「統合失調症ってどんな病気ですか」と、一般の人にきかれることがよくある。そのたびごとに<ウーン、難しい質問ですね>と頭を抱えてしまう。

 私が精神科医になった始めの12年間は、統合失調症 (当時は、精神分裂症といった)しか診ていなかった、と言っていいくらいの日々を送っていた。私が勤務していた公立の精神病院には、統合失調症の入院患者が800人近くいた。精神保健センターに勤務していたときは、臨床からしばらく離れることになったが、あっちこっちで、“精神分裂症とはどんな病気か”を講義する機会が頻繁にあった。当時は<自分は統合失調症の治療やリハビリテーションを専門とする精神科医だ>と思っていた。ところが、今になって頭を抱えてしまうとは、どうしたことか?うつ病や不安障害については、頭を抱えることはほとんどないのに・・・。

 実をいうと、統合失調症という病気は“いくつかの異なった病気のあつまり”と考えられていて、何十年もしたら、そんな病気は無くなりました、と言われているかもしれない。百人百様、あまりにもバリエイションありすぎて、話し出したら百人分くらいの説明をしてもまだ足りないくらい。だから、一般の人に分かるように、統合失調症の説明をすることは、とても難しい作業なのです。分かってもらうことはできない、と言ってもよいかもしれません。「幻聴と被害妄想があって、わけのわからないことを言うのが、統合失調症患者だ」というような理解をしている人は多い。そんな知識なら、何もないほうがよほどましである。幻聴と被害妄想があっても、統合失調症ではなく、幻聴と被害妄想がなくても、統合失調症である。というケースは多々ある。

 統合失調症の患者さん自身からも同じ質問をされるが、これも同様に頭を抱えてしまう。<あなたがいつも○○○○○○・・・・・と言っているのが、統合失調症の症状にあたるものですよ>と、本人が過去に語った言葉を使って説明したところで、全く理解はしてもらえない(うつ病や不安障害の人には、これが一番分ってもらえる説明なのですが)。これを精神科医は、“病識がない”と言います。病識がないというのは、第三者が観るように、自分の症状を客観的に観ることができない、ということです。病状が改善してくると、病識が出てくるとも言われますが、決して客観的なものではありません。本当の意味での病識があったら、それはすでに、統合失調症ではないと言えます。“いくつかの異なった病気のあつまり”であるといわれる、統合失調症の唯一の共通項は何かと言われれば、“病識がない”ということかもしれません。ちなみに、私が、統合失調症を発症したとしても、病識をもつことはできません。うつ病や不安障害に罹ったら、自分で治療するつもりですが、統合失調症に罹ったら、誰かに主治医になってもらうしかありません。でも、私は病気ではないと主張し、治療を拒否するに違いありません。