入院、2ヶ月目に突入。 

 私はふと疑問を感じたんです。ベッドの空きがけっこうあるなって。 

 顔面神経麻痺の時は、コロナが蔓延してるから8日のところを5日で退院してくれないか?と言われたくらいなのに。 

 もしかして、ベッドを埋めるために入院を延ばしてるのかな?とか、憶測を巡らしたりして……。 

 でもある日、病室の外から先生と患者さんの話してる声が聞こえてきたのです。 

「貴女はね、本当は入院する必要ないんですよ!それは精神的な問題じゃなくて、性格に問題があるんです!」

 患者さんは「でも、でも」と言い返していたけど、先生はかなり強く、きっぱりとした口調でした。

 そりゃそうだよね?限度額以上は、大切な血税から賄って頂いてるわけだし、仮病やらベッドの都合で入退院を決めたりはしないか。 

どうかなぁー。 

うん、しない、しない。 

きっと、しないね。 


 患者同士の交流は禁じられていたので、あまり会話はありませんでした。ただ、1人同年代の方がいて「そろそろ保険の請求しなきゃ」と、言うんです。

「精神科でも保険って下りるの?」

「もちろん!私何回も貰ってるよ」

 知らなかった。だってうつ病とかって、保険入れないし。 

 じゃあ、母を誑かし私に乗せ替えさせた○○ぽ生命も請求できるのね? 


 時間が経つのはあっという間で、60日を過ぎようという頃、さすがに私も母に会いたいし、家の様子も気になるので退院したいと告げました。 

「いや、まだ早いよ」主治医からは相変わらずの反応。

 17万円の支払いを2ヶ月ともなると、懐も心細くなるし。そして結局、3ヶ月お世話になり「もう入院費が払えません」と告げ退院しました。


 本当にただ寛いで過ごしていただけ。怠けていただけ。 

 でも、退院してみて気付いたんです。

 入院前は、何か考えると深く陥って朝まで眠れなかったのに、退院する頃には何か悩んでも、10分も経つと『チーズの蕩けたピザ食べたいな』とか、もう別のことを考えているんです。 

 職場の辛い記憶も、毎日フラッシュバックしてくるけど、やっぱり10分経つと、今度どこへ行こうかな?とか。 

 嘘みたいに、気持ちの切り替えが出来るようになってました。 

 今まで、精神科の治療ってフワッとしたメンタルケアだとばかり思ってましたが、実はとても緻密で高度な医療なんだなって意識が変わりました。