angsyally1112のブログ

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人生残り少ない暗愚舎利の日々の思いを綴ってゆきます。



ショスタコーヴィチ

:弦楽四重奏曲第9番 変ホ長調 
作品117

ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲全曲に再度挑戦して、とうとう最後の第9番です。
当初第1番から第9番迄は結構解っていたつもりで、第10番から始めたのでした。
しかし、どの曲を聴いても私の理解の浅さに気付かされた日々でした。

特に有名な第7盤、第8番、第9番の3曲は、イメージが大きく変わりました。
この第9番、
高速アルペジオ、琵琶のような強烈なピツィカート、そして短いモノローグのようなレシタティーボ、それらが不安なトレモロやドローンと共にこの曲の主役となっています。



ダネル四重奏団

録音:2001年

かつての私にとっての第9番と言えば、最終第5楽章、その1分30秒辺り、シンコペーションのリズムに乗った民謡風のメロディです。
ショスタコーヴィチ全弦楽四重奏曲の中で最も好きなメロディです。
その箇所では、特にダネル四重奏団の演奏が一番好みです。この『奴さん』風見得の間合いが誠に気持ち良いのです。
角々が尖ったサウンド、完璧な間合いとテンポ等理想的なサウンドです。
しかし、この箇所だけではこの曲の全体像は掴めません。
ダネル四重奏団では、もやっとしていたこの曲の全体像は、今回本当はとてもアグレッシブな曲だと解りました。



ボロディン四重奏団

録音:1981年
この団体の演奏には、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲の持つ悲劇性をいつも感じます。
この演奏も、この曲の背後に暗い闇と悲痛な嘆きの世界が広がっています。特に第2楽章にはとても深い悲しみと癒しドラマが感じられます。
でも、音楽はもっと立体的なものだと思います。
悲しみの背後には、喜劇もある。
苦しみの中にもユーモアが必要、
そして絶望の彼方に希望はきっとある、
音楽を聴く喜びとは、そのような人間性を取り戻す事、
そのような思いに至る時、ボロディン四重奏団のこの曲は少し重く感じられます。
第8番迄の曲と違い、この曲にボロディン四重奏団の具象的な解釈は少し無理があるのではと恐れながらも感じるのです。
しかし、この演奏は全ての箇所が模範的でこの曲を理解する教科書のようです。第3楽章の高速アルペジオ等キレッキレのサウンドです。



バイロン四重奏団
録音:2010年10月

この曲は前作第8番と同じように切れ目のない5つの楽章ですが、その表現している内容は随分違っているようです。
前作の明快さと違って解りにくいのは、自身の内面に深く切り込んでいるからでしょう。
1964年当時のショスタコーヴィチは、今や全世界に轟く国民的大作曲家です。スターリンはもういません。挙げたこぶしの行き先は消えてしまいました。
しかし、彼の表現意欲は決して衰えません。病的な迄の心の渇きは、自らの内面へとその矛先を変えて行きます。
作曲する事によってのみ癒される心の傷、飢えた心の渇き、これは悲しい迄の永年に渡る心の習性です。
まるで気まぐれな思いつきで綴られたようなこの5つの楽章は、謙虚に耳を傾ければ、誠に精緻に組み上げられたパズルのようで、聴き込めば聴き込む程にその素晴らしさが心に染み込んで来ます。
第8番のように文学的な解釈はあまり通用しません。ストレートな怒りもピュアな祈りもありません。あるのは空間に投げ入れられた音そのものの深い情念です。
その表現意欲にのめり込む時にこの曲の魅力に触れる事ができるようです。
そして、この方向こそ弦楽四重奏曲本来の姿だと思います。
ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は、この曲から大きく変わって行くようです。
多くの第9番を聴き続けてこの演奏にたどり着きました。
未整理のような粗々しさがこの演奏の魅力です。まるで即興演奏のような情念のほとばしりがあちこちに出現します。
最初に書いたように
高速アルペジオ、琵琶のような強烈なピツィカート、そして短いモノローグのようなレシタティーボ、それらが不安なトレモロやドローンと共にこの曲の主役となっているのが良く解る演奏です。
特に第3、第5楽章のガリガリとした高速アルペジオは圧倒的です。



アルティウス四重奏団

録音:2016年

このアルティウス四重奏団の演奏は、結構アグレッシブで、節々の激しい情念のほとばしりに新鮮な感動を覚えます。多分、低音域の迫力が凄いからと思われます。
又、最終楽章半ば過ぎのレシタティーボの後のピツィカートの迫力は、随一です。
但し、第3楽章は不満です。



ソフィア四重奏団

録音:1991年

超スローの第2楽章(6分12秒)、そのパステルカラーの景色は、何とも荘厳な魅力に満ちています。
そして生き物のように疾走する第3楽章、この演奏で第3楽章の魅力を体験しました。



ソレル四重奏団

録音:1999年

ソフィア四重奏団同様にスローな第2楽章、ボロディン四重奏団以上にドラマを感じさせます。
第3楽章も結構迫力があります。



ゴルトムント四重奏団

録音:2017年

今回聴き漁った演奏の中で、バイロン四重奏団と並んで特に感銘を受けた盤です。
第3楽章展開部が弾けるように爆発して登場する箇所が明瞭に描かれています。
全体的にバイロン四重奏団に比べるとすっきり整理された見通しの良い演奏で、そこが良くも悪くも大きな特長です。

この演奏に出会えなければバイロン四重奏団の魅力も解らなかったと思えるので、私にとっては貴重な名盤です。


《参照》