなくなって、思いもよらないことを言ってしまい、後になって後悔するということは、よくある話です。うちの患者さんで、「沈黙に耐えられなくなって、PTAの役員を自分から引き受けてしまった」という方もいます。

 

③    自己紹介(その他のスピーチ)などは、簡潔に短く切り上げる

 初対面同士の集まりなどの自己紹介では、短く簡潔に、「○○と申します。今後ともよろしくお願いいたします」だけでも十分です(私はそうしています)。話の長い人は、周りからうんざりされます。短い自己紹介の方が、むしろ喜ばれます。ちなみに、“おじいちゃん先生”がスピーチを頼まれたときは(過去に何度か経験あり)、電報文とまではいかないまでも、いかに簡潔に短くまとめるかを工夫します。

 

④    話し上手を目指さない(羨ましがらない)

 相手によって社交パターンを変えようなんて決して思わないことです。世の中には、まれに、それができる社交の達人のような人がいますが、それはその人の才能であって、ないものねだりはしないことです。

 

⑤    相手の目を見て話す必要などない

 『相手の目を見て話しなさい』とは、就労面接指導などではよく言われますが、西洋流で日本人の多くには馴染みません。相手の肩のあたりを時々ちらっと見るぐらいをお勧めします。私も診察中はそれを実践しています。

 

⑥    相手の気持ちを考えすぎない

 <人は、あなたのことなんか、そんなに見ちゃいません。ほとんどの人は自分のことに関心があるだけです。あなたの心臓のドキドキも、手のひらの汗も、他人からはみえません。自分が感じているだけです>と。

 

⑦    いいところを見せようとしない(見栄を張らない)

 社交不安障害の患者さんの多くは、大きな勘違いをしています。人前でスラスラ会話できたり、適切なアドバイスをくれる人をうらやましく思い、自分もそうならなければいけない、という勘違いです。しかし、<人が望んでいるのは、話をよく聞いてくれる人です。一緒に考えてくれる人です。アドバイスが即座にポンポン返ってくる人がいれば、それは、自分だけの経験や自分の思い込み(無智)を軽薄にひけらかす人たちです>と。

 

⑧    誰にでも好かれようとしない

 ほんとうに嫌われるのは、おしゃべりで、自分のことばかり言う人です。ほとんどの人は、他人の話を聴くより、自分の話を聴いてもらいたいと思っています。だから、聞き上手の人ほど好かれます。

 

 以上、いくつか思いつくことを上げてみました。①~⑧は、どれもこれも皆重なり合っていますが、これらを自分の社交パターンとして、“怖くても勇気をもって実践”することが大切です。始めは不自然でぎこちないと感じようとも、やっているうちに自分のパターンとして定着し、それが自然体になります。

 例えば、私が初診の患者さんを診察する場合(飲み会やパーティーの席、葬式や結婚式においても)、青年から老人に至るまで(性別も関係なく、堅気であろうとヤクザであろうと?)、全く同じレベルの敬語で対処します。相手に不快な印象を与えないと同時に、私自身の対人緊張を和らげるためでもあります。サラリーマンであれば、上司や後輩に対して、同レベルの敬語で対処することです。同僚や後輩に対して、下手にくだけると横柄な態度になってしまいます。社交不安障害の人の中には、相手によって対応の仕方(言葉づかいや態度)を変えようとした結果、ますます緊張して、横柄な態度をとったり、過剰にへりくだりすぎたりする方を時々見かけます。それなら、自分のワンパターンの敬語で通すことの方がよほどうまくいきます。敬語を使われて不快な感情を抱く人はいません。

 

 私のクリニックでは(一般的にも)、社交不安障害だけの患者さんは少なく、ほかの障害(パニック障害、強迫性障害、恐怖症、うつ病、双極性障害、統合失調症など)と併存している人がほとんどです。また、社交不安障害の傾向は誰にでもあることなので、私のアドバイスのような視点をもって対人関係を考えてみると、自分の社交パターンをより客観視することができますし、人によっては社交上手になる可能性もあると思います。