私が精神科を退院して2週間。 

 母の心臓の定期検診で、他の病院まで一緒に移動です。 

 母は転院して4ヶ月ぶりの外気。私とお揃いのカーディガンを着て、介護タクシーの中ご機嫌でした。

 いつもはすっかり穏やかな母ですが、やはり待合室で長時間待たされるとソワソワとして目を吊り上げ、「早くしてよ!」と怒鳴り出します。 

 認知症特有の表情です。


 血液検査の結果が出て、診察室へ入りました。

 母の大好きだった循環器科の主治医が、 

「粥ママさぁーん!久しぶり。どう?俺のこと覚えてる?」 

 先生には母の症状を事前に話してあります。母は 

「あなた誰?覚えてない」 

 にべもなくツンと顔を背けます。 

 でも、検査の結果は驚くほど良好でした。

 毎年血管の手術をしていたくらいなのに、病院食が良かったのか血管がとてもキレイだと言ってくれました。

「すごく良くなってるよ!どこも悪くない」

 嬉しそうな主治医に 

「この人何言ってるの?全然わかんない」 

 母はつっけんどんに返します。

 ありゃりゃ、私は苦笑い。 


 脳梗塞を起こしてから、健康になるなんて……。

 何百人もこういう皮肉を診てきてるから、先生は口酸っぱく食事の制限をするのでしょう。 


  ランチをする場所も近くに無かったので、院内のコンビニで買い物をしました。 

 母が楽しそうに選んだのは、天ぷら蕎麦です。

 確かに病院で蕎麦は出ないからね。 

 看護師さんからは、食が細いと聞いてましたが、なんのなんの、テーブル席で「美味しいよ!」と、汁一滴残さずペロリと完食しました。

 外に出られて嬉しかったんだね。

 お寿司とか、鰻とか食べさせてあげたいな。

 それから暫くは、会いに行く度に「この前は楽しかったね」とお蕎麦の味を思い出してました。