免許の無い私には病院までの交通手段はタクシーしかありません。往復6000円は無職にはかなり痛い。

 母のリュックに有ったお金はこれからの入院費で消えちゃうし。 

 

待合室のソファでタクシーを待っていると、相談員の方が来ました。 

「あの、先程の先生の話の補足ですが」と。
控えめに私の隣にしゃがみこんで話しかけてくれます。 

「回復の可能性が低くても見離したり、家に返したりしませんよ。ここで回復しなければ、まだ他に方法があります。今の状態でご自宅に戻る事はありません。ご心配なさらないで下さい」 

 私の不安をちゃんと読み取ってくれてました。 

 涙が出そうでした。


 翌日の朝には、早速病院から電話が鳴りました。母が車イスから突然立ち上がろうとして転倒したそうです。幸い怪我は唇を切ったのみだったそうですが、やはり落ち着かない様子。

 看護師さんも、必死に謝ってくれましたが、本当に大変な仕事だな。
患者からあんなに理不尽に罵られても、身体張って尽くしてくれる。 

 尊いとはこういうことだ。 


 その後、電話は毎日のように鳴りました。物を投げたり、介護士さんに噛みついたり、夜中に廊下を這っていたり、他の患者さんが怖がっているそうです。 

 私も気の休まる日は1日も無かった。 

 病院から入る電話はクレームではなくて、『目を離した隙に転んでしまいました。すみません』と、謝罪の電話です。 

 謝らなければならないのは、こちらなのに。