母が穏やかになるにつれ、私は張り詰めていた気がすっかり緩んだのか、転んで足の指を骨折したり、二度も脚立から落ちて腰を打ったり、ボロボロでした。
顔面神経麻痺発症から半年、毎日が目まぐるしく過ぎて気がついたら定期検診すら忘れていたし。
ある時母から「あんた、入院はどうしたの?」と言われたんです。
そっか、そう言えば私も入院する予定だったんだ。よく覚えていたね。もう、自分の事なんて何も考えてなかったから忘れていた。
正直、初めての独り暮らしもあって長いこと熟睡もしてないし。なんだかどっと疲れが襲ってきて、キャンセルした病院に電話してみました。今ならベッドが空いていると言うので、コロナも落ち着き、母にお見舞いが続々と来てくれている今のうちに、私もひと休みしようと思いました。
もし母が回復して家に戻るようになったら、私には当分自由な時間はないだろうし。まだまだ先の事は何も解決してないけど、今だけ、ただベッドに埋もれて何も考えたくないと思って。
母と親戚、病院に事情を伝え、私も2週間程別の精神科に入院することになりました。
部屋中を掃除して、留守中の害虫対策にホイホイをたくさん仕掛け、排水口を全て塞ぎます。
大好きなコーンスープに、節約の為の麦茶のパックと水筒、味気無い病院食に添えるしそ昆布。携帯は持ち込めるそうですが、退屈しのぎにファイナンシャルプランナーのテキストを持っていきます。資格を取りたい訳じゃないけど、これから税金、保健、相続、年金、投資、不動産と覚えておくべきことがたくさん載っています。
お金はないけど、無駄に搾取されないためにね。
旅行気分で荷造りもなぜかワクワク。
朝早くに大荷物を持って満員電車に乗るのは大変なので、前日の夜から病院の最寄り駅にあるビジネスホテルに泊まることにしました。
大浴場で寛ぎ、大きなエビフライ定食にビール!
「うぃー!」
一人、休息の前夜祭を満喫して、心地良いベッドに潜り込みました。
2019年、母の心臓手術前日にも、二人で日本青年館ホテルに泊まりました。ガーリックシュリンプを食べて、温泉みたいな大浴場でゆっくりして、眼下に神宮球場を望む部屋で、試合の臨場感に大興奮!
この頃はまだ、東京オリンピックに向けて新国立競技場を建設している途中でした。
母は、これから手術なんて嘘みたい。最後にこんな楽しい思いができるなんて!と、大喜びでした。
命にかかわる手術だったので、死を覚悟していたそうです。
今思えば、その手術の2日前に、私は初めての顔面神経麻痺を発症してました。
あれから数年、母は脳梗塞で倒れるも再び命を取り留め、私は二度目の顔面神経麻痺……。
母の命と私の神経は、やっぱり繋がってるのかな?