うつ病、不安障害、統合失調症などの精神科の病気を、本人や家族のみならず、周囲の人たちが生物学的に理解することは、それぞれの偏見(勝手な思い込み、無智、誤解、病気の負い目・・・)を修正するのに大いに役に立ちます。また、精神科医にとっても、精神衛生上とてもいいんです。
患者さんがよく言うセリフに、「私の気が小さいせいでこうなったのでしょうか」「夫と喧嘩ばっかりしているからでしょうか」「仕事が忙しすぎるからでしょうか」「親の育て方が悪かったからでしょうか」「主人は、お前が病気を治そうとしないで、薬にばかり頼るから治らないんだといいます」「友人には、私が人に気を使いすぎるからだといわれる」「仕事をやめないと治りませんか」・・・、といったものがあります。病気の原因を何でもかんでも環境や性格のせいにしてしまう、といった偏った見方です。そのような見方は、患者さんの悩み苦しみをさらに深めます。
病気の原因について、治療の初期においては生物学的な説明が中心になります。パニック障害の患者さんを例にとると、初診時は、<パニック障害というのは、脳の中の扁桃体というところが過敏になっていて、・・・>、ぐらいの簡単な説明で終えますが、その後の診療ではさらに詳しく説明します。最近の脳科学の進歩はそれを実証してくれています。
<パニック障害では(その他の恐怖症でも)、不安や恐怖を感じる中枢の扁桃体(ココ)が、過敏になっているんです。また、以前に自分が経験した怖い出来事の、状況の記憶が海馬(ココ)に残ってて、実際に危険が迫ってないのに、「危険だから逃げたほうがいいよ」という命令が出てしまうと、扁桃体(ココ)が興奮して、恐怖や不安を感じてしまうんです。それに対して、「以前と違って、今の状況は危険じゃない。頭でそう思っているだけで大丈夫」というような客観的な状況判断ができて、扁桃体の興奮を抑えてくれる、前頭前野(ココ)の働きが、パニック障害の患者さんは弱いともいわれています。もっとも、危険に対処するための回路は生きていくためには必要で、なかったら生きていけないものなんですがね。とにかく扁桃体(ココ)と、前頭前野(ココ)は覚えておいてくださいね>といった説明です。
このような説明をすると、大いに喜んでくれて、「なんだか気持ちが楽になりました」といってくれる患者さんもいれば、キョトンとして、「このおじいちゃん先生、わけのわからんこと言ってるわ」と心で思っている患者さんもいる?どちらにしろ、パニック障害に対する感情的な見方を、生物学的(理性的)な見方に置き換えることは、治療にあたっても有力な手段になります(認知療法ではこれを“レッテル貼り”といいます)。
さらに、<私が出している抗うつ薬は、扁桃体(ココ)に直接作用して、興奮を鎮めてくれています。(手動瞑想の動作をしながら)こっちの方は、前頭前野(ココ)の働きを強化してくれます。間接的な作用なので、薬のように即効性はありませんが、習慣化して忍耐強く続けることができれば、その効果は証明されています>といった説明にもつながっていきます。
パニック障害に限らず、精神の病気を生物学的に理解することは、患者さんにとっても、精神科医にとっても、感情に振り回されず冷静に治療を進めることができるので、精神衛生上とてもいいんです。うつ病や統合失調症の生物学的な理解については、またの機会に紹介したいと思います。
DLPFC(背外側前頭前野)が扁桃体の興奮を鎮めてくれるといわれている。