この頃は母が倒れて一年が経ってました。 

 歩くことはもう絶望的で、家は狭小住宅なので、一階にベッドを置いたり、車椅子で動くスペースもありません。 

 私一人で面倒を見ることは、やはり無理だと感じました。 

 きっと、娘一人で親の介護をしてる人だっているだろうけど、こうして笑顔で接することはできないだろうなと。 

 それに頻繁に高熱を出しているので、その都度救急車を呼び環境を変えるのも、負担になるだろうし。

 薄情な娘だけど、その分足を運んで、アイスやケーキ、和菓子を一口ずつ食べさせてあげようと思いました。たまには、お寿司や鰻も。 

「家に帰りたい?」 

「私に家があるの?」
 自分の建てた家も忘れちゃってる。 

 母の面会には3日置きに行ってましたが、他の患者さんには殆ど面会って来てなかったな。 

 みんな仕事や家事、子育て、家で他にも面倒を見る親がいるのだろうし、家族で生活をしていると、時間を作るのは大変です。 

 それに、家に帰りたいって言われると辛いんだろうな。 


 有難いことに、駅からの送迎バスもあるので、交通費もそれほどかからないし、暫くは私自身ものんびりと過ごせた貴重な時期でした。

 面会帰りに一人で遅いランチをしたり、暑い日は家の電気代を浮かせるため、図書館に入り浸ったり、きちんと割り勘にして友達ともギクシャクする事もなく、毎月食事会を開いたり。 

 何事もなく、穏やかな日々が過ぎていきました。


 ところが、また私には災難が訪れたのです。

 忘れていた、あいつです。