(前回ブログのつづきです)
私のクリニックに現在通院中の双極性障害の患者さんのうち、双極Ⅰ型と双極Ⅱ型の割合は半々くらいだと思う。双極Ⅰ型の患者さんで、手動瞑想をやっている患者さんは一人もいない。Ⅰ型の患者さんは入院歴がある方が多いが、薬物療法がぴったりとはまれば安定し、精神療法の必要はほとんどない(もちろんそうはいかない人もいる)。長年にわたって、処方内容が変わらず、薬だけ取りに来る人もいる。一方、Ⅱ型の患者さんは、社交不安障害を併存しているケースが多く、手動瞑想をやってもらっているケースがほとんどである。
最近の研究では
双極性障害(とりわけⅡ型)と不安障害(パニック障害・社交不安障害など)の併存診断率は極めて高く(50%以上とも言われている)。併存例の特徴として、
◎若年発症が多い
◎うつ病エピソードの回数が多い
◎うつ病エピソードが重症
◎希死念慮や自殺企図が多い
◎薬物療法などに対する反応が悪い(回復しにくく、寛解が少ない)
◎役割機能と生活の質が低い
などが指摘されています。それゆえに、併存例では薬物療法のみならず、精神療法の比重も大きくなる。
前回のブログで紹介した、S子さんのケースは、双極Ⅱ型と社交不安障害、パニック障害、さらには、解離性障害、PTSDなども併存していました。
平成29年2月、S子さんに手動瞑想を導入。彼女はこの一年間、1日15分~1時間の手動瞑想を欠かさなかった。音楽を聴きながら、寝転びながら、静座してなど、型にとらわれないでやってきた。しかし彼女には、未だに小さな気分変動の波がある。瞑想時間にばらつきがあるのは、躁傾向にある時は瞑想できる時間が長く、うつ傾向にある時は瞑想できる時間が短いからである。瞑想をやるにはパワーが必要なので、当たり前といえば、当たり前である。また、安定~軽躁傾向(完全な躁状態では気づきはない、気づけないが)にある時の方が気づきが多く、うつ傾向にある時は気づきが少ない。これも当たり前である。
S子さんが面接中に語ったいくつかの発言を拾って、手動瞑想の成果を考えてみた。
「友人に久しぶりで会った。会う前日までは緊張したけれど、自分が思っていることが現実でない、と言い聞かせていたので、思ったほど緊張しなかった。人に会った後の反省会(あんなこと言わなくてよかったとか)も、それほどやらなかったし、疲れも小さかった」「台風の雨漏りで、大家さんに電話した時、どうしよう、どうしよう、というのはなかった。直前だけは血の気が引いたけど」「短大の時の奨学金の返還猶予の電話をかけた時は、かける前の不安はあったけど、その時だけで済んだ。前は、何日も前からあって大変だった」。「自分の考えていることがわかるようになった」。
私としては、<手動瞑想の社交不安障害に対する改善効果が出ているぞ!>と、言いたいところですが(社交不安障害だけの患者さんだったらそう思う)、双極性障害の患者さんの場合は、軽躁状態になると、社交不安障害の症状は後退して、むしろ社交的になる。S子さんも、明らかな躁状態を呈したとき、「この2か月間、様子がおかしい。むちゃくちゃ活動的になって、あれもしたい、これもしたいと意欲が出てきた。買い物して、食べたくて、いろんな人とツイッターやSNSがしたくて、自分から連絡したり・・・」と言っていた。
彼女の社交不安障害の症状が改善したのは、手動瞑想の効果によってというよりも、双極Ⅱ型と診断が変更され、薬物療法の内容が変わり、遷延化していたうつ状態が改善したことによるところが大きかったのではないか思う。
それでは、彼女が手動瞑想によって得た最も大きな成果は何だったか、と考えてみると、それは「自分の考えていることがわかるようになった」「・・・自分が思っていることが現実ではない・・・」という言葉にあらわれていると思う。彼女は、手動瞑想をやったことで、自分の躁とうつの状態をモニターしながら、自分の思考を客観視する、という力をつけたのではないか。そのことが、「実家に戻ります」という判断(前回ブログ)にもつながったのではないかと思う。
双極性障害の患者さんへのアドバイスに、<躁状態の時には、できるだけ静かな刺激のない環境に身を置き、いろいろな予定を入れないように。また、うつ状態の時には、やれば気分が晴れるとわかっていることは無理をしてでもあえてやるように*(行動活性化療法)*>というのがある。そして、これらを実行に移すには、S子さんが今回得たような、自分の思考を客観視する力が必要不可欠である。