速水綾
津川輝
藤谷亜衣
重田優斗
水瀬寿々
池中拓
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もっと早く君を好きになっていたらと、後悔することがたくさんある。
もっと早く君を好きになっていたら、今まで以上に仲が良かったかもしれないのに。
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中学二年生、二学期。
一年で、一番長いこの学期。
始業式は、それはそれは憂鬱だった。
これから体育祭の練習や、委員会や、部活がまたあるんだと思うと、夏休みが恋しかった。
毎日パソコンをして、一人でやりたい放題、遊び放題。
あの時に戻りたい。
このころはそう思っていた。
完璧な非リア充で中学二年生の、速水綾は。
綾は、ネットが大好きで、漫画の男の子や二次元が大好きなほど、非リア充だった。
それもそのはず、周りの男子は馬鹿ばかり。
いい男子なんて、一人もいないのだから。
そして、綾の周りには、仲のいい子がふたりいた。
藤谷亜衣、水瀬寿々。
この三人は、二年生になってからとても仲良くなった。
亜衣とはもともと仲が良かったのだが、寿々は綾と仲良くなったのをきっかけに、亜衣とも仲良くなった。
むろん、この二人も非リア充・・・といえば非リア充だったが、綾ほどではない。
しかし、綾もこの二人の親友に恵まれ、嫌いだった学校がだんだん好きになってきていた。
・・・・でも、この二人以上に、学校を楽しいと思わせてくれる人間がいたことを、綾はまだ知らなかった。
それが、大嫌いな男子だということも。
***
「・・・・ねぇ、綾・・・」
「ん~?」
「あんたさ・・・今変なこと考えてなかった?」
「えええ?・・・・まぁ・・・ん!?変なことじゃないよ!!」
「うっそだぁ!顔がにやけてたよ~?綾!!」
「ふたりには分かんないよ、あの漫画の良さが・・・!!」
「まぁぁったその話!?もう、始業式までこれだよ亜衣!」
「寿々、何とかできないの~!?ほらさ、お得意の暴力でたたき直すとかいったぁっ!!」
「お前をたたき直してつぶしてやるよ」
「ごめんなさいっと!はぁ、出席簿とかつけるのめんどくさ――――ってこれ副部長の仕事じゃん!!」
「おい!!綾!!!!!!・・・・・・・・・・・・・ふーくーぶーちょう!!!!!!!!」
亜衣が、ぷりぷりと怒って出席簿を差し出してきた。
・・・あ、そっか・・・私、来年の副部長なんだ。
・・・実感わいてない・・・
「・・・・・・・・・はい!?あ、出席簿?ああごめんごめん・・・」
「もう、綾ってば・・・・今日、体育祭のマーチング曲が退場だからね!」
「・・・・・・」
「綾!!!!!!!!!!!!」
「はっはい!?ああわかりましたわかりました・・・」
こんなふうに、綾は「漫画の男の子」のことを考えては、空想に明け暮れた、変態気味の女子になっていたのである。
***
「明日から運動会の練習かあああああ・・・・」
「ま、組体操はいいとしてさ・・・・騎馬戦とか競走とかレク走とかああああにっくたらしい!!!!」
「憎たらしいって言うか・・・レク走は確かにねぇ、あれただの運だしねぇ」
「んー、競走で周り全部陸上だよあたし?それよりはいいじゃん寿々」
「亜衣は陸上並みに速いからいいんだよ!!それに、綾も」
「んー?あたしは普通じゃない?体力テスト平均ぴったしだし」
「あたしは平均以下なんですよっ!!!!」
「ああもう亜衣・・・寿々の機嫌悪くなっちゃったじゃん」
「しょうがないよ、リアルでもこうらしいから・・・」
「・・・・うるさいなぁ!」
「・・・・・ん?」
「前方から男子の集団・・・あ、自転車か・・・」
「え、誰!?」
「・・・・・ん、輝と・・・・その他取り巻き」
・・・・・・輝ってなんであんなに人気あるのかなぁ。
そこまで嫌いでもないけど、決して感じのいいやつ、ってわけでもないんだよね。
「・・・・・・・どうする?避ける?いじられる?どっち」
「いや、いじられんのはどうせ亜衣だけだろうし・・・」
「へ!?ひどいなあ!・・・・・・・ってもう20メートルもないよ?」
「・・・・よし、素通り」
「・・・うん、・・・・って何!?なんであたしを寄せるの!?ちょっと寿々!!!」
「寿々・・・危ないってあああああああっ!?!?!」
亜衣を道の真ん中に寄せようとしていた寿々を止めようとしたその時、輝とその他一群は私たちの目の前に迫っていた。
ブレーキ掛けようよ!!!
「・・・・・・・きゃあああああっ!?!?!?!」
前にいた寿々と亜衣が後ろに倒れてきて、(後ろ以外倒れる場所はないが)
私もそれに押されてうしろに崩れた。
「・・・・・・ひゃぁっ!?!」
背骨と腰に激痛が走る。
倒れた時に、無意識に後頭部をかばって、背中を丸めたまま倒れてしまったらしい。
「・・・・・・・・・・・・いってて・・・・っ・・・・・・・・・・亜衣、だいじょう・・・・・!?!?!?」
驚いていきなり起きてしまった。
亜衣はというと、・・・おそるべき反射神経だが、無傷だったのだ。
亜衣はとっさに横に飛びでたらしく、その代わりに寿々と私が衝突を受けるはめになったのだ。
「・・・・亜衣・・・・あのさ・・・あんたさ・・・・」
「・・・・寿々、大丈夫なの?」
亜衣は、傍観しているくせに上から目線で言う。
「もう!!心配してんだったら手伝っ・・・・て・・・・・・・・・・・寿々!?」
・・・・え!?
「・・・・え、水瀬死んだ!?」
輝がさも面白そうに自転車を降りた。
「もう、なんでブレーキ掛けなかったの!?」
「いや、藤谷にぶつかると思ったら面白くてね」
・・・・・相変わらずのドSっぷり。津川輝!
「・・・寿々?寿々!!ちょっと寿々!?」
「死んでたら息してねーんじゃねーか?」
「・・あ、そうだね・・・息はしてるや・・・・・・・気絶?かな?」
「・・・水瀬が気絶とは・・・・写メっとくか」
「ちょ、やめときなよ!殺され・・・・・・・・・・・って寿々!?!?!」
「・・・・何カメラ向けてんだよ・・・・ひき逃げが」
「いや逃げてないし」
「何カメラ向けてんだって言ってんだよ」
「お前の気絶してる気ぃ抜けた顔をね」
「・・・・・・・・・・・携帯壊すよ?」
「壊せば?そのかわりお前殺すけど」
・・・・この喧嘩で、寿々が輝に勝つのは不可能だろう。
大きな声で言いたくないが、実際、ふたりの身長差は15センチ以上ある。
まぁ、160センチある私より、だいぶ背の高い輝なんだから、相当背は高いはずだ。
「・・・・・寿々、落ち着いて・・・・!!」
「黙ってろこの変態」
「は!?変態!?誰のこと言ってんの!?」
寿々はそれに対しては完全にノーコメントという態度をとり、変わらず輝を睨み続けていた。
このにらみ合い、いつまで続くんだろう。
輝は完全に・・・・
これはS心で面白がってるのか、本心で意地を張っているのか。
・・・・どっちにしろ、私の心が少しばかり揺れたのは、事実だった。
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