T子さんは、一日3回、一回30分の手動瞑想が習慣化していて、すでに生活の一部となっています。その他にも、心が落ち着かない時には15分間くらいやることもあるといいます。私のクリニックで、“手動瞑想認知療法”を実践している患者さんのトップランナーです。彼女の手動瞑想の上達過程やその成果を聴かせてもらうことが、私の勉強になっています。さらに、彼女の経験をほかの患者さんにも伝えるので、間接的には彼女がほかの患者さんの治療に関わってくれていることにもなります。彼女が手動瞑想によって得ている成果(気づき)は、私が精神科治療として期待している以上のものです。できれば、過去ログ:性格変化のスピードアップが今起こっているのかをもう一度読んでもらうと、T子さんの瞑想の上達過程がよくわかると思います。

 

 平成30年9月○日、最近の“気づき”をいくつか披露してくれた。

 

彼女は昨年に続いて、今年の猛暑をクーラーなしで過ごすことになったが、

 「主人が片付けに協力してくれなかったので、今年もクーラーの修理ができなかった。でもすごい辛いということもなかった。暑い中で瞑想をやっていると、体温が下がるような気がした。でも、温度計を見たら同じで変わっていなかった・・・」「クーラーがないのも悪いことばかりではない。主人は、熱中症になると困るからといって、お酒を馬鹿飲みしなかったし、台風の時は虫も泣かないということがわかったり・・・」と。

 

毎年夏、楽しみにしているコンサートにおいて、

 「○○○のコンサートで、前は、生きていてよかったと思うくらいに、感動がずっと続いた。今年も感動はしたけれど、2~3日で終わってしまった・・・」と。<以前は感動に執着していたのでは?>と訊くと、「そうかもしれません。日頃楽しいことがないので、去年まではその感動にずっと浸っていたかったのかもしれません・・・」と。

 

強迫傾向の面では、

 「使わないものまで買う必要はないと思った。歯磨き粉は常に3個ストックがないとダメだったのが、なくても代わりになるものがあるし、まあいいやと・・・」と。

 

その他にも、

 「以前はこの時期(終戦記念日)になると、戦争の番組が嫌で見られなかった。今年は、拒絶反応が無くなり、見れるようになった。私が何も知らないからで、それは自分の勝手で、ちゃんと見て自分で判断しなければいけないと思った・・・」と。

「仕事に行こうかと思って応募したけど、老人デイケアとか、訪問介護とかで、私が望むクリニックの外来はなかった。この年になるとそういうものかと思った。・・・」「以前の私は、仕事がしたいのではなく、日常のことを悩まないで済むので、楽だから仕事をしてた。周りの人は仕事しないで楽だね、というけれど、私は人の役に立つようなことをやってる方が楽だと思う・・・」と。

 

抗不安薬の使用においては、

 以前は、「本当に不安な時はソラナックス(0.4)0.5錠を飲んでた」と言ってた彼女が、「心が落ち着かない時に手動瞑想をやると、5分から10分くらいで落ち着いてくるので、ソラナックスは使っていない」と。これは私が、手動瞑想を治療に導入した当初に期待した、<瞑想が頓服薬の代わりになってくれないか>という効果です。ただし、注意が必要なのは、彼女の場合は、瞑想訓練を相当に積んだうえの“頓服替わり”であって、瞑想初心者がやり始めの頃に瞑想の効果だと誤解する、気そらしの効果や、プラセボ効果とは違う。これに関する詳しい説明は、過去ログ:手動瞑想は回避手段にあらずを参照してください。

 

 T子さんの内省力の向上(気づき)には毎回驚かされます。彼女の思考は、以前のような“心配や後悔”といった自分を苦しめるような方向にではなく、外的状況を客観的に受け止め、具体的な対処法を自分で見つけ出すという、正しい方向に向かっています。その結果として、彼女のおかれている状況は何も変わっていないにもかかわらず、不安抑うつ状態に陥ることがなくなっているのです。